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1章【我が家に天使がやって来た】
※アクセル・ウェルズ副団長
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半年に及ぶ遠征から帰還したばかりのアクセル・ウェルズ騎士団副団長は自分の邸へ戻り執務室へ入って直ぐに机の上に積まれた釣書の山を見て溜息を吐いた。
『飽きもせずに良く送られてくる』
この国では成人が18なので20才のアクセルは正に男盛りと言って良い。
騎士団の副団長の職に就いて三年、彼が持つ魔力量も多くいくつかの功績をあげてきた話題の人でもある。
その上王弟の嫡子で美丈夫となれば見合いの申し込みも後を絶たない訳だ。
しかし当人は結婚に関してそれ程興味を示していない。人付き合いと面倒なことが嫌いで独り身の方が気楽と考えていたので自然と不愛想になり人を寄せ付けないオーラを放っていた。それがまたご令嬢たちにとっては余計に惹かれる部分だったりもするのだが。
湯あみを済ませ長い遠征で疲れきしむ身体をベッドに投げ出す。
◇◇◇
「おはようございます。アクセル坊ちゃま」
執事のトーマスに声を掛けられ重い瞼を開いた彼は野営のテント幕の中ではない事に気付き安堵した。
「おはよう、トーマス」
「朝食はどうなさいますか?」
「まだ身体が慣れないからコーヒーだけ頼む」
「畏まりました。お部屋にお持ち致します」
トーマスが部屋を出て行くと重い身体を起こし傷だらけの逞しい身体にガウンを羽織り顔を洗いに行く。
そのままの姿でバルコニーに出て眼下に広がる城下を見つめていた。
『平和だな』
遠征先の町は悲惨な状態だった。
幾つかの村を襲った盗賊たちが結託し盗賊団となり荒らし回っていたのだ。窃盗だけならまだしも女を攫い他国へ売り飛ばすという人身売買まで手を染めていた。
近隣の町から警備隊が集められ討伐に向かったが窃盗団の中には隣国から流れて来た傭兵もいたため一筋縄とはいかず王都から騎士団を向かわせ制圧させたのである。
アクセルは五十名の騎士団を率いり討伐に向かった。広範囲に分散した窃盗団は傭兵の戦い方を仕込まれていていたので只の討伐ではなく戦のような戦略を強いられ追い詰めて叩き潰すのに半年を要した。騎士団も警備隊もみなボロボロだった。
もう一度城下を見下ろしたところでトーマスがコーヒーを持って戻って来た。
ソファーに腰を下ろす。
ポットからコーヒーをカップに注ぐ所作が美しい。
ソーサーに乗せられたカップがすっと目の前に置かれ次に頼んでいない一口サイズのサンドイッチが出された。
「何かお腹に入れませんと」
そう言って微笑む。
彼は王弟である父の代からの優秀な執事なのだ。
「騎士団に向かいに団長に報告を済ませてくる。遅くはならないと思うから夕飯は邸で取る」
「畏まりました。ジャンが喜びます」
「半年ぶりのジャンの料理だ。期待していると言ってくれ」
「はい」
遠征ではろくなものを口にしていない。山の中で数日間過ごす事もあった。
ゆっくりと時間を掛けて食事するのは本当に久しぶりだ。
今から夕餉が楽しみになって来た。
薄っすらと笑みを浮かべながらアクセルは騎士服に着替えたのだった。
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※初回次話を連続投稿いたします。引き続き宜しくお願い致します。
『飽きもせずに良く送られてくる』
この国では成人が18なので20才のアクセルは正に男盛りと言って良い。
騎士団の副団長の職に就いて三年、彼が持つ魔力量も多くいくつかの功績をあげてきた話題の人でもある。
その上王弟の嫡子で美丈夫となれば見合いの申し込みも後を絶たない訳だ。
しかし当人は結婚に関してそれ程興味を示していない。人付き合いと面倒なことが嫌いで独り身の方が気楽と考えていたので自然と不愛想になり人を寄せ付けないオーラを放っていた。それがまたご令嬢たちにとっては余計に惹かれる部分だったりもするのだが。
湯あみを済ませ長い遠征で疲れきしむ身体をベッドに投げ出す。
◇◇◇
「おはようございます。アクセル坊ちゃま」
執事のトーマスに声を掛けられ重い瞼を開いた彼は野営のテント幕の中ではない事に気付き安堵した。
「おはよう、トーマス」
「朝食はどうなさいますか?」
「まだ身体が慣れないからコーヒーだけ頼む」
「畏まりました。お部屋にお持ち致します」
トーマスが部屋を出て行くと重い身体を起こし傷だらけの逞しい身体にガウンを羽織り顔を洗いに行く。
そのままの姿でバルコニーに出て眼下に広がる城下を見つめていた。
『平和だな』
遠征先の町は悲惨な状態だった。
幾つかの村を襲った盗賊たちが結託し盗賊団となり荒らし回っていたのだ。窃盗だけならまだしも女を攫い他国へ売り飛ばすという人身売買まで手を染めていた。
近隣の町から警備隊が集められ討伐に向かったが窃盗団の中には隣国から流れて来た傭兵もいたため一筋縄とはいかず王都から騎士団を向かわせ制圧させたのである。
アクセルは五十名の騎士団を率いり討伐に向かった。広範囲に分散した窃盗団は傭兵の戦い方を仕込まれていていたので只の討伐ではなく戦のような戦略を強いられ追い詰めて叩き潰すのに半年を要した。騎士団も警備隊もみなボロボロだった。
もう一度城下を見下ろしたところでトーマスがコーヒーを持って戻って来た。
ソファーに腰を下ろす。
ポットからコーヒーをカップに注ぐ所作が美しい。
ソーサーに乗せられたカップがすっと目の前に置かれ次に頼んでいない一口サイズのサンドイッチが出された。
「何かお腹に入れませんと」
そう言って微笑む。
彼は王弟である父の代からの優秀な執事なのだ。
「騎士団に向かいに団長に報告を済ませてくる。遅くはならないと思うから夕飯は邸で取る」
「畏まりました。ジャンが喜びます」
「半年ぶりのジャンの料理だ。期待していると言ってくれ」
「はい」
遠征ではろくなものを口にしていない。山の中で数日間過ごす事もあった。
ゆっくりと時間を掛けて食事するのは本当に久しぶりだ。
今から夕餉が楽しみになって来た。
薄っすらと笑みを浮かべながらアクセルは騎士服に着替えたのだった。
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