女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

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第一章・新たなる道/直美との邂逅

静かな決意

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 女子部コーチに就任した沙也加は早速、練習場に顔を出した。

 そこには、沙也加の先輩でもあるベテラン・Satomiが、女子部キャプテンとして全体を率いていた。
 若手の女子選手数人で、熱のこもった練習を行っている。
 基礎トレ、走り込み、スパーリング、ウェイトトレーニング、等々。

 厳しいメニューだが、全員で笑顔を交えながら、こなしている。
 全体の雰囲気は決して悪くない。
 女子プロレス界のカリスマ的存在であった沙也加のコーチ就任を、選手たちは全員で歓迎した。

 キャプテンのSatomiのもとに、挨拶に向かう。

 「Satomiさん、このたび請謁ながら、コーチとして働かせていただくことになりました。
  よろしくおねがいいたします」
 「沙也加、元気だった?これからまた、よろしくおねがいします。
  あなたの強さを、わたしたちにも、注入してください」

 Satomiの謙虚な性格は、昔から変わっていない。
 いつも大人しく、いわゆる先輩風を吹かすようなことは、一切ない。
 年下の後輩でありながら、あっという間に頂点に上り詰めた沙也加に対しても、常に敬意を持って接してくれていたので、
 沙也加は絶対的な信頼感を抱いていた。

 一方で、自己主張が浅いことが、Satomiの欠点でもあった。
 ひたむきな努力を継続していながら、性格的に自分を押し殺し、他人に譲ってしまう傾向が強い。
 そのおかげか、選手として一向に芽が出ない現実のことを、Satomi自身が非常に苦しんでいた。
 スポットがあたる機会にはほとんど恵まれず。
 心無いマスコミが彼女に付けたニックネームは、”凡戦女王”。
 悔しさを表に出さずに押し殺しながら、ベテラン選手としてチームを引っ張り続けるSatomiの目、
 沙也加はそれを、微妙に感じ取っていた。

 厳しい練習を続ける若手女子選手たちの中に、もう一人、気になる選手がいた。
 名前は、坂城志桜里と言った。
 中学を卒業後、強い意志で入団。
 現在は練習生として、デビューを目指し、ひときわ小さな身体ながら猛特訓を積んでいる。
 とにかく気が強く、強い選手を相手に何度も倒されようが、怯まずその度に立ち上がって向かって行っていた。

 夢は、女子プロレスラーとしてデビューし輝かしい成績を残すこと、と、
 本人ははっきりと述べてしまう。

 (彼女たち、まだまだ伸びる。いや、わたしが伸ばしてみせる。)

 沙也加はそう思った。
 そして、女子部の選手たちに対し、自分が知るあらゆる限りのサポートを行い、
 彼女たちのために尽くす決意を決めたのだった。

***

 沙也加がコーチを務める女子部における、女子選手への熱心な指導が効果を現し、選手たちも順調に成長した。
 男子選手の前座的な扱いをされている状況には変わらなかったが、
 女子部の試合に熱戦が増え、評判を呼び、観客増員数が徐々に増えていた。

 また沙也加の経営手腕も、すぐに認められた。
 彼女が手掛ける興行は、地域や観客の期待と悉くマッチし、次々と成功。スポンサーも急増した。

 おかげで、それまでほぼ自転車操業であったブレバリーズの経営は、瞬く間に安定した業績が得られるようになり、
 団体の再建を実現させていたのだった。
 社内や支援者から圧倒的な支持を集め、沙也加は入社2年目にして、ブレバリーズの取締役副社長を務めることとなった。

 副社長就任の辞令が出た日、多くの選手や関係者からの拍手に包まれた。
 しかし一人、社長の新崎仁志だけは、その姿を冷ややかに見つめていた。

 そんな中、沙也加にはひとつ、大きな懸念があった。

 興行の中のメインイベントのさ中、沙也加は静かにリングを見つめていた。
 青いマットの上で、男たちが躍動している。
 試合は大きく盛り上がっていた。
 派手な動きを伴いながら、力比べに、大技の応酬に、マイクパフォーマンスに...
 その光景は華やで、観客も沸いている。

 しかし、同時に、どこか物足りなかった。

 男子部の練習場。
 ジムでは、スマホで動画を見ながらストレッチをしている者さえいた。
 いつものメニューで、いつもの様に身体を動かす姿。
 トレーニングには変わりないが、それはレベルを上げるためのものとは、ほど遠いもの。
 気持ちよく汗をかいているだけの自己満足と、大差なし。見る者が見れば、明白なものであった。

 ──そこには“闘い”がなかった。

 勝敗ではなく、演出とパフォーマンス。
 メインを張る男たちの試合は確かに熱い。が、あの一撃の必然、魂を削る闘いとは違う。

 「……足りないわね」

 誰にも聞こえないほどの声で、沙也加はつぶやいた。
 順調な経営とは裏腹の大きな危機感により、彼女の心中は穏やかではなかった。


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