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白い結婚⑵
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夜明け前、私はそうっと夫婦の寝室のドアを開けて中を覗き見る。
旦那様は一人、だだっ広いベッドの端っこでスヤスヤ寝ていた。
……結局この部屋で寝たんだ。肝が据わってるのか、何も考えていないのか……
多分後者だな、等と失礼な事を考えながら私はベッドに歩み寄る。
気持ち良さそうに寝ている所申し訳ないが、今私には取り急ぎ話し合ってやっておかなければいけない事があるのだ。
「旦那様、旦那様、起きて下さい」
耳元でそっと旦那様に囁く。
しかし、旦那様に起きる様子は一切無い。
この状況下でまさかの熟睡とは……実は肝が据わってる方なのかもしれない。
そんな事を考えながら、部屋の中をウロウロと歩き回るが、旦那様が起きる気配は無い。
仕方ない、下町風に起こすか。
そう決めると私は、容赦無く旦那様が敷いているシーツを引っ張った。
だだっ広いベッドの上をコロコロ転がる旦那様。
「おはようございまーす、ア・ナ・タ! ちょっと起きて下さいな!」
「うぉ!? うおぉぉ!? なんだ!?」
荒っぽい起こされ方に慣れていないのだろう。
旦那様はビックリして飛び上がる様に起きると、ベッドの端で目を丸くしている。何とか落下は免れた様だ。
「な、なんだお前か。なんだよ、まだ暗いじゃないか」
起こしたのが私だと気付くと、乱れたガウンの胸元や裾をササッと直す。乙女か。
「は、ははーん。さてはやはりマズイという事に気が付いて戻ってきたという訳だな?
そうだな、自分の立場をわきまえて私に従うと言うのなら……」
何だか勝手な解釈をしてペラペラ喋り出した旦那様に、また右手をスッと挙げる。
「条件を擦り合わせる為にも、事前確認をしておきたいのですが!!」
「は? 条件? 事前確認??」
「そうです。まずこの白い結婚に関する事なのですが」
「ちょ、待て待て待ておいおいおい……」
「私達の間だけでの秘密裏の事でしょうか? それとも公にする感じですか?」
それによって今後のやり方が変わって来るから、これだけは今夜のうちに聞いておかないといけなかったのだ。
「本来であれば伯爵家の当主夫妻が白い結婚であるなど隠すべき事なのですが、例えば、旦那様の愛人の方の手前『白い結婚を公にしておきたい』とか個別の事情があるかと思いまして」
「あ、あああああ愛人!??」
「そうです。あ、失礼しました。愛妾様とかお呼びした方が良かったですか?」
「お前は! 何を言っているんだ!! 私には愛人などいない!!」
「へ?」
今度は私がキョトンとしてしまう。
「え? 本当は私以外に愛するお方がいるのでは?
その方が事実上の妻として旦那様と生活を送り、私は形だけのお飾りの妻となる。
だからこそ、クリスティーナの代わりに私を嫁がせるなんて無茶な話を了承したのでしょう??
私ならどんな扱いをしようと公爵家から文句が出る事は無いから、旦那様にとっても都合が良かったのかと」
「お前……エゲツない事考えるな……」
エゲツないって。
この程度でエゲツないって、貴族社会のどぎついエグさを知らないのだろうか??
大丈夫? ちょっと世間知らず過ぎやしない? この坊ちゃん。
旦那様は湯気が噴き出しそうな程真っ赤な顔で『破廉恥な!!』とか『わたしがそんな不誠実な人間に見えるのか!?』とか言って騒いでるけど、誠実な人間は新婚初夜に花嫁にあんな事は言わんでしょうよ。
しかし旦那様、愛人いなかったのか。それは正直意外だな。
さっき思わず口走ってしまったが、私は旦那様には既に愛人がいて、だからこそこの婚姻を了承したのだと思っていたのだ。
え? ちょっと待ってじゃあこの人、自分には何の瑕疵も得もないのに平民育ちの私を娶ったって事!?
