SARAという名の店と恋のお話

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愛すべき人達

第2話 今どきの女子高生

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 七月初旬の月曜日午後三時 カフェ仕様SARAの開店時間。

 梅雨の晴れ間、デッキにあるテーブルを拭いていると自転車で三人の女子高生がやってきた。
「かおちゃん、ただいま~」
 どうやら香織は女子高生の間ではママではなく『かおちゃん』らしい。
「三人揃ってお帰り~」と夜とは違った満顔の笑みで迎える。

 男どもがこの笑顔を見たら。。。
 まぁこの時間帯にそんな話は無粋ですね。
 
 そもそもSARAは夜営業のみだった。
 店のまだ先、住宅街の外れに女子高があり、彼女たちの通学路は一本向こうのバス通りで店の前を通る事は滅多にない。

 ある時早めに来てデッキを彩っている鉢植えの花がら摘みをしていた時のこと。

「あーもーツイテないなー、何でチェーンなんか外れるの!」
「まじ、信じられな~い」
「真理~今日の占い当たってるしぃ」

 そんな会話が聞こえ顔上げてその方向を見ると女子高生達が自転車を押しながらやって来る。
 店の前まで来ると
「こんなところにお店があったんだ」
「いつもバス通りだしこの道通らないから知らなかったねー」
「何の店?あっカフェ&バーSARAだって」
「なら夜しか開いてないのかなー」
「今やってないみたいだからそういう事でしょ」
デッキの中でしゃがんで咲き終わったインパチェンスの花がら摘みをしていた香織には気づいてないのか
「でもさっ、こんな場所じゃお客さん来ないんじゃね?」
 容赦ない言葉がグサリと香織の胸を突く。
 思わず花がらではなく蕾を摘んでしまったではないか。。。

 その時、後方から車が近づき、止まって話しをしていた彼女たちにクラクションを鳴らした。
ーーーガタンーーー
ビックリして避けた一人がバランスを崩しデッキの手すりにぶつかってしまった。
 
「大丈夫?」

 フェンスの内側からいきなり立ち上がって声を掛けてきた人物を見て彼女たちは幽霊でも見たかの様に固まる。
「怪我しなかった?」と問われてやっと正気を戻したゆるふあパーマの彼女が先ほどの会話を思い出したのか小さな声で

「ご、ごめんなさい!大丈夫です」と小声で謝る。
「良かったわ」とにこりと笑う香織。
「ねえ、この自転車、駅向こうの自転車屋さんまで押していくの?」
「はい、あそこしかないので・・・」
「そうねーでも二十分以上掛かるのはキツイね」
「まぁ仕方ないです」

 落ち込む彼女のが可哀そうに思えた香織は
「うん、何とかするから取敢えずこっちに上がってきて座って」
 【えっ、】戸惑っている彼女たちに、自転車はそこに止めてこっちから上がるのっと指さしなが命令調に言われ3人は顔を見合わせてからその言葉に従った。

 デッキに三つある小さなテーブルの1つに座らせると
「知り合いに電話して来て貰うからそこで休んでていいわよ」
そう言いながら店の中に入りアイスティーをトレーに載せて戻り彼女たちに勧める。
チェーンが外れた自転車の持ち主でゆるふわパーマの子が

「ありがとうございます。ここってカフェ?営業中ですか?」と尋ねてきた。
「一応カフェバーね、夜だけの営業よ」
「そうなんだー、学校帰りにちょこっと寄れたら最高なんだけどな」
 ベリーショートの子が残念そうに言う。
「だよねー、駅前はみんな混んでるし会いたくないグループもいるもんね。ここなら絶対穴場じゃん!」
 お団子頭の彼女が付け加える。

「あはは、こんな場所じゃお客来ないからね」
 ほんの少し嫌味を入れ、からかうように香織がいうと

「ごめんなさい!」と三人とも立ち上がり声を揃えて頭を下げる。

「ふふ、いいのよ冗談だから。あっ、ちょっと待っててね。」
 笑顔で答えると彼女たちもほっとしたように笑顔を返してきた。

 香織は店内に戻りながら『なんか可愛いぞ』と心の声が漏れそうになった。
 そしてカフェエプロンのポケットからスマホを取り出し店内へ入っていくとスマホのアドレス帳を開く。
 どうやら電話でヘルプを呼んでくれているみたいです。
 デッキに残された三人は出されたアイスティーを飲みながら、

