ブラーデマーゲスの王宮占術師 ――神より夢に託されし、秘匿された未来――

山村久幸

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「近いといえば近いんだよなぁ。昔は五年先のことを占ったということもあったし」

 過去のことに思いをせつつ、先程の占いの結果を振り返るメンティス。

 そういう事例もあるのであれば、彼の言うことはご尤もなのだろう。


 占星の前に机の上に置いてあった紙。それを改めて見返してみる。

 二番目に書かれていた流星丶丶が来る日は確定した。

 ならば、三番目、四番目の内容もそれ以降だろう。

 一番目に書いたことについては、何も考えないことにした。


「あの洞窟、あの廃城について、もう少し調べるのも時間はたっぷりあるよなぁ」

 そうは言っても、どうやって調べるのであろうか。

 調べたところで、あの夢の事象に対処できるのであろうか。

 恐怖を回避するために何かをしなければならないのは確実だった。


「考えても仕方がないよね! うん」

 るより他なかった。だから、メンティスは軽く両手で自身のほほを叩く。

 静まり返った部屋にひびく軽快な音。

 どことなくかかえてしまった不安を掻き消す。その音は闇を打ちはらうものであった。


「そもそも、プラディに夢の内容を打ち明けるかどうか。それを決めるために占ったんだよねぇ」

 ふと目的を見失いそうになってしまう。

 しかし、闇が消えた状態の彼にかかれば、軌道修正することは容易いことであった。


 一体全体、どういう決断を下すというのであろうか。


「うーん。あれだけ時間の猶予があるということは、今伝えても覚えているのかなぁ?」

 ふと出された彼の疑問。確かにその通りである。

 人間、そこまで頭の出来はよろしくない。

 中には三年前に言われたことをいとも簡単に思い出すことができる人もいるのかも知れない。だが、そんなの一握ひとにぎり程度の天才だ。


「ならば、今、伝えることはやめよう。でも……でも、その日の朝に何かを言ってもばちは当たらないよね?」

 たった今、彼は決断を下した。

 陛下に伝えないこと。それは彼自身にめるものがまた一つ増えるということ。

 でも、そんな彼なりにいたずら心がムクリとき上がるのは仕方しかたのないことだった。


 一つの決断を胸に、メンティスは机の大きな引き出しからさらで高級感溢れる紙を数枚、羽ペン、インクびんを取り出した。

 インク瓶のふたを開け、羽ペンの先をインク瓶の中に突っ込む。

 暫くの間、インクを羽ペンに吸わせているようだ。

 インクをたっぷり吸ったはずの羽ペンの先が何故なぜ奇麗きれいなのは……。ああ、これもまた神々の奇跡。

 羽ペンを置き、インク瓶の蓋を閉める。


 それから彼は静かに羽ペンを手に取り、紙の上に走らせ始めた。

 最初に書くのは日付から。先程、女神イリスティーリアが提示した日付を紙の一番左上にサラサラっと書き記していく。


「ああ、これ。順番変えよう。二、三、四、一の順番にしよう」

 寝室で書いた紙。それを見て、はっと名案が浮かんだ。

 うんうんとうなずいて、また、ペンを走らせ始めた。


 メンティスがおだやかな表情でペンを走らせている姿を眺めること、暫し――。


「よし! できた!」

 清書した紙を見て、実に満足した表情を浮かべている彼。

 寝室で書いた内容と順序が異なるだけで、然程変わりはない。


 ――――――――――
 その日の朝は、国王陛下に一言こう告げよう。

「冬の星はいつも美しい。てつく風が吹こうとも、それは普遍ふへんのことだね」
 ――――――――――


 清書された一番目の項目の末尾には、こう追記されていた。

 彼なりのいたずら心だろう。

 そして、それはごく自然な誘導ゆうどうであろう。


「っと、こっちの紙にも追記しておこう」

 ふと、何かを思い出したように、寝室で書いた紙にペンを走らせ始めた。

 ああ、どうやら、星が丶丶二つ丶丶流れる日丶丶丶丶を追記しただけだったらしい。


 寝室で書いた紙は何時いつでも何処どこでも見られる用のものなのだろう。だから、追記したのだろう。

 フーフーッと息を吹きかけて、インクを乾かす。

 乾いたと見るや、たたんで上着の内ポケットの中に仕舞しまい込んだ。


「じゃあ、これを冊子さっしじようか」

 清書した紙の余白――下の部分を左手で持ったメンティス。

 彼は徐に席を立つ。

 彼の表情は心なしか明るい。

 軽妙な鼻歌が聞こえる。


 そのまま、奥の部屋へと消えていった。

 静けさが秘儀の間を包む。


 彼に待ち受ける運命。

 建国間もない、この国に待ち受ける運命。

 まだ、誰も知らない。


 これからの三年。それはただ、嵐の前の静けさ――。


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