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2章【学院生活と加護の目覚め】
※親友と髪飾り
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翌日は一応休みを取り翌々日ヴィヴィを護衛しながら登校すると門の所に立つ門番の他に衛兵が増えていた。
陛下からの指示と思われる。
学院長にも学生たちがヴィヴィアンを特別視しないように配慮させるよう通達が行っている筈だ。
付かず離れず様子を伺っていると好奇な目で見てくる学生もいたが、クラスメイトは以前と変わらぬ態度で接してくれているようで安心した。
ところが午後の授業が別のクラスと合同で魔術訓練場で魔法の授業を受けている際にそれは起きた。
学生の一人が火魔法で謝って火傷をしてしまった。
別のクラスの男子であったがヴィヴィの所へ来て【治癒の加護】で治してみろと言ってきたのだ。
どう見ても大した火傷ではなく冷やして薬を塗って置けば傷跡も残らない程度の火傷。
ヴィヴィが困った様子でいると親友である伯爵令嬢のマリンが二人の間に割って入り意見をした。
「その程度の火傷でしたら唾でもお付けになっていれば治りますわよ。ヴィヴィアン様のお力を無駄にお使いになる事はありませんわ。とっとと医務室にお行きなさい!」
言い返そうとした男子を彼の友人が止める。
他の学生も彼が冷やかし半分でヴィヴィアンに絡んで来たと分っていたので誰れも口出しはしない。
周りからも白い目で見られ黙ってしまった男爵家の男子を友人の一人がヴィヴィアンに一礼し、医務室へと引きずるようにして連れ行った。
どうやら学院内では守ってくれる友人もいる。
下校の際、マリン嬢にその時の礼を言うと彼女は恥ずかしそうに
「ヴィヴィアン様の事が好きですから当然の事をしたまでです」
と顔を赤らめたのだった。
王城での初等教育から一緒に過ごしてきたマリンは頼りになる親友のようだ。
これからもよろしくというと
「お任せください。わたくしヴィヴィアン様をお守りいたします」
と胸を張って答えられてしまう。
何故かライバルが一人増えたような気がした。
【治癒の加護持ち】がモントレー公爵家の養女であると分かると人々はヴィヴィの事を一目見たいと思うようになる。
馬車の紋章を見つけた人々の視線が集中してくるのが分かり登下校の間はカーテンを閉めてはいるが何となくヴィヴィも落ち着かない様子だった。
紋章無しの馬車にしましょうか?
母上がヴィヴィのストレスを懸念して言ってくれたがそれは駄目だと父が反対した。
これから先注目を浴びる事は多々出て来る。
それを気にしていたら身を隠さなければならなくなる。堂々としていろ。
父に言われヴィヴィも「はい」としっかりと口調で答えていた。
それでもしばらくの間は街へ出る事も控え学院への往復だけの生活が続いたが次第に世間も落ち着きヴィヴィは通常の生活が出来るようになってきた。
元々この国は医者の少し上の立場で治癒師と云うものがいる。
数は少ないが彼らは魔力を持っており神殿から教会に定期的に赴き重症の患者を治療している。
流石にヴィヴィの様に完全に治すことは出来ないが、病人に魔力を流し生命力を高め完治に導くのだ。
彼らがいてくれる為モントレー公爵家へ無理に駆け込んでくる者もいないのである。
多分ヴィヴィの場合は治癒に再生や浄化も含まれるために瘴気などが現れた時に必要とされるのではないかと思われた。
◇◇◇
学院生活で暫くは遠巻きに見られていたヴィヴィも今は普通に接して貰えている。
元々目立つ容姿なので男子生徒に声を掛けられることも多々あったが最近は男女問わず上級生からもランチの誘いを受けるようになってきた。
護衛に徹し離れて見ている俺は気が気ではないが学生同士の付き合いも今でしか経験できないのだからと目を瞑る事にした。
ヴィヴィの隣にはいつもマリン嬢という強力な助っ人がいるのでそれほど気にしている様子はなく、学院生活を謳歌しているみたいだ。
世間の目も気にならなくなってきたから久しぶりに城下でも散歩するか。
その日の帰り俺はヴィヴィに寄り道を持ち掛け独り占めのデートを楽しんだ。
小物や雑貨を売る店のウィンドウの前でヴィヴィが足を止める。
何やらじっと見ているようで後ろから覗き込むと銀細工の髪飾りだった。それには三粒のターコイズが付いている。