ーここいいねぇ~ママさん綺麗だよね
ー二十代だよね
ー殆どスッピンに近かったよ
 などと思い思いに会話をしている。

 十分程過ぎて1台のスクーターが店の横に付けて止まった。
 ヘルメット取るとくしゃくしゃと手で髪を直しデッキいる彼女たちに向かって声を掛けてきた。

「チェーン外れたのどれ?」

 芸能人の誰かを思わせる二十代の茶髪のイケメンに三人とも目がハートになっている。

「あっ、こっちです!」

 とゆるふわの彼女が慌てて立ち上がった。
 後の二人はというと、ポーと頬を赤らめ座ったままそのイケメン君に見惚れている。

「あっ、かず君。仕事中呼び出しちゃってごめんね」

  店内からひょこりと顔だけ出して香織がバイクのイケメンに声を掛ける。

「かお姉の頼みじゃ断れないじゃん、いいよ店も暇だし」

 笑いながら指定された自転車に近づくとチェーンを直し始めほんの数分後には元通りになっていた。
ペ ダルをくるくると手で回して調子を確認すると女子高生たちに向かって

「はい、終わったよ」

 う~ん、なんて爽やかな笑顔なんでしょう。
 女子高生たちは瞬殺されてしまったようです。

「よかった~ありがとうございます!・・・あっ。あのう今、かお姉って言ってましたけど弟さんなんですか?」

「アハは、違うよ、この店の客」
そう言ってイケメンは笑いながら油で汚れた手を洗いに店内へと消えていった。

するとまた女子トークが始まる。

ーねぇ。イケメンやばくない?
ー今の彼氏から乗り換えたいくらいだわ
ー彼女いんじゃね?
ーでもめっちゃカッコいいよね
ーお姉さんの彼氏かな?

 暫くして香織とイケメン君がテラスに戻ってきた。
 二人とも手には珈琲カップを持っている。
 もう一つのテーブル席に座ると

「良かったね。すぐに直って」
 ゆるふわちゃんに声をかける。
「はい、駅向こうまで押して行かないで済んで助かりました」
「あは、その駅向こうの自転車屋さんね、元々バイク屋さんなんだけど、かず君はそこの店長さんなのよ」
「まぁ親父の店だからな」イケメンかず君は空を見上げています。
「えー、そうなんですね。わざわざすいませんでした」
 とゆるふわちゃんがぺこりと頭を下げた。

「あっ、えっと、修理代は?」
「ふふふ、気にしない気にしない、かず君女子高生が困ってると言ったら鼻の下延ばして駆けつけて来たんだから~。で、この珈琲でチャラよ」
 横目でイケメンかず君をチラ見して香織が笑う。

「おい、おい、俺はそんな・・・まぁ女子高生は良いとは思うけど。。、」
 バツ悪そうにほんの少し照れた顔をそっぽに向けているかず君なんか可愛いですねぇ。
 香織はおかしくて笑いが止まらずわき腹を抑えている。

「あのうお姉さん名前聞いてもいいですか?」
 改めて聞かれて、名乗ってもおらず不審なお姉さんだったわと思い

「このSARAって店をやってる香織かおり32才独身です。」

「え~~っ、20代かと思いました!」
「まじヤバ!」
「32才独身だってホント激ヤバすぎる!」

 彼女たちの反応に香織もイケメン君もどう反応して良いか判らず口を開けたまま呆気にとらている。

「おに、お兄さんは?」
 ベリーショートちゃんが言い寄る。
 我に返ったイケメン君は

「人に尋ねる時はまず自分からでしょう。」

 するとゆるふわちゃんが立ち上がり
「あ。そうですよね、すいません。桜美川女子学園高等部2年冨浦真理とみうらまり十六才もうすぐ十七になります。彼氏募集中。今日は助けて下さりありがとうございました」
  次にお団子ちゃん
「同じく山本未来やまもとみく十七才大学生の彼氏とラブラブです」
 ベリーショートちゃんも
「同じく川本千尋かわもとちひろ十六才彼氏ナシ。絶賛募集中よろしくお願いします」
 思わず笑ってしまったがイケメン君も応える。

「バイク屋の和宏25才。半年間彼女無しだ。かお姉に何度もアタック掛けてるけどそのたびに撃沈してます」
「えっ。まじ~~~!」
 三人揃って香織の顔をまじまじと見ていくるので、

「あはは!だっていくらイケメンでも7才年下はないわー」

 イケメン君の自己紹介と香織のやりとりに女子高生達は爆笑したのであった。

「かおりお姉さん、時々遊びにきても良いですか?」


 ゆるふわ真理ちゃんのその一言から1か月後、SARAは真理を中心とする女子高生のたまり場と化し彼女らに懇願され週二回彼女たちに開放してカフェ営業をする羽目となったのでした。

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