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虹と花びらのパレード
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いつもより早い時間に、何故だかふっと目が覚める。
ベッドから出てカーテンを開ければ丁度日が昇る位の時間で、朝焼けに染まる伯爵領の景色は言葉には表せられないほど綺麗だった。
今日は、いよいよ成婚記念パレードの日だ。
カーミラ王女殿下の協力もあり、精霊達のお洋服は昨日無事に完成した。今回は時間が無かった事もあり、ベースの型は同じ物で、色とワンポイントのアクセントでちょっと個性を出してみた。
フォスには、淡い薄荷色のシャツに元気なイメージのクロスタイ。
クンツには、薄桃色のシャツにちょっと可愛いリボンタイ。
カイヤには、鮮やかな青色のシャツに何だか賢そうなループタイ。
3人ともとても喜んでくれたので私も嬉しい。
『アナ、もしかしてもう起きているのか?』
扉の向こうの続きの間から旦那様の声がした。
私達は想いを伝え合ったわけだが、まぁその、まだ寝室は別のままだ。
きっかけが掴めないとか、お互いが奥手過ぎるとか、原因は複数あるが、多分……今日のパレードが節目になるとお互い思っているんだと思う。
「はい、おはようございます、旦那様。旦那様もお早いですね」
『ああ、何だか目が覚めてしまってな。こっちで一緒にお茶でもどうだ?』
旦那様に誘われて、いそいそ続きの間へと入って行く。
2人して早く目が覚めてしまうなんて、夫婦揃って遠足の日の子供みたいだな、とちょっと可笑しくなって2人で笑った。
朝食が済めば、すぐにパレードの準備に取り掛かる。
湯浴みをしてマッサージをして全身を磨きあげるこの工程は未だに慣れないけれど、あのドレスを最高の姿で着る為だと思えば少しも苦にならない。
領民達が一丸となって作り上げてくれた、世界でたった一つの旦那様の色のドレス。やっと領民のみんなにも見て貰えるんだと思うと嬉しくて仕方がないのだ。
領民達もとても楽しみにしてくれている様で、朝から街は大盛り上がりだ。
昨日、マリーに領民達の意識の変化を一過性の物で終わらせない為にはどうしたらいいと思うか相談したら、『既に一過性の物ではないと思いますよ』と笑って言ってくれた。
旦那様が街に現れた事ももちろんきっかけの一つだが、その後にドレス作りを通して色々な人達が協力しあった事が、街に活気をもたらす大きな要因になってくれたらしい。
『みんな、働く事の楽しさや達成感を覚えちゃったんですよ。私みたいに!』
そう言って笑うマリーを見ていると、伯爵領の未来も明るく感じた。
よし! じゃあ次は私は、税制改革についてでも考えるとしますか!
成婚パレードを控えた花嫁が考える事とは思えないけど、これも私らしくていいだろう。
「準備はいいか、アナ?」
「はい、旦那様」
使用人達が扉を大きく左右に開き、そこから私達が外へ足を踏み出すと、辺りは割れんばかりの歓声に包まれた。
2人笑顔で観衆に手を振り、旦那様のエスコートでパレード用の馬車に乗る。
『伯爵様ー!!』
『アナスタシア奥様ー!!』
観衆の中には見知った顔も混ざっていて、結構気恥ずかしい。
顔見知りの露店のおじさんに、ケーキ屋のトムさん。一緒に遊んだ子供達や若いママさんや、あっ! あっちにはエイダさんもいる!!
出来るだけ沢山の領民のみんなの顔を見ながら、一生懸命手を振った。
中には何故か泣いている人や、拝んでいるお年寄りもいてちょっと面白かったけど、みんなが喜んでくれているのが何より嬉しかった。
途中、迎賓館の前を通るルートでは、2階の観覧席からお義兄様とカーミラ王女殿下が手を振ってくれていた。
私も夢中で手を振り返す。
パレードの折り返し地点である広場まで馬車が着いた時、タイミングを見計らったかの様に空に虹が浮かんだ。
あまりのタイミングの良さに領民達は、『奇跡だ!』『神の祝福だ!』『さすが金色の女神様だ!!』と口々に盛り上がっていたけれど、実はこれは金色の女神ではなく、黒髪の女神とその契約精霊の仕業だと思う。
うーん、カーミラ王女殿下、粋な事をなさるなぁ。
私が感心しながら虹を眺めていると、今度はうちの精霊トリオを筆頭に、精霊達がわんさか集まって来た。
『『『アナ、ユージーン、おめでとー!』』』
キャッキャとはしゃぐ精霊達がみんな、示し合わせたかの様に両手を大きく広げると、辺り一面に大量の花びらがブワッと舞い上がる。
『え、凄い! これどうなってるの!?』
『フラワーシャワーだわ!』
『え、どこから!? 魔法みたい!』
領民達から驚きと喜びの声が溢れて来る。
「ははっ、これは凄いな!」
「ちょ、ちょっと、派手過ぎる様な……?」
嬉しそうな領民達とはしゃぐ精霊達を見るのは何よりも嬉しくて、私と旦那様は顔を見合わせるとみんなと一緒になって笑った。
こうして盛り上がりに盛り上がった広場を後にして、私と旦那様を乗せた馬車はまた違うルートを辿って今度は邸へと戻っていく。
この日のパレードは『虹と花びらのパレード』と呼ばれ、後に子供に大人気の絵本になる程有名な出来事となった。
ベッドから出てカーテンを開ければ丁度日が昇る位の時間で、朝焼けに染まる伯爵領の景色は言葉には表せられないほど綺麗だった。
今日は、いよいよ成婚記念パレードの日だ。
カーミラ王女殿下の協力もあり、精霊達のお洋服は昨日無事に完成した。今回は時間が無かった事もあり、ベースの型は同じ物で、色とワンポイントのアクセントでちょっと個性を出してみた。
フォスには、淡い薄荷色のシャツに元気なイメージのクロスタイ。
クンツには、薄桃色のシャツにちょっと可愛いリボンタイ。
カイヤには、鮮やかな青色のシャツに何だか賢そうなループタイ。
3人ともとても喜んでくれたので私も嬉しい。
『アナ、もしかしてもう起きているのか?』
扉の向こうの続きの間から旦那様の声がした。
私達は想いを伝え合ったわけだが、まぁその、まだ寝室は別のままだ。
きっかけが掴めないとか、お互いが奥手過ぎるとか、原因は複数あるが、多分……今日のパレードが節目になるとお互い思っているんだと思う。
「はい、おはようございます、旦那様。旦那様もお早いですね」
『ああ、何だか目が覚めてしまってな。こっちで一緒にお茶でもどうだ?』
旦那様に誘われて、いそいそ続きの間へと入って行く。
2人して早く目が覚めてしまうなんて、夫婦揃って遠足の日の子供みたいだな、とちょっと可笑しくなって2人で笑った。
朝食が済めば、すぐにパレードの準備に取り掛かる。
湯浴みをしてマッサージをして全身を磨きあげるこの工程は未だに慣れないけれど、あのドレスを最高の姿で着る為だと思えば少しも苦にならない。
領民達が一丸となって作り上げてくれた、世界でたった一つの旦那様の色のドレス。やっと領民のみんなにも見て貰えるんだと思うと嬉しくて仕方がないのだ。
領民達もとても楽しみにしてくれている様で、朝から街は大盛り上がりだ。
昨日、マリーに領民達の意識の変化を一過性の物で終わらせない為にはどうしたらいいと思うか相談したら、『既に一過性の物ではないと思いますよ』と笑って言ってくれた。
旦那様が街に現れた事ももちろんきっかけの一つだが、その後にドレス作りを通して色々な人達が協力しあった事が、街に活気をもたらす大きな要因になってくれたらしい。
『みんな、働く事の楽しさや達成感を覚えちゃったんですよ。私みたいに!』
そう言って笑うマリーを見ていると、伯爵領の未来も明るく感じた。
よし! じゃあ次は私は、税制改革についてでも考えるとしますか!
成婚パレードを控えた花嫁が考える事とは思えないけど、これも私らしくていいだろう。
「準備はいいか、アナ?」
「はい、旦那様」
使用人達が扉を大きく左右に開き、そこから私達が外へ足を踏み出すと、辺りは割れんばかりの歓声に包まれた。
2人笑顔で観衆に手を振り、旦那様のエスコートでパレード用の馬車に乗る。
『伯爵様ー!!』
『アナスタシア奥様ー!!』
観衆の中には見知った顔も混ざっていて、結構気恥ずかしい。
顔見知りの露店のおじさんに、ケーキ屋のトムさん。一緒に遊んだ子供達や若いママさんや、あっ! あっちにはエイダさんもいる!!
出来るだけ沢山の領民のみんなの顔を見ながら、一生懸命手を振った。
中には何故か泣いている人や、拝んでいるお年寄りもいてちょっと面白かったけど、みんなが喜んでくれているのが何より嬉しかった。
途中、迎賓館の前を通るルートでは、2階の観覧席からお義兄様とカーミラ王女殿下が手を振ってくれていた。
私も夢中で手を振り返す。
パレードの折り返し地点である広場まで馬車が着いた時、タイミングを見計らったかの様に空に虹が浮かんだ。
あまりのタイミングの良さに領民達は、『奇跡だ!』『神の祝福だ!』『さすが金色の女神様だ!!』と口々に盛り上がっていたけれど、実はこれは金色の女神ではなく、黒髪の女神とその契約精霊の仕業だと思う。
うーん、カーミラ王女殿下、粋な事をなさるなぁ。
私が感心しながら虹を眺めていると、今度はうちの精霊トリオを筆頭に、精霊達がわんさか集まって来た。
『『『アナ、ユージーン、おめでとー!』』』
キャッキャとはしゃぐ精霊達がみんな、示し合わせたかの様に両手を大きく広げると、辺り一面に大量の花びらがブワッと舞い上がる。
『え、凄い! これどうなってるの!?』
『フラワーシャワーだわ!』
『え、どこから!? 魔法みたい!』
領民達から驚きと喜びの声が溢れて来る。
「ははっ、これは凄いな!」
「ちょ、ちょっと、派手過ぎる様な……?」
嬉しそうな領民達とはしゃぐ精霊達を見るのは何よりも嬉しくて、私と旦那様は顔を見合わせるとみんなと一緒になって笑った。
こうして盛り上がりに盛り上がった広場を後にして、私と旦那様を乗せた馬車はまた違うルートを辿って今度は邸へと戻っていく。
この日のパレードは『虹と花びらのパレード』と呼ばれ、後に子供に大人気の絵本になる程有名な出来事となった。
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