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4章【隠せぬ欲望】
※誘拐未遂事件
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「お姉さんこれはこっちでいい?」
「うん、そこの台に並べてくるれるかな」
「はーい」
今日は教会のバザーの日で、ヴィヴィとマリン嬢は手作りの菓子を持って来ていた。
前日マリン嬢と二人で我が家の調理場を使い焼いた様々なクッキーが可愛くラッピングされて机の上に並べられている。
他にも令嬢たちが刺した刺しゅう入りのハンカチなどが所狭しと置かれていた。
収益はもちろん支援団体に全額寄付されることになる。
参加している令嬢たちは、お高くとまる事もなく親しみを持って訪れる人達に声をかけている。
「クッキー随分売れましたね。追加分を取って来るわ」
「ヴィヴィ、お一人で大丈夫?」
「ええ大丈夫、マリンはお店番よろしくね」
二人の付き合いは王城での初等淑女教育を受けた十歳からで、七年が経った今ではお互いに「ヴィヴィ」「マリン」と呼び合うほど仲が良い。ヴィヴィアンはマリン嬢に笑顔で答え建物の裏手にあるクッキーの保管場所へと向かった。
追加のクッキーを箱からカゴに入れ替えていると背後に人の気配を感じた。
アクセルかと思い振り向こうとしたとところで、後ろから布で口を塞がれてしまった。
「暴れないでください。怪我はさせたくないので」
男はそう言うとそのままヴィヴィの身体を建物の壁に押し付け、両手を紐で拘束する。
口を塞いだ布には薬を含ませていたのだろう。少し朦朧とするが、薬が少なかったのか意識を失う程ではなかった。
そのまま引きずられるように裏口へと連れて行かれる。
「ん、足りなくなったのか?」
少し離れた場所で護衛をしていた俺はヴィヴィが建物の裏手に行くのを見て後を追おうとすると「騎士さま、騎士さま!」と小さな子供が足にしがみついて来た。
「どうしたのだ?」
「風船が木に引っかかっちゃったの。ぼく届かなくて」
「どこだ?」
「あそこ!」
姿が見えなくなったヴィヴィの事が気になってはいたが、教会の敷地内という事もありどこか安心していたのかもしれない。
「ああ、あれか」
男の子が指さす方に目を向けると風船は俺が少し背伸びをすれば届く枝に引っ掛かていた。
割らないように気を配りながら枝から外して男の子に渡してあげる。
「ありがとう、騎士さま」
嬉しそうに礼を言い男の子は駆けて行く、その後ろ姿を見送りながら「はっ!」とヴィヴィの事を思い出した。
売り場を見るとまだヴィヴィはまだ戻って来ていなかった。
嫌な予感がする。
「マリン嬢、ヴィヴィは?」
「あっ、アクセル様。ヴィヴィは裏に・・・」
俺の形相を見て固まっているマリン嬢を残し急いで建物の裏へ回ると・・・積まれた箱の幾つかがひっくり返り、ラッピングをされたクッキーの袋が散らばっていた。
その有様を見て血の気が引く。
「ヴィー・・・」
その時、奥にある裏手の出入り口にちらりとクリーム色の布が見え直ぐに扉が閉った。
――ヴィーの着ていた服だ――
急いで出入口に向かい扉を勢いよく開ける。
協会の裏道に止めてある馬車の前に男とヴィヴィの後ろ姿が見えた。
「ヴィヴィから離れろ!」
「・・・」
男に腕を掴まれ馬車に押し込められそうになっていたヴィヴィが俺の声に気付きゆっくりと振り向いた。彼女の口には声を出せないよう布が噛ませられていた。
同時に振り向いた男は俺の声に驚き動揺しているのが見て取れ、その手の仕事に手慣れた者ではないと直ぐに分かる。ナイフなどの凶器は持っておらず俺の姿を見て僅かに震えていた。
「なっなんだ、お前は!」
他に仲間らしき姿は無く単独犯と判断し、腰の剣を抜いてゆっくりとヴィヴィと男の元へ歩みを進めた。
「命が惜しくばその令嬢を離せ」
剣先を男に向けるとあっさりとヴィヴィを掴んでいた手を離しその場にへなへなと座り込んでしまう。
「俺は頼まれただけなんだ・・・」
「お前の話は後でゆっくりと聞く」
腰につけていた魔道具で男を拘束し、腹に一発食わせる。
馬車に寄りかかりかろうじて立っているヴィヴィの口の布を外し、手を縛っていた紐を解いて抱きしめた。
「怖い思いをさせて悪かった」
「アクセル様・・・」
胸に力なくしがみ付ついてか細い声で俺の名を呼ぶヴィヴィ。
俺が付いていながらこんな目に合わせてしまった・・・
「ヴィヴィ、アクセル様・・・」
俺の様子を見てただ事ではないと思ったマリン嬢が神父と教会の関係者数人を連れて駆けつけて来た。
「何があったのでしょうか?」
「モントレー公爵令嬢が誘拐されそうになりました。神父殿、直ぐに自警団を呼んで下さい。それと騎士団のエリオス団長にも連絡をお願いします」
「誘拐ですと!は、はい。分かりました」
神父は一緒に来てい者に支持を出して直ぐに使いを出す。
「それと令嬢を休ませる部屋をお願いします。マリン嬢も付添をお願いします」
「あっ、はい分かりました!ヴィヴィもう大丈夫ですからね」
「マリン・・・」
俺はヴィヴィを抱き上げる。
「自警団が来たら馬車の見張りをお願いします。その男は動けないように拘束してあります。その後の指示はエリオス団長が到着してから」
「はい、分かりました。こちらへどうぞ」
