1 / 51
1章【我が家に天使がやって来た】
※アクセル・ウェルズ副団長
しおりを挟む
半年に及ぶ遠征から帰還したばかりのアクセル・ウェルズ騎士団副団長は自分の邸へ戻り執務室へ入って直ぐに机の上に積まれた釣書の山を見て溜息を吐いた。
『飽きもせずに良く送られてくる』
この国では成人が18なので20才のアクセルは正に男盛りと言って良い。
騎士団の副団長の職に就いて三年、彼が持つ魔力量も多くいくつかの功績をあげてきた話題の人でもある。
その上王弟の嫡子で美丈夫となれば見合いの申し込みも後を絶たない訳だ。
しかし当人は結婚に関してそれ程興味を示していない。人付き合いと面倒なことが嫌いで独り身の方が気楽と考えていたので自然と不愛想になり人を寄せ付けないオーラを放っていた。それがまたご令嬢たちにとっては余計に惹かれる部分だったりもするのだが。
湯あみを済ませ長い遠征で疲れきしむ身体をベッドに投げ出す。
◇◇◇
「おはようございます。アクセル坊ちゃま」
執事のトーマスに声を掛けられ重い瞼を開いた彼は野営のテント幕の中ではない事に気付き安堵した。
「おはよう、トーマス」
「朝食はどうなさいますか?」
「まだ身体が慣れないからコーヒーだけ頼む」
「畏まりました。お部屋にお持ち致します」
トーマスが部屋を出て行くと重い身体を起こし傷だらけの逞しい身体にガウンを羽織り顔を洗いに行く。
そのままの姿でバルコニーに出て眼下に広がる城下を見つめていた。
『平和だな』
遠征先の町は悲惨な状態だった。
幾つかの村を襲った盗賊たちが結託し盗賊団となり荒らし回っていたのだ。窃盗だけならまだしも女を攫い他国へ売り飛ばすという人身売買まで手を染めていた。
近隣の町から警備隊が集められ討伐に向かったが窃盗団の中には隣国から流れて来た傭兵もいたため一筋縄とはいかず王都から騎士団を向かわせ制圧させたのである。
アクセルは五十名の騎士団を率いり討伐に向かった。広範囲に分散した窃盗団は傭兵の戦い方を仕込まれていていたので只の討伐ではなく戦のような戦略を強いられ追い詰めて叩き潰すのに半年を要した。騎士団も警備隊もみなボロボロだった。
もう一度城下を見下ろしたところでトーマスがコーヒーを持って戻って来た。
ソファーに腰を下ろす。
ポットからコーヒーをカップに注ぐ所作が美しい。
ソーサーに乗せられたカップがすっと目の前に置かれ次に頼んでいない一口サイズのサンドイッチが出された。
「何かお腹に入れませんと」
そう言って微笑む。
彼は王弟である父の代からの優秀な執事なのだ。
「騎士団に向かいに団長に報告を済ませてくる。遅くはならないと思うから夕飯は邸で取る」
「畏まりました。ジャンが喜びます」
「半年ぶりのジャンの料理だ。期待していると言ってくれ」
「はい」
遠征ではろくなものを口にしていない。山の中で数日間過ごす事もあった。
ゆっくりと時間を掛けて食事するのは本当に久しぶりだ。
今から夕餉が楽しみになって来た。
薄っすらと笑みを浮かべながらアクセルは騎士服に着替えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※初回次話を連続投稿いたします。引き続き宜しくお願い致します。
『飽きもせずに良く送られてくる』
この国では成人が18なので20才のアクセルは正に男盛りと言って良い。
騎士団の副団長の職に就いて三年、彼が持つ魔力量も多くいくつかの功績をあげてきた話題の人でもある。
その上王弟の嫡子で美丈夫となれば見合いの申し込みも後を絶たない訳だ。
しかし当人は結婚に関してそれ程興味を示していない。人付き合いと面倒なことが嫌いで独り身の方が気楽と考えていたので自然と不愛想になり人を寄せ付けないオーラを放っていた。それがまたご令嬢たちにとっては余計に惹かれる部分だったりもするのだが。
湯あみを済ませ長い遠征で疲れきしむ身体をベッドに投げ出す。
◇◇◇
「おはようございます。アクセル坊ちゃま」
執事のトーマスに声を掛けられ重い瞼を開いた彼は野営のテント幕の中ではない事に気付き安堵した。
「おはよう、トーマス」
「朝食はどうなさいますか?」
「まだ身体が慣れないからコーヒーだけ頼む」
「畏まりました。お部屋にお持ち致します」
トーマスが部屋を出て行くと重い身体を起こし傷だらけの逞しい身体にガウンを羽織り顔を洗いに行く。
そのままの姿でバルコニーに出て眼下に広がる城下を見つめていた。
『平和だな』
遠征先の町は悲惨な状態だった。
幾つかの村を襲った盗賊たちが結託し盗賊団となり荒らし回っていたのだ。窃盗だけならまだしも女を攫い他国へ売り飛ばすという人身売買まで手を染めていた。
近隣の町から警備隊が集められ討伐に向かったが窃盗団の中には隣国から流れて来た傭兵もいたため一筋縄とはいかず王都から騎士団を向かわせ制圧させたのである。
アクセルは五十名の騎士団を率いり討伐に向かった。広範囲に分散した窃盗団は傭兵の戦い方を仕込まれていていたので只の討伐ではなく戦のような戦略を強いられ追い詰めて叩き潰すのに半年を要した。騎士団も警備隊もみなボロボロだった。
もう一度城下を見下ろしたところでトーマスがコーヒーを持って戻って来た。
ソファーに腰を下ろす。
ポットからコーヒーをカップに注ぐ所作が美しい。
ソーサーに乗せられたカップがすっと目の前に置かれ次に頼んでいない一口サイズのサンドイッチが出された。
「何かお腹に入れませんと」
そう言って微笑む。
彼は王弟である父の代からの優秀な執事なのだ。
「騎士団に向かいに団長に報告を済ませてくる。遅くはならないと思うから夕飯は邸で取る」
「畏まりました。ジャンが喜びます」
「半年ぶりのジャンの料理だ。期待していると言ってくれ」
「はい」
遠征ではろくなものを口にしていない。山の中で数日間過ごす事もあった。
ゆっくりと時間を掛けて食事するのは本当に久しぶりだ。
今から夕餉が楽しみになって来た。
薄っすらと笑みを浮かべながらアクセルは騎士服に着替えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※初回次話を連続投稿いたします。引き続き宜しくお願い致します。
12
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました
ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。
けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる