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4章【隠せぬ欲望】

※落ち込むアクセル

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 嗅がされた薬が少なかったおかげでヴィヴィの意識は三十分ほどで回復した。
 恐怖でまた泣き出してしまうのではないかと心配したが、落ち着いた様子でマリン嬢とシスターが入れてくれたハーブティーを飲んでいる。

「大丈夫か?けがはしてないのか?」
 ヴィヴィの足元に膝をついて様子を伺えば彼女はコクンと頷いて俺の手を取った。

「教会内でヴィヴィを誘拐しようなんて許せませんわ。誰に頼まれたのでしょうか?」
「それはこれから分かるだろう」
「でも・・・わたくしが一緒にクッキーを取りに行っていれば・・・」
「マリン・・・」
 ヴィヴィは掴んでいた俺の手を離して、隣に座り罪悪感で俯くマリン嬢を抱き締めた。
「ヴィヴィ・・・」
 マリン嬢は悔しそうに持っていたハンカチを握りしめている。

「ああ、マリン嬢は悪くない。護衛としての役目を果たせなかった俺の責任だ」
「ううん、誰も悪くありません。私が油断していたんです」

 不思議だった。
 誘拐されそうになったというのにヴィヴィは怯える様子もなく、マリン嬢の背中を摩りながら落ち込む彼女を反対に慰めているのだ。

 コツコツ。ノックの音が響き「入るよ」と声を掛けエリオス騎士団長が入って来た。

「ヴィヴィアンちゃん誘拐されそうになったんだって?あー無事で良かった」
「団長さん。アクセル様に守っていただけましたので」
「そうか、でもちょっと失態だよな、アクセル?」
「・・・はい。専属護衛でありながら一瞬でも目を離すという失態を犯しました。もう少し遅れていたらヴィヴィは連れ去られいたと思われます」
 団長は一瞬厳しい顔を俺に向け、直ぐにいつもの穏やかな表情に戻る。

「そうだね。大切な婚約者なんだから目を離しちゃだめだよ」
「はい」

「よし。ヴィヴィアンちゃんの無事な姿も見れたし、僕は犯人のところに行ってくるから。後の事はこっちに任せていいよ。早く帰ってヴィヴィアンちゃんをゆっくりと休ませてあげてね。そちらのお嬢さんも大変だったね。お疲れさま」
 そう言い残しエリオス団長が部屋を出行くと入れ替わりにシスターが入って来た。
「モントレー公爵家様とスチュワード伯爵家様のお迎えの馬車が到着いたしました」

「マリン今日はありがとう」
「ヴィヴィ私は何も出来なかったのに」
「そんな事ないわ。マリンがいて下さって心強かったもの」
「ヴィヴィ、本当にご無事で良かった」

 二人はもう一度抱き合いそれぞれの馬車に乗って教会を後した。

「ヴィー今日は本当に申し訳なかった」
「何回目ですか?アクセル様が駆けつけてくれたから誘拐されずに済んだんですよ。もう謝らないで下さい」
「しかし・・・」
「はい、もうお終い。帰ったらお義父様とお義母様に叱られるのが確定してるんですからね」
「確かに・・・」

『ヴィヴィアン誘拐未遂』の連絡は馬車を迎えに寄こした時点で伝わっている筈だ。
 俺は父に殴られる覚悟をしていた。


 屋敷に付くと玄関先に仁王立した大きな影が待ち構えているのが見えた。
 ヴィヴィを馬車からエスコートし、まだ少し覚束ない体を支えながら影の主の前で止まる。
 大きな影がヴィヴィの体を包み込んだ。

「無事で良かった・・・」
「お義父さま」
 ヴィヴィを抱き締める父の肩が震えている。

「うん、中に入ろう」
「はい」

 屋敷に入っていく二人の後ろ姿が遠ざかっていく。
 俺は暫くの間その場を動く事が出来なかった。
 
 どれ程の時間そこにいたのか。

「アクセル様」

 トーマスの声で我に返り拳を握りめながら玄関の中へ入った。

 父の執務室に入るとヴィヴィの姿は無く母が父の隣に座っていた。
 きっと部屋でマギーたちに見守れながら休んでいるのだろう。

「アクセル」
 名前を呼ばれ一歩前に出て頭を下げる。

「何のためにおまえがいる?」
「ヴィヴィアンを守るためです」
「最終的に守れても危険に晒した」
「はい。申し訳ありません。二度と同じ間違いは致しません」
「当然だ。万が一、同じ間違いを起こした時にはヴィヴィアンとの婚約を解消する」

「えっ!そ、それは」
 顔を上げ父の目を見た。

「お前との婚約を解消して俺の、ウェルズ大公の側妃にする。いや妾だ」

「・・・」
 何を言われたのか理解できない。

「肝に銘じて置くんだな。もう下がっていい」

 俺は何も言い返すことができず一礼して自室へと戻って行った。


「随分と思い切ったことを仰いましたね」
「あの位と言わんと効き目がないだろう?ヴィヴィアンの成人が近くなって浮かれすぎているからな」
「十年近く待ったアクセルの気持ちも分からなくはありませんけど」
「それとこれは別の話だ。ヴィヴィアンが「加護持ち」として狙われる可能性がある事を忘れてはならないのだよ」
「ええ、勿論ですわ」
 マリアがため息をつく。
「で、何か起きたらヴィヴィちゃんを本当に妾になさるおつもり?」
「そんなわけあるか!あの子は俺の可愛い娘だ。責任は最後までアイツに持たせるに決まってるだろう」
「あら、あたくしはヴィヴィちゃんがあなたのお妾さんになっても仲良くやっていけましてよ?」
「全く・・・マリアには敵わんな」

「でもヴィヴィちゃんは凄いわね。誘拐されかけたって言うのにケロッとしているんですもの。怖かったけどアクセルが来てくれると信じていたから絶対大丈夫だと思っていたんですって」
「信頼してるんだな」
「ええ、愛してるのよ」
「そうか」


 両親がそんな事を話しているとも知らず俺は自室で頭を抱えていたのだった。




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