女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

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第七章・壮行試合 ― 女帝と“最後の男”

直美、帝プロへ――壮行試合決定

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翌週、帝プロの阪口は、マスコミに対し会見を行っていた。
内容は、帝プロが主催する、毎年12月恒例の“最強決定リーグ”出場選手の発表について。
その年の活躍が目覚ましかった10人が選出される形を取っている。

白川大斗をはじめ、所属団体を問わず強豪選手の名前が、次々と読み上げられる。
その度に会見会場では、驚きや頷きが聞こえてくる。

9人の名前が挙げられた。残るは、あと1人……。
阪口は一呼吸おいて、発表する。

「10人目は……、ブレバリーズ所属の、直美選手。以上」

……ん?、えっ?、あれっ?

会見会場全体が不思議な空気に包まれている中、会見は終わってしまった。
阪口と帝プロ関係者は、そのまま去ってしまったのである。

それはまさに、サプライズであった。

「おいおい、ブレバリーズって、知ってる?」
「確か……、九州を地盤にしている団体だった。あまり聞かないけど」
「男女混合の試合が売り物だって、聞いたよ」
「そうそう、女子選手がチャンピオンになったって、噂があった」
「ってことは、その女子選手が、リーグ戦に出場するってこと?」
「えぇ?、それはちょっと、無謀なんじゃないの?」
「女子があそこに上がるなんて、さすがにちょっと、なにかの間違いでしょ」
「まさか、あの帝プロさんが、茶番の試合に走る筈がないし……」

……記者たちが疑問に包まれるのも、やむを得ないことである。
全国的に見ると、地方団体であるブレバリーズの知名度は、まだまだ低い。
それどころか、出て来た名前が、女子選手のもの。

未知数の団体と、未知の女子選手。
そこにいた多くの者が、何かの間違いではないかと、疑うほどであった。

***

同じとき、ブレバリーズにて全体ミーティングが行われていた。

リング上にマイクを持って立つ沙也加。
女子選手たち、男子選手たちの前で、沙也加は深呼吸し、はっきりと言った。

「直美が――帝プロ12月リーグに正式参戦します」

会場が揺れた。

歓声。
驚愕。
涙。

直美は深く頭を下げた。

「……ブレバリーズの名を背負って行く。
 必ず、結果を持ち帰ります」

その瞬間、女子選手たちは泣きながら抱きついた。

環は号泣しながら「絶対勝ってね!」
Satomiは目元を押さえて「うれしい……うれしいよ、本当に」
志桜里は直美の腕をぐいと掴んで「負けたら承知しねーからな!」
直美は照れたように笑いながら、女子全員を抱き寄せた。

だが、その輪に入れず外側から見つめていた者がいた。
修平である。

喜びよりも先に、胸を締めつけるような感情が湧きあがった。

――直美さんが行く。
 自分は……このままここで、何者にもなれずに終わるのか?

と、そのとき、沙也加が語り出した。

「直美を帝プロに送り出す前に、壮行試合を開催したいと思います。」

そして、「修平」
沙也加が、静かに名を呼んだ。

「……はい」

沙也加の視線が修平に突き刺さる。
その目は、決意と優しさと期待が混ざっていた。

「直美の壮行試合の相手は、修平。あなたに決めた」

修平は息を呑んだ。
世界が止まるとは、こういう感覚なのだろうか。

「ぼ、ぼくが……直美さんの……?」
「そう。あなたにしかできない」

志桜里が飛び込んできて、修平の肩を叩く。

「よかったじゃんか修平! あんたが相手なら、直美も燃えるよ!」

Satomiも優しく背中を押す。

「あなた、ずっと努力してたから……沙也加さんの目に留まってたんだよ」

環もにこにこしながら手を握る。

「がんばってね、修平くん!」

修平は震える声で答えた。

「……ぼくで、いいんですか?」

沙也加は、はっきりとうなずいた。

「修平――あなたは、ブレバリーズの“魂”よ」

その言葉が、修平の胸の奥で大きく灯った。
しばらくその場で、動けずにいた。

ミーティング後。
女子ロッカーの廊下で、直美はひっそりと沙也加に話しかけた。

「沙也加さん……本当に、修平でいいの?」
「ええ。あの子の努力は、本物よ」
「……わかりました。わたしも全力でいく」

直美の瞳は闘志で光っていたが、
どこか優しい色が混ざっていた。

***

一方で男子部は――崩壊寸前だった。

仁志は椅子に崩れ落ち、顔を覆っていた。

「……もうダメだ……もう俺は終わりだ……」

若手達は目をそらし、重苦しい空気の中で着替えていた。
拳激戦での敗北
直美にタイトル奪われた恥
団体のトップとしての責任
直美の帝プロ行きという“女子の快挙”

そのすべてが仁志の自尊心を粉々に砕いていた。
沙也加の会社経営に関する様々な成功・女子部の成長・沙也加を次期社長に推す声……、
いつしか仁志は、日に日に大きくなっていく沙也加の存在が頭に浮かぶ度に、
指先が落ち着かなくなっていたのであった。

そんな仁志に近づいたのは修平だった。

「社長……大丈夫ですか」
「……修平。お前……なんでそんな顔でいられるんだよ」
「……俺も怖いです。でも、前に進まないと……」

仁志は笑った。
だが、その笑いは涙に濡れていた。

「お前のほうが……よっぽど“男”だな」

それが、仁志と修平が交わした最後の穏やかな会話になろうとは、
この時点では、まだ誰も知る由がなかった。


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