ヴィヴィが振り向き俺の顔を覗き込む。
「ん、気に入ったのか?欲しいなら買ってやるぞ」
「いいの?ほらコレ、アクセル様の瞳に近い色の石が付いてるの。でもアクセル様の瞳はもう少し濃くて透き通った感じかな?」
「俺の……瞳の色か」
自分の瞳の色の石に見入っていたと知って心臓がドクリと跳ねた。恋人や婚約者に自分の瞳の色の装飾品を贈るのは相手への独占欲の象徴のような物で勿論今まで誰にも送った事は無い。
ヴィヴィの誕生日には花とぬいぐるみなどをプレゼントしてきたがこう云った類のものは贈っていなかった。
「よし、プレゼントするから中に入ろう」
ヴィヴィの手を引き店内に入ると店員にウィンドウの髪飾りを持って来させた。
「騎士様の瞳のお色ですね。お嬢さまの髪のお色に良くお似合いだと思います」
勢いで入ってしまったものの改めて店員に言われ急に恥ずかしくなってしまったがそこは大人の男だ。冷静を装う。
「ここで付けるので包まなくて構わない」
「はい、分かりました」
店員は微笑みながら丁寧に髪飾りを布で磨き俺に手渡す。
ヴィヴィの後ろに回りハーフアップされている髪にぎこちない手つきで止めているとヴィヴィの耳が赤く染まっていくのが見え一瞬手が震えてしまう。
「とってもお似合いですわ~」
店員に鏡を宛てて貰いそれを見て嬉しそうにヴィヴィが微笑む。
銀の髪に銀細工なので髪飾り本体はそれ程目立たないがその上でターコイズブルーの三個の石が浮き出るように輝いていた。
支払いを済ませ外へ出ると繋いだ手をぎゅっと握って来るヴィヴィ。
「何だか押し付けたみたいになってしまったな」
勢いに任せて贈ってしまった事に少し照れと反省を込めた。
「押し付けたなんて、そんな事ないです!すごく嬉しい♪」
「そ、そうか。なら良かった」
「はい、ありがとうございますアクセル様」
俺はヴィヴィの手を握り返し少し早足で馬車へと向かう。
すれ違う女性が俺の顔を見てなぜか赤くなっていた。ヴィヴィからは見えないがきっとニヤケただらしない顔を晒していたのだと思う。
―――はは、構うものか。
俺は今、自分の瞳の色の髪飾りを付けた少女を隣に幸せな気分で一杯なのだから。
____________________________
※明日は文化の日ですので朝夕2回の更新をしたいと思っています。
宜しくお願い致します。
陛下からの指示と思われる。
学院長にも学生たちがヴィヴィアンを特別視しないように配慮させるよう通達が行っている筈だ。
付かず離れず様子を伺っていると好奇な目で見てくる学生もいたが、クラスメイトは以前と変わらぬ態度で接してくれているようで安心した。
ところが午後の授業が別のクラスと合同で魔術訓練場で魔法の授業を受けている際にそれは起きた。
学生の一人が火魔法で謝って火傷をしてしまった。
別のクラスの男子であったがヴィヴィの所へ来て【治癒の加護】で治してみろと言ってきたのだ。
どう見ても大した火傷ではなく冷やして薬を塗って置けば傷跡も残らない程度の火傷。
ヴィヴィが困った様子でいると親友である伯爵令嬢のマリンが二人の間に割って入り意見をした。
「その程度の火傷でしたら唾でもお付けになっていれば治りますわよ。ヴィヴィアン様のお力を無駄にお使いになる事はありませんわ。とっとと医務室にお行きなさい!」
言い返そうとした男子を彼の友人が止める。
他の学生も彼が冷やかし半分でヴィヴィアンに絡んで来たと分っていたので誰れも口出しはしない。
周りからも白い目で見られ黙ってしまった男爵家の男子を友人の一人がヴィヴィアンに一礼し、医務室へと引きずるようにして連れ行った。
どうやら学院内では守ってくれる友人もいる。
下校の際、マリン嬢にその時の礼を言うと彼女は恥ずかしそうに
「ヴィヴィアン様の事が好きですから当然の事をしたまでです」
と顔を赤らめたのだった。
王城での初等教育から一緒に過ごしてきたマリンは頼りになる親友のようだ。
これからもよろしくというと
「お任せください。わたくしヴィヴィアン様をお守りいたします」
と胸を張って答えられてしまう。
何故かライバルが一人増えたような気がした。
【治癒の加護持ち】がモントレー公爵家の養女であると分かると人々はヴィヴィの事を一目見たいと思うようになる。
馬車の紋章を見つけた人々の視線が集中してくるのが分かり登下校の間はカーテンを閉めてはいるが何となくヴィヴィも落ち着かない様子だった。
紋章無しの馬車にしましょうか?