それはちょっと……どころではなく気の毒かもしれない……。
旦那様は一人、だだっ広いベッドの端っこでスヤスヤ寝ていた。
……結局この部屋で寝たんだ。肝が据わってるのか、何も考えていないのか……
多分後者だな、等と失礼な事を考えながら私はベッドに歩み寄る。
気持ち良さそうに寝ている所申し訳ないが、今私には取り急ぎ話し合ってやっておかなければいけない事があるのだ。
「旦那様、旦那様、起きて下さい」
耳元でそっと旦那様に囁く。
しかし、旦那様に起きる様子は一切無い。
この状況下でまさかの熟睡とは……実は肝が据わってる方なのかもしれない。
そんな事を考えながら、部屋の中をウロウロと歩き回るが、旦那様が起きる気配は無い。
仕方ない、下町風に起こすか。
そう決めると私は、容赦無く旦那様が敷いているシーツを引っ張った。
だだっ広いベッドの上をコロコロ転がる旦那様。
「おはようございまーす、ア・ナ・タ! ちょっと起きて下さいな!」
「うぉ!? うおぉぉ!? なんだ!?」
荒っぽい起こされ方に慣れていないのだろう。
旦那様はビックリして飛び上がる様に起きると、ベッドの端で目を丸くしている。何とか落下は免れた様だ。
「な、なんだお前か。なんだよ、まだ暗いじゃないか」
起こしたのが私だと気付くと、乱れたガウンの胸元や裾をササッと直す。乙女か。
「は、ははーん。さてはやはりマズイという事に気が付いて戻ってきたという訳だな?
そうだな、自分の立場をわきまえて私に従うと言うのなら……」
何だか勝手な解釈をしてペラペラ喋り出した旦那様に、また右手をスッと挙げる。
「条件を擦り合わせる為にも、事前確認をしておきたいのですが!!」
「は? 条件? 事前確認??」
「そうです。まずこの白い結婚に関する事なのですが」
「ちょ、待て待て待ておいおいおい……」
「私達の間だけでの秘密裏の事でしょうか? それとも公にする感じですか?」
それによって今後のやり方が変わって来るから、これだけは今夜のうちに聞いておかないといけなかったのだ。
「本来であれば伯爵家の当主夫妻が白い結婚であるなど隠すべき事なのですが、例えば、旦那様の愛人の方の手前『白い結婚を公にしておきたい』とか個別の事情があるかと思いまして」
「あ、あああああ愛人!??」
「そうです。あ、失礼しました。愛妾様とかお呼びした方が良かったですか?」
「お前は! 何を言っているんだ!! 私には愛人などいない!!」
「へ?」
今度は私がキョトンとしてしまう。
「え? 本当は私以外に愛するお方がいるのでは?
その方が事実上の妻として旦那様と生活を送り、私は形だけのお飾りの妻となる。
だからこそ、クリスティーナの代わりに私を嫁がせるなんて無茶な話を了承したのでしょう??
私ならどんな扱いをしようと公爵家から文句が出る事は無いから、旦那様にとっても都合が良かったのかと」
「お前……エゲツない事考えるな……」
エゲツないって。
この程度でエゲツないって、貴族社会のどぎついエグさを知らないのだろうか??
大丈夫? ちょっと世間知らず過ぎやしない? この坊ちゃん。
旦那様は湯気が噴き出しそうな程真っ赤な顔で『破廉恥な!!』とか『わたしがそんな不誠実な人間に見えるのか!?』とか言って騒いでるけど、誠実な人間は新婚初夜に花嫁にあんな事は言わんでしょうよ。
しかし旦那様、愛人いなかったのか。それは正直意外だな。
さっき思わず口走ってしまったが、私は旦那様には既に愛人がいて、だからこそこの婚姻を了承したのだと思っていたのだ。
え? ちょっと待ってじゃあこの人、自分には何の瑕疵も得もないのに平民育ちの私を娶ったって事!?
それはちょっと……どころではなく気の毒かもしれない……。
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