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第1章:異世界転移編

第10話 公園ダンジョンの管理官

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 神田 喜美(かんだ きみ)は、おばあちゃん子だった事もあり、病気や介護、福祉関係を充実させる仕事をしたく、大学を卒業後、その仕事が出来る公的組織へ就職した。だが、どうした事か、ダンジョン関係のJDSAへの出向となってしまったのだ。

 最初はかなり落ち込んだ。上司へ抗議した事もあったが、ダンジョンシーカー達の一生懸命を見て、気持ちが変わったのだ。何とかシーカー達の役に立ちたいと思うようになっていった。

 そして、ある小さな公園に出来たダンジョンの出張所に管理官として出向くことになったのだ。円滑な情報及び充実した各種のサポートの提供を、より効率的に調整、管理できるように尽力したいと思い頑張っていた。のだけど、日々、色んな問題が生じ、忙しさに忙殺されてしまっているのが現状なのだ。

 シーカー達は、命をかけた仕事をしている、そのため、何事にかけてもシビアなのだ。だから、こちらもそれに準じた対応をしないといけない。

 そんな、ストレスの溜まる仕事のなかで、実は、日々、癒されている事があったのだ。

 それは、最近シーカーになったばかりの男の子で、名を蓮君と言う。彼は、ほぼ毎日同じ時間にやって来て、いつも私に挨拶をした後、このダンジョンの低階層に潜り、ほぼ同じ時間に帰ってくる。

 彼は、自分はコミュ障なので、人と接するのは苦手だからと、素っ気ない態度を彼本人は取っているつもりなのだろう。けど、かなり、きょどっている。また、その姿が、まるで子犬のように可愛いのだ。

 18歳の男の子に可愛いなんて失礼なのだろうけど、自分は姉がいるが、兄弟がいないので、まるで弟のように思ってしまったのだ、が、他のシーカーさんと同じように扱わないといけないと思いつつ、彼のシーカー活動を陰ながら見守る事しかできないでいた。

 そんな彼は、同じ時期にシーカーになった、金森 優也(かなもり ゆうや)と言うシーカーから、かなりの嫌がらせと言うか、ほぼ犯罪と思われるような、略奪行為や暴力を受けているのだ。

 その行為を知り、何度も上に訴えているのだが、金森の父親が、JDSAの上部組織の偉いさんとかで、いつも不問にされている。本当に腹が立つ。

 この優也、親のコネで、大学に行きながらの片手間のシーカーで、レベル上げは寄生しての人任せ、探索は面倒だと、真面目に探索しているシーカーから巻き上げては、その都度、問題になっていた。ダンジョン内で、他のシーカーが手に入れたスキルオーブを奪い、それを使って奪った相手に大怪我を負わせ、それを父親が金で丸めこんで示談にしたのは有名な話だ。そして、優也はというと、一週間の謹慎処分という軽い罪で終わり、その後も、堂々とシーカーを続けている。

 こんな男、許せるはずがないのだが、何とか出来ないかと、各所に出向き、その算段を練っているところなのだが、そんなある日の事。

 いつものように、元気に蓮君はダンジョンにやって来た。その前の日、いつもより収入が良かったようで、とても嬉しそうだったのだ。

「今日も、良い探索を!」

 そう言ってあげると、とても嬉しそうにダンジョン入口の扉へ入っていった。蓮君の後ろ姿は、無いはずの尻尾が、ブンブンと振っているように見える。

「ううう、かわいい!もう天使。」

 つい、その言葉が口からでそうになった。

 ◇◇◇

 しかし、夕方になっても、彼は帰ってこなかった。そして、しばらくすると、あの優也と仲間がふざけ合いながらダンジョンから出てきたのが見えた。

 何か嫌な予感がしたので、そっと、後ろをつけ、会話を聞いてみる事にしたのだ。私の耳は人一倍いい。公表はしていないが、そう言ったスキルを持ってるのだから。

 連中は、近くのファミレスに入っていって、下品な態度で店員に脅迫まがいの悪態を付きながら、大きな顔で広い席を陣取っていた。

 席にドカッと座った優也の仲間の一人が、おもむろに話し出す。

「ち、ほんと、ついてないよな。いいカモがいて、いいもん持ってたと思ったのによぉ。」

 その横にいた男が、それに答えるように、

「オーブ置いてけってんだよ。なぁ。」

 と、返事をした。それに対し、最初に、話した男が、優也に向き、避難するように声をかける。

「後ろからボコって、無理やり奪ってたら、こんな事になんなかったのによ。優也が、からかおうなんて言うから。」

 その言葉に、苦々しそうに優也は答える。

「うっせーな。あいつをからかって、なぶったら、おもしれーんだよ。あいつ見てたら腹立つんだ。弱っちー近所にいた野良犬みたいでさ。イライラして、蹴っ飛ばしたくなるんだよ。」

 その内の腰ぎんちゃくのような一人の男が、ちょっと心配そうに話をする。

「あいつ、死んだかな?これ、JDSAに知らせなくていいのか?俺ら、一回謹慎くらってんだろ?これを知らせなかったら、今度はただ済じゃなくなんねーか?」

「別にいいんじゃね?俺らのせいじゃないだろ?ダンジョン崩落ってさ。低能ダンジョンシーカーが一人いなくなったって、問題ないんじゃね。」

 優也は、ニヤニヤ笑いながら、

「なんかあっても、親父がなんとかしてくれるぜ。」

 そう言うと、興味無さげに、あくびをした。


 その会話を一通り聞いた喜美は、怒りで我を忘れていた。

「蓮君がダンジョン崩落に巻き込まれた?ウソだ!ウソだー!助けなきゃ、助けなきゃ!!」

 必死で、ファミレスを出て、公園ダンジョンに向かい走っていたのだ。

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