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第二章:三軍としての険しい道

男として、三軍として...

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*** 7月~8月ころ ***

その後、純一たちも鬼女の三軍として、活動に参加させられた。

手始めに、彼らも今後は鬼女の特攻服を着るよう、直美から命令された。
とはいえ、なにせレディース用に揃えられた特攻服である。ピンク色の上下服に、赤いベルト。服の表面には、漢字の当て字が、金色の刺繍が書かれている。その下は胸からお腹にかけ、さらしを巻くことがルールとされている。これを着ることに、男としての抵抗が若干あったものの、命令には従わなければ何をされるかわからないので、着ることにした。難しかった、さらしの巻き方も、本を読みながら何度も勉強し、なんとか形よく巻けるようになった。
その姿で集会に現れると、女子たちからさんざん、笑われたものであった。

ユイナの指導の下、挨拶の徹底ぶりも、叩き込まれた。基本的に三軍は、その場にいる二軍以上の女子たちひとりひとりに対し、深々頭を下げて挨拶をする。
ちなみに、丁寧なあいさつをしたとても、大半の女子たちからは無視されてしまう。三軍は、その程度の存在にしか、見られていないようだ。

集会の際は、三軍の仕事はまず。始まる遅くとも30分前にはやってきて、掃除と準備をしなければならない。
二軍、一軍と、徐々に集まりだす女子たちに対し、一人ひとりすべてに、三軍はそろって深々と挨拶をする。
「お疲れさまです。」
集合場所では、談笑する彼女たちの邪魔にならないよう、三軍は隅で並んで無言で立っている。
準備状態についてなにか不満を漏らされると、さっと状況をを伺いに向かう。もし粗相が見つかったら、遠慮なくその場で、女子たちから罵られ、ときには殴りつけられたりもした。
それでも
「すみません。今後、注意します。」
と謝って、耐えねばならなかった。
最後に、直美と沙紀が入って来ると、全体が黙り、ピリッと締まる。
直美が堂々と、真ん中の椅子に座ると、その圧倒的存在感に、さすがに女子たち全員、緊張感が走っている。
程なく集会がはじまると、直美がメンバーを鼓舞する。
「いいか?鬼女メンバー全員、気合い入れて行くよ!よろしくぅぅ!」
「おおぉぉぉ!、よろしくぅぅ!」
一同一斉に、気合いが入った、呼応した声が轟く。見事に意思が揃った、気合いの入った集会。直美への忠誠心が見られる。直美の存在は、この中ではもはや、カリスマ的であった。
傍で見てると、女子の集団とは思えないほど、強そうでぞっとする集団である。純一は、少し前までの自分たちの集会を、恥ずかしく思うほどであった。

集会のあとでそのまま、パトロールと称し、街を歩いたり縦走に行く機会がある。
こういう場合、出発前に三軍は、集会の場を片付けて行かねばならない。ぐずぐずしてると、上位階級の女子たちからの仕打ちが待ち受けているため、掲げていた旗や、直美たちが座っていた椅子など、急いでかつきれいに片づける。
先頭はもちろん、総長・副総長が立ち、その後は一軍・二軍の女子たちがつづく。三軍は片付けが終わった後、遅れないよう大急ぎで最後尾につく。

買い出しもまた、大事な仕事であった。休憩時間などに、メンバーのタバコや飲み物など、女子たちから言われたものを買いに向かうのも、三軍の役割ある。
特に縦走時の休憩時間においては、三軍は忙しくなる。命令されたとたんに短時間で行って帰れるようにしておく必要があるため、目的地付近のコンビニなどは、予め確認しておく。言われたものがなかった場合は、すぶに別な店に行けるよう、周到な準備が必要であった。

さて、その買って来たものを手渡さねばならないが、その渡す順番にも留意しなければならない。
まずは直美に手渡す。そのあとは沙紀、そして上位階級の女子から順に、渡していく。
「買って来ました。よろしくおねがいします。」
粗相がないよう、さっと手渡す。

しかし、ちいさな粗相はどうしてもやってしまうものであった。
二軍であった沙友里(清和女学園高2年)が、一軍への昇格を果たしたばかりだったときのこと。純一はうっかりし、二軍のユイナの後に、沙友里に飲み物を渡してしまったことがあった。
途端、不機嫌になった沙友里から、強烈なビンタをくれ、罵しられた。
「お前、人をなめてんじゃねえのかぁ!躾けが足りねえんじゃないのかぁ、おらぁ!」
何を言われても、何をされても、三軍は従うしかなかった。

もっと悲惨なこともあった。別な三軍メンバーが、沙紀からいいつけられていたタバコと違う銘柄を買って来てしまったことがあった。そのときの沙紀は、少々気分が斜めであったようで、彼に失敗に対するた仕打ちは相当なものであった。
「てめぇ、人の言いつけもわからねぇのかよ、おらぁ!」
「すみません!」
すぐさま土下座で謝ろうが、聞き入れられる隙は寸分もなく、拳と足で、彼を容赦なく殴りつける。
その横で、直美はなにごともないように、座って喉を潤している。周囲の女子たちは、おそれながら、それをじっと眺めていた。
顔を腫らして情けなく帰って来た彼に対し、純一は陰で無言で、目を見ながら肩を叩いてやることしかできなかった。

また、タバコの火をつけるのも、大事な仕事である。上階級の者には下階級の者が火を点けることが、暗黙の了解。なので三軍の彼らは、常に女子たちのタバコの様子を気にしていなければならない。
ある日、二軍の樹莉がタバコを取り出したとき、純一は走って火を点けに行った。
十分な速さであったと思われたが、樹莉からは、タイミングが遅いと言いながら、睨みつけられる。、
---え?
危うく、そんな目で見てしまった。
「おい、なんだ、その目は!」
「...いいえ、なにもありません。申し訳ありませんでした。」
中1女子の樹莉にも、機嫌を損ねないよう丁寧に誤って必死に許しを請い、なにごともなく終わらせた。

こうやって集会の度に、純一たちは鬼女の女子たちからいいように扱われていた。
その日の活動が終わり、明け方にようやく解散となる。
すべての片付けが終わると、三軍男子たちはいつも安堵し、疲れが出て来るのだった。

三軍の、純一をのぞく男子3人は、こんな境遇をあまりにも悩ましく思い、勇気を出して、直美に鬼女の脱会を申し出た。
予想通り、直美は”落とし前”を受けた上での脱会を許可した。
3人は、鬼女の女子たち全員から思う存分、最後の強烈な”落とし前”受けた。純一はそれを、だまって耐えて、みつめているしかなかった。
ふくろにされ傷だらけになった3人は、こうして早々に鬼女を去っていった。
このとき、純一も彼らから、いっしょに脱会することを誘われていたのだが、純一は断っていたのだ。
女子たちからは毎回、かなりの辛い思いをされられているなか、なぜ自分は耐えて残って三軍として働きつづける道を選んでいるのか、このときは純一自身も、理由がよくわからなかった。
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