犯人の男と見張りのために二人程残して、俺はヴィヴィを抱いたままマリン嬢とともに神父の後について教会の中へと戻って行った。
「うん、そこの台に並べてくるれるかな」
「はーい」
今日は教会のバザーの日で、ヴィヴィとマリン嬢は手作りの菓子を持って来ていた。
前日マリン嬢と二人で我が家の調理場を使い焼いた様々なクッキーが可愛くラッピングされて机の上に並べられている。
他にも令嬢たちが刺した刺しゅう入りのハンカチなどが所狭しと置かれていた。
収益はもちろん支援団体に全額寄付されることになる。
参加している令嬢たちは、お高くとまる事もなく親しみを持って訪れる人達に声をかけている。
「クッキー随分売れましたね。追加分を取って来るわ」
「ヴィヴィ、お一人で大丈夫?」
「ええ大丈夫、マリンはお店番よろしくね」
二人の付き合いは王城での初等淑女教育を受けた十歳からで、七年が経った今ではお互いに「ヴィヴィ」「マリン」と呼び合うほど仲が良い。ヴィヴィアンはマリン嬢に笑顔で答え建物の裏手にあるクッキーの保管場所へと向かった。
追加のクッキーを箱からカゴに入れ替えていると背後に人の気配を感じた。
アクセルかと思い振り向こうとしたとところで、後ろから布で口を塞がれてしまった。
「暴れないでください。怪我はさせたくないので」
男はそう言うとそのままヴィヴィの身体を建物の壁に押し付け、両手を紐で拘束する。
口を塞いだ布には薬を含ませていたのだろう。少し朦朧とするが、薬が少なかったのか意識を失う程ではなかった。
そのまま引きずられるように裏口へと連れて行かれる。
「ん、足りなくなったのか?」
少し離れた場所で護衛をしていた俺はヴィヴィが建物の裏手に行くのを見て後を追おうとすると「騎士さま、騎士さま!」と小さな子供が足にしがみついて来た。
「どうしたのだ?」
「風船が木に引っかかっちゃったの。ぼく届かなくて」
「どこだ?」
「あそこ!」
姿が見えなくなったヴィヴィの事が気になってはいたが、教会の敷地内という事もありどこか安心していたのかもしれない。
「ああ、あれか」
男の子が指さす方に目を向けると風船は俺が少し背伸びをすれば届く枝に引っ掛かていた。
割らないように気を配りながら枝から外して男の子に渡してあげる。
「ありがとう、騎士さま」
嬉しそうに礼を言い男の子は駆けて行く、その後ろ姿を見送りながら「はっ!」とヴィヴィの事を思い出した。
売り場を見るとまだヴィヴィはまだ戻って来ていなかった。
嫌な予感がする。
「マリン嬢、ヴィヴィは?」
「あっ、アクセル様。ヴィヴィは裏に・・・」
俺の形相を見て固まっているマリン嬢を残し急いで建物の裏へ回ると・・・積まれた箱の幾つかがひっくり返り、ラッピングをされたクッキーの袋が散らばっていた。
その有様を見て血の気が引く。
「ヴィー・・・」
その時、奥にある裏手の出入り口にちらりとクリーム色の布が見え直ぐに扉が閉った。
――ヴィーの着ていた服だ――
急いで出入口に向かい扉を勢いよく開ける。
協会の裏道に止めてある馬車の前に男とヴィヴィの後ろ姿が見えた。
「ヴィヴィから離れろ!」
「・・・」
男に腕を掴まれ馬車に押し込められそうになっていたヴィヴィが俺の声に気付きゆっくりと振り向いた。彼女の口には声を出せないよう布が噛ませられていた。
同時に振り向いた男は俺の声に驚き動揺しているのが見て取れ、その手の仕事に手慣れた者ではないと直ぐに分かる。ナイフなどの凶器は持っておらず俺の姿を見て僅かに震えていた。
「なっなんだ、お前は!」
他に仲間らしき姿は無く単独犯と判断し、腰の剣を抜いてゆっくりとヴィヴィと男の元へ歩みを進めた。
「命が惜しくばその令嬢を離せ」
剣先を男に向けるとあっさりとヴィヴィを掴んでいた手を離しその場にへなへなと座り込んでしまう。
「俺は頼まれただけなんだ・・・」
「お前の話は後でゆっくりと聞く」
腰につけていた魔道具で男を拘束し、腹に一発食わせる。
馬車に寄りかかりかろうじて立っているヴィヴィの口の布を外し、手を縛っていた紐を解いて抱きしめた。
「怖い思いをさせて悪かった」
「アクセル様・・・」
胸に力なくしがみ付ついてか細い声で俺の名を呼ぶヴィヴィ。
俺が付いていながらこんな目に合わせてしまった・・・
「ヴィヴィ、アクセル様・・・」
俺の様子を見てただ事ではないと思ったマリン嬢が神父と教会の関係者数人を連れて駆けつけて来た。
「何があったのでしょうか?」
「モントレー公爵令嬢が誘拐されそうになりました。神父殿、直ぐに自警団を呼んで下さい。それと騎士団のエリオス団長にも連絡をお願いします」
「誘拐ですと!は、はい。分かりました」
神父は一緒に来てい者に支持を出して直ぐに使いを出す。
「それと令嬢を休ませる部屋をお願いします。マリン嬢も付添をお願いします」
「あっ、はい分かりました!ヴィヴィもう大丈夫ですからね」
「マリン・・・」
俺はヴィヴィを抱き上げる。
「自警団が来たら馬車の見張りをお願いします。その男は動けないように拘束してあります。その後の指示はエリオス団長が到着してから」
「はい、分かりました。こちらへどうぞ」
犯人の男と見張りのために二人程残して、俺はヴィヴィを抱いたままマリン嬢とともに神父の後について教会の中へと戻って行った。
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