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1章【我が家に天使がやって来た】

庇護欲と愛情

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 王城に通うようなって一年が過ぎてすっかりレディらしくなったヴィヴィ。

 公爵家という家柄で注目を受けるのは当然だがヴィヴィの出自を明らかにしてないので、中には孤児院出ではないかと囁く者もいたが元は領主で伯爵家の娘だ。ただ罪を犯し大公自ら処刑した家の娘だという事は表に出したくはないだけのことだ。
 生まれ持った貴族の品は備えている。公爵家の令嬢として疎まれるところは何一つもない。

 最近のヴィヴィはここで仲良くなった伯爵令嬢と一緒に教会が営む孤児院への慰問にも参加するようになった。
 自分と同じくらい位の子供やそれよりも小さい子の置かれている立場を見てショックを受け、暫く落ち込む日々が続いていた。

「アクセル様、ヴィヴィは本当に幸せです。小さい頃両親に捨てられたようにあの小屋に閉じ込められて外に出る事は出来なかったけれど、その両親も火事で死んで、お義父さまに助けられて養女になって……こんなにも何不自由なく暮らせるなんて特別なんだって実感したの。孤児院にいる子たちは幸せになれるんですか?」

 切なそうに聞いて来るヴィヴィ。

「そうだな、あの子たちはこれから手に仕事を付けたりしながらあそこを旅立っていく。貴族に引き取られていく子もいるだろう。中にはあそこを出た後上手くいかず悪しき道に染まっていく子もいる。こればかりは本人の意思もあるが世の中の所為でもある。あの子たちはこれから自分で運命を切り開いていかなくてはならない。俺たちはその手助けを少しでもできればいいと思う」

「手助け。。。ヴィヴィには何が出来るのでしょうか」

「それは徐々に考えて行けば良いんじゃないのか。今は手の足りないところの手助けとか、一緒に遊んであげて楽しい時間を過ごさせてあげるっていうのも大事だと思うぞ。愛情に薄い子たちばかりだからな」

 ヴィヴィは自分も小さながら何が出来るのかを模索し始めたようだ。


 ところで、友達になったというスチュワード伯爵家の次女であるマリン嬢とはよっぽど気が合うらしくいつも行動を共にしている。
 ヴィヴィの方が家柄としては格上になるが、マリン嬢はきちんと人前では礼儀を弁え二人だけの時はお互い対等に意見を言い合え、ヴィヴィが公爵家の娘だからと言って媚びる事もしないお嬢さんだ。
 そんな友人が出来たことを俺は喜ばしく思っている。

 マリン嬢には四つ上のシャリ―ヌという姉が居り、彼女もまた優しく面倒見の良い令嬢でヴィヴィも慕っていた。
 スチュワード伯爵家の令嬢二人は飛び抜けていると言う訳ではないが美人の類に入ると俺は思う。十五歳の姉はいかにも淑やかでありながら明るく、奉仕活動(ボランティア)にも積極的に参加をしているため騎士団にも何人か彼女に想いを寄せている者がいると聞いた。

 妹のマリン嬢は積極的で物怖じをしない。まだ十一歳だが姉御肌的な少女だ。

 ヴィヴィと初めて会った時「ヴィヴィアン様って絵本の中ら出て来た妖精みたいです」と目を輝かせ手を取ったという。
 彼女といるとヴィヴィも本当に楽しそうで笑顔が尽きない。


 この日も教会へのボランティア活動でシャリ―ヌの後を追うように二人の少女も子供たちの面倒を率先してみていた。

 昨日モントレー家にスチュワード姉妹が訪れ料理長のジャンから数種のクッキーを教わり自らの手で焼き上げた。それを持って孤児院に来たと云う訳だ。

 俺は手作りのクッキーを貰い嬉しそうにはしゃぐ子供たちと世話を妬く三人の少女を見ていた。

 隣にはスチュワード家の護衛であるアダムスがいる。


「お嬢様方は楽しそうですね」

 アダムスが目を細め話しかけて来た。

「そうですね。昨日は三人とも粉だらけになっていましたけど」

 俺はジャンの手ほどきを受けながら奮闘していた三人の姿を思い出し小さく笑った。

「マリンお嬢様は多少我儘なところがありますが、モントレーのお嬢様とご一緒だととても素直でいらっしゃる。きっとモントレーのお嬢様のお陰なのでしょうね」

「そうでしょうか、元々マリン嬢も素直で優しいお嬢さんと思いますよ」

「はい、そうですね」

「モントレー次期公爵殿は」

「アダムス殿、今はヴィヴィアンの護衛として来ているのでウェルズで結構ですよ」

「はっ、そうでありますか。ではウェルズ殿。失礼を承知でお聞きいたします。モントレーのお嬢様とご婚約されておられますが、その……年の差のギャップとかは感じられておられますか?」


ーーなるほど。みんな気になるところなんだろうーー


「年の差ですか、確かに12歳という年差は大きいですね。しかし、ある程度の年齢まで行けばそれほど気にならなくなるのでは無いでしょうか。今はただ彼女の成長を見守るというか庇護欲の方が強いのかも知れません」

 自分の中では庇護欲よりも愛情の方が強くなってきていると自覚はしているが敢えてそこは言う必要もない。

「庇護欲ですか。何となく分かる気もします。私はマリンお嬢様が三歳の時から付かせて頂いております。こういっては不敬に値するかもしれませんが自分の娘のように思えています。何としてもご結婚なさるまでお守りしなくてはと。護衛として当たり前の事ですが、庇護欲に似た感情でもあります」
 彼は三十を超えていてすでに妻子がおり自分の子供とマリン嬢を重ねて見ているのかも知れない。

「ええ、そうでしょうね、マリン嬢が嫁ぐときにはアダムス殿はきっと泣かれますね」

「たぶんそうだと思います」



 アクセルとアダムスはお互いに考えるところは少し違うけれど似たような感情を共有し、離れた場所で子供たちと戯れている庇護の対象である少女たちを穏やかな気持ちで眺めていたのでした。




★ヴィヴィの成人まであと6年と6ヵ月★


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