母上がヴィヴィのストレスを懸念して言ってくれたがそれは駄目だと父が反対した。
これから先注目を浴びる事は多々出て来る。
それを気にしていたら身を隠さなければならなくなる。堂々としていろ。
父に言われヴィヴィも「はい」としっかりと口調で答えていた。
それでもしばらくの間は街へ出る事も控え学院への往復だけの生活が続いたが次第に世間も落ち着きヴィヴィは通常の生活が出来るようになってきた。
元々この国は医者の少し上の立場で治癒師と云うものがいる。
数は少ないが彼らは魔力を持っており神殿から教会に定期的に赴き重症の患者を治療している。
流石にヴィヴィの様に完全に治すことは出来ないが、病人に魔力を流し生命力を高め完治に導くのだ。
彼らがいてくれる為モントレー公爵家へ無理に駆け込んでくる者もいないのである。
多分ヴィヴィの場合は治癒に再生や浄化も含まれるために瘴気などが現れた時に必要とされるのではないかと思われた。
◇◇◇
学院生活で暫くは遠巻きに見られていたヴィヴィも今は普通に接して貰えている。
元々目立つ容姿なので男子生徒に声を掛けられることも多々あったが最近は男女問わず上級生からもランチの誘いを受けるようになってきた。
護衛に徹し離れて見ている俺は気が気ではないが学生同士の付き合いも今でしか経験できないのだからと目を瞑る事にした。
ヴィヴィの隣にはいつもマリン嬢という強力な助っ人がいるのでそれほど気にしている様子はなく、学院生活を謳歌しているみたいだ。
世間の目も気にならなくなってきたから久しぶりに城下でも散歩するか。
その日の帰り俺はヴィヴィに寄り道を持ち掛け独り占めのデートを楽しんだ。
小物や雑貨を売る店のウィンドウの前でヴィヴィが足を止める。
何やらじっと見ているようで後ろから覗き込むと銀細工の髪飾りだった。それには三粒のターコイズが付いている。
ヴィヴィが振り向き俺の顔を覗き込む。
「ん、気に入ったのか?欲しいなら買ってやるぞ」
「いいの?ほらコレ、アクセル様の瞳に近い色の石が付いてるの。でもアクセル様の瞳はもう少し濃くて透き通った感じかな?」
「俺の……瞳の色か」
自分の瞳の色の石に見入っていたと知って心臓がドクリと跳ねた。恋人や婚約者に自分の瞳の色の装飾品を贈るのは相手への独占欲の象徴のような物で勿論今まで誰にも送った事は無い。
ヴィヴィの誕生日には花とぬいぐるみなどをプレゼントしてきたがこう云った類のものは贈っていなかった。
「よし、プレゼントするから中に入ろう」
ヴィヴィの手を引き店内に入ると店員にウィンドウの髪飾りを持って来させた。
「騎士様の瞳のお色ですね。お嬢さまの髪のお色に良くお似合いだと思います」
勢いで入ってしまったものの改めて店員に言われ急に恥ずかしくなってしまったがそこは大人の男だ。冷静を装う。
「ここで付けるので包まなくて構わない」
「はい、分かりました」
店員は微笑みながら丁寧に髪飾りを布で磨き俺に手渡す。
ヴィヴィの後ろに回りハーフアップされている髪にぎこちない手つきで止めているとヴィヴィの耳が赤く染まっていくのが見え一瞬手が震えてしまう。
「とってもお似合いですわ~」
店員に鏡を宛てて貰いそれを見て嬉しそうにヴィヴィが微笑む。
銀の髪に銀細工なので髪飾り本体はそれ程目立たないがその上でターコイズブルーの三個の石が浮き出るように輝いていた。
支払いを済ませ外へ出ると繋いだ手をぎゅっと握って来るヴィヴィ。
「何だか押し付けたみたいになってしまったな」
勢いに任せて贈ってしまった事に少し照れと反省を込めた。
「押し付けたなんて、そんな事ないです!すごく嬉しい♪」
「そ、そうか。なら良かった」
「はい、ありがとうございますアクセル様」
俺はヴィヴィの手を握り返し少し早足で馬車へと向かう。
すれ違う女性が俺の顔を見てなぜか赤くなっていた。ヴィヴィからは見えないがきっとニヤケただらしない顔を晒していたのだと思う。
―――はは、構うものか。
俺は今、自分の瞳の色の髪飾りを付けた少女を隣に幸せな気分で一杯なのだから。
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※明日は文化の日ですので朝夕2回の更新をしたいと思っています。
宜しくお願い致します。
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