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恋とはどんなものかしら?

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 あの後。

 感極まって私を抱き締めてしまった(本人談)旦那様と変に旦那様を意識してしまった私は、

『おまえら思春期かよ……』

 と言う様なカクカクした有様で何とか会場に戻った。

 このままでは周りに変に思われないか心配したけど、いざ会場に戻ると旦那様は立派な伯爵様に戻っていたし、私の方も散々貴族教育で叩き込まれていただけあって、人前に出ると自然に伯爵夫人モードが発動した。

 ダンスも身体が覚えているので何とか踊れたし、最低限の社交もクリア出来ただろう。うん、努力は人を裏切らない。


 つ、つ、つ、疲れたー……


 ようやく会場から脱出し、馬車に乗った頃にはもうヘロヘロだった。
 でも、今日は仕方ないと思う。色々な事があり過ぎだ。

「アナ、大丈夫か? 疲れただろう。私にもたれて寝ていて良いからな」

 お言葉に甘えて、旦那様の肩にコテンと頭を乗せる。

 ……落ち着くんだよなー。
 
 思い返せば、私いつの間にこんな風に旦那様にくっついてると安心する様になっちゃったんだろう?

 更に言うと、実はダンスの時は何だか少しドキドキしたんだけど、今落ち着くのは何でだろう?

 ドキドキする時と、落ち着く時の違いは何?
 これは私は旦那様が好きなの? 違うの?

 わ、分からぬ……。

 ミシェルの書でさえ網羅し切れない難問に直面してしまった。

 ふと、自分の手のすぐ横に旦那様の手がある事に気が付いたので、試しにちょっと握ってみる。

 ふむ。

 私の手より大分大きい。
 剣を握ったり畑仕事をしたりしない旦那様の手はしなやかで綺麗だけど、やっぱり固くて筋張っていて、男の人の手なんだなって感じがする。
 
 きゅっと握ってみると、やっぱり少し固くて、でも何か安心して……何だろうこの感じ?

 私がそのまま旦那様の手をにぎにぎしていると、

『アナ、アナ』

 とカイヤに声を掛けられた。

『……もうやめてあげて。ユージーンが限界だよ』
「へ?」

 慌てて旦那様の方を見ると、旦那様が限界まで顔を窓の方に背けて変な姿勢になっていた。首まで真っ赤でブルブルしている。

 はっっっ! 

 我に返ると私の両手にはしっかりと旦那様の手が握られている。考え事をしながら随分と好き勝手に撫でくり回してしまった。

 ひいぃぃー! ご、ごめんなさい旦那様ー!!


『悪い女ですなぁ』
『天然ってコワイねー』

 うわーん! また俗世間化が進んでるよー!!





———そして、一夜明け。

 夜会の翌日は、何と起きるとお昼を過ぎていた。

 びっくりして飛び起きたけれど、夜会の次の日というのはそもそもそういう物らしい。わーお、背徳的!

 昨日の夜会では何か危険性を加味してほぼ飲まず食わずで過ごした為、起きた瞬間からお腹がぐーぐー言っている。

 昨日あれだけの目に遭っていながらこの図太さよ。

 我ながら笑ってしまうが、腹が減っては戦は出来ぬ。
 私がマリーに頼んで持って来てもらったカモミールティーとクロックムッシュを美味しく頂いていると、扉をノックする音が聞こえて来た。

「アナ、私だ。入っていいか?」

 旦那様だ。私が返事をすると、旦那様は一枚の紙を手に部屋へ入って来た。

「アレクサンダー殿から先触れがあった。予定通りに事が進んだから、夜はこちらに来れるそうだ」

 良かった! お義兄様の方も無事終わったんだ!

 私はほっとして旦那様を見たのだが、旦那様の顔には薄っすら隈が出来ている。

 昨日あの後、旦那様にもやらなければならない事があったのだろうか? 私だけのんきに寝て食べて申し訳ない。

「大丈夫ですか? 旦那様。お顔の色があまり優れませんが、きちんと睡眠とお食事は取られましたか?」
「ああ、大した事ではない。少し寝付けなくてな。アナは元気そうで良かった」
「はい! しっかり寝てしっかり食べると、割と大概の事は何とかなります!」
「そうか」

 私を見て嬉しそうに微笑む旦那様。

 うん、この平和な日常を失わなくて良かった。


 ……

 …………失ってないよね?

 私、どさくさに紛れて王太子投げ飛ばしたけど、あれもう何となくこのまま不問になる流れだよね? ね?

「それから、今夜の晩餐なのだが、アレクサンダー殿がカーミラ王女殿下も伴うそうだ」

 なんと!!

「非公式な訪問ゆえ特別な歓待は必要ないから、是非にと望まれたらしい。こちらとしては断るべくも無いのだが、アナはそれで大丈夫か?」
「勿論です。お義兄様と王女殿下がいらっしゃらなければ、正直どうなっていた事か。きちんとお礼も申し上げたいですわ」

 言葉は一言二言交わしただけだが、カーミラ王女殿下からはとても気さくな空気を感じた。
 こんな事を思うのは烏滸がましいのかもしれないが、何と言うか、仲良くなれそうな気がする。

 昨夜突然告げられた公爵令息を招いての晩餐にも動じなかった邸の使用人達も、流石に隣国の王女殿下をお迎えするとなるとおおわらわだった様だ。

 だが、そこは優秀なハミルトン伯爵家の使用人達。

 晩餐の時間までにはバシッと準備を整えてくれたのだった。
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