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胡乱な家令⑴
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こうして幕を上げた私のハミルトン伯爵家での暮らしは、想像以上に穏やかに過ぎて行った。
あれから何度か庭園に足を運んだが、残念ながらまだ精霊達には会えていない。正直精霊はかなり気まぐれなので、こればっかりはしょうがない。
そういえば、仲良しだった精霊達は母お手製のジャムがたっぷり乗ったクッキーが大好物で、焼いていると必ず現れていた。
コック長のハリスとは食事の時メニューについて話したりして少しずつ打ち解けて来たし、今度思い切ってクッキーが焼きたいと頼んでみようかな?
旦那様は律儀な性分の様で、なんだかんだと言いながら夕食はいつも私と一緒にとっている。
特に話が弾む事は無いが、意外と聞けば色々教えてくれる事が分かったので、領地の事や旦那様の事を機嫌を損ねない程度に聞き出していた。
「それでは、旦那様が領地へ行かれる事はあまり無いのですか?」
「ああ、特に必要性も無いからな。逆に私の研究は王都にいた方が都合が良いのだ」
詳しい事は知らないが、旦那様は学生時代に考古学に魅せられ、今でも個人的に研究を続けているらしい。
金持ちの道楽感が凄いのは偏見だろうか。
食後のお茶を飲みながら恒例となった情報収集に勤しんでいると、珍しくセバスチャンに声をかけられた。
「旦那様、マーカスが戻って参りました。定時報告があるそうですが、こちらに通しますか?」
「いや、執務室に通しておいてくれ。これを飲み終わったら、私がそちらへ行く」
素知らぬ顔で話を聞いていたアナスタシアは、しれっと会話に加わった。
「あら、家令のマーカスかしら? 旦那様、私まだマーカスと顔合わせが済んでませんのよ。折角なのでご一緒してもよろしいですか?」
アナスタシアの申し出に、ユージーンは軽く難色を示す。
恐らく伯爵家の運営にあまり関わらせたく無いという気持ちの現れだろう。
しかし、ここで引き下がるアナスタシアでは無い。表面上はあくまでニコニコと話を進めていく。
「ハミルトン伯爵領が豊かで素晴らしい所だという話はかねがね聞いていましたし、マーカスは旦那様が信頼してお仕事を任せている方なのでしょう? となれば、きっと立派な方に違いありませんわ。後学の為にも是非お話を聞いてみたいのです」
「まぁそうだな。伯爵領は豊富な資源にも恵まれているし、領民の気質も良い。マーカスは信頼に足る男で、領地運営の腕も確かだ」
「ええ、伯爵家の使用人の質は本当に素晴らしいです。これも代々の伯爵家御当主様の人徳がなせる技ですわね」
「ふん、お前に言われるまでも無い事だが、まぁその通りだ。……そうだな、よし。挨拶もまだなら話くらいは聞かせてやろう。セバス、やはりマーカスをこちらに呼んでくれ」
「……かしこまりました」
セバスチャンが何とも言えない表情で私をチラリと見てから苦笑する。
私も澄ました顔で紅茶を飲みながら、少しイタズラっぽく目配せをした。
この数日でセバスチャンとは大分打ち解けて来たし、マリーとはすっかり仲良しだ。
残念ながら他の使用人達とはまだそこまで交流を持てていないが、嫌味を言われたり嫌がらせをされる様な事も無い。
伯爵家の使用人の質が素晴らしいと言ったのは、紛れもない本心だった。
あれから何度か庭園に足を運んだが、残念ながらまだ精霊達には会えていない。正直精霊はかなり気まぐれなので、こればっかりはしょうがない。
そういえば、仲良しだった精霊達は母お手製のジャムがたっぷり乗ったクッキーが大好物で、焼いていると必ず現れていた。
コック長のハリスとは食事の時メニューについて話したりして少しずつ打ち解けて来たし、今度思い切ってクッキーが焼きたいと頼んでみようかな?
旦那様は律儀な性分の様で、なんだかんだと言いながら夕食はいつも私と一緒にとっている。
特に話が弾む事は無いが、意外と聞けば色々教えてくれる事が分かったので、領地の事や旦那様の事を機嫌を損ねない程度に聞き出していた。
「それでは、旦那様が領地へ行かれる事はあまり無いのですか?」
「ああ、特に必要性も無いからな。逆に私の研究は王都にいた方が都合が良いのだ」
詳しい事は知らないが、旦那様は学生時代に考古学に魅せられ、今でも個人的に研究を続けているらしい。
金持ちの道楽感が凄いのは偏見だろうか。
食後のお茶を飲みながら恒例となった情報収集に勤しんでいると、珍しくセバスチャンに声をかけられた。
「旦那様、マーカスが戻って参りました。定時報告があるそうですが、こちらに通しますか?」
「いや、執務室に通しておいてくれ。これを飲み終わったら、私がそちらへ行く」
素知らぬ顔で話を聞いていたアナスタシアは、しれっと会話に加わった。
「あら、家令のマーカスかしら? 旦那様、私まだマーカスと顔合わせが済んでませんのよ。折角なのでご一緒してもよろしいですか?」
アナスタシアの申し出に、ユージーンは軽く難色を示す。
恐らく伯爵家の運営にあまり関わらせたく無いという気持ちの現れだろう。
しかし、ここで引き下がるアナスタシアでは無い。表面上はあくまでニコニコと話を進めていく。
「ハミルトン伯爵領が豊かで素晴らしい所だという話はかねがね聞いていましたし、マーカスは旦那様が信頼してお仕事を任せている方なのでしょう? となれば、きっと立派な方に違いありませんわ。後学の為にも是非お話を聞いてみたいのです」
「まぁそうだな。伯爵領は豊富な資源にも恵まれているし、領民の気質も良い。マーカスは信頼に足る男で、領地運営の腕も確かだ」
「ええ、伯爵家の使用人の質は本当に素晴らしいです。これも代々の伯爵家御当主様の人徳がなせる技ですわね」
「ふん、お前に言われるまでも無い事だが、まぁその通りだ。……そうだな、よし。挨拶もまだなら話くらいは聞かせてやろう。セバス、やはりマーカスをこちらに呼んでくれ」
「……かしこまりました」
セバスチャンが何とも言えない表情で私をチラリと見てから苦笑する。
私も澄ました顔で紅茶を飲みながら、少しイタズラっぽく目配せをした。
この数日でセバスチャンとは大分打ち解けて来たし、マリーとはすっかり仲良しだ。
残念ながら他の使用人達とはまだそこまで交流を持てていないが、嫌味を言われたり嫌がらせをされる様な事も無い。
伯爵家の使用人の質が素晴らしいと言ったのは、紛れもない本心だった。
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