上 下
113 / 131
第4章:帝国編

第113話 準備は整った

しおりを挟む
 モントヴル王国の国王は君臨すれども統治せずをモットーにしており、統合の象徴としてのみ存在している。その為、国の政治体勢は議院内閣制を取っているのだ。

 議会制ではあるが国民が選挙で代表を選出すると言うものではなく、代表は貴族からの持ち回りによる選出である身分制議会だ。そして、その議会の主席である宰相のみが議会からの投票での選出される事になっている。だが権力を持った一貴族が代表を独占すると言う事がないよう、その為に期間は設けられての持ち回り制なのだ。

 この国の隣国にアドルシュテイン帝国のような権威主義国家が存在する。常にそことのいざこざが絶えなかったのだが、前皇帝の代になってからは、穏健な人柄と知慮深く有能な君主だった事もあり、国も富み栄えていた。その事で争う事もなくなり、それなりに平和的な関係が続いていたのだが、それが代替わりしてからはその関係は一変したのだ。

 現皇帝になり、ここ十年という間に帝国の貴族たち特権階級の腐敗は進み、その貴族達のいい加減な領地運営に加え贅沢三昧と財政が圧迫したようだ。その為にその負担は国民へと降りかかった。

 それでも、ラティア辺境伯のような貴族もいた事で、辛うじて国は保っていたわけだが。

 モントヴル王国も馬鹿じゃない。それ相当の軍備と周辺国との良い関係を維持しての、対抗手段は整えてはいたのだ。

 そう言う外交に関して、そこは国王が担っている。

 のだが……。


「国王!帝国の公爵が味方として合流してくれるんですよ。解ってますよね。決して、惑わすような行為は避けてくださいね!」

 宰相は国王にくれぐれも真っ当な対応を頼みますと念を押した。

「解ってるって。今までだってちゃんと国王やってただろ?!」

 宰相は今日も今日とて国王にグチグチと苦言を呈していた。

「と言うか、何でまだお前が宰相やってるんだ?この国では権力集中を嫌っての任期ってもんがあるだろうが」

「あなたのせいでしょうが!他の高位貴族の誰がなっても、すぐに泣きを入れられたんですよ。本当にあなたは……。国の貴重な人材をもっと大切にしてくださいよ!」

「しつこい、解ってるって。これでも外では人望厚く信頼のおけるイケメン国王って事になってんだからな」

「ハイハイ、イケメンは余分ですから。いつまでもベッドでゴロゴロしてないで、さっさと顔を洗って着替えての準備をしてくださいね。着替えはそこに出してますから」

「これ着るんか?堅苦しいな。って言うか、お前は俺の嫁か!」

「気持ち悪い言い方は止めてください。そんなに嫁が欲しければ、いくらでも婚姻の申し出は来てるのですから、逃げないでさっさと決めてくださいね。それとこっちもさっさと用意して降りて来てください。では下でお待ちしております」

 それだけ言うと、国王を一人残して宰相が寝室を後にした。宰相は国王の幼馴染であり、所謂腐れ縁というやつだ。

「チ、俺は国王なんだぞ!なんで綺麗なメイド一人いないんだよ!一人で着替えろってのか!クソ~。いつかあいつをしばく!」

 国王の寝室に悲壮の叫びが響くのだった。これはモントヴル王国の朝の日常なのでした。


 ◇◇◇


 モントヴル国王とクレマント公爵が合流して、周辺諸国を説得してくれたようだ。

 帝国の公爵やラティア辺境伯、それだけでなくオルロープ商会が全面的にバックアップしているとなれば、信頼に足りると言うことで、各国もかなりの援軍を約束してくれたようだ。

 そこは誠実で厚い人脈のある国王は、それなりに諸外国から信頼されているようで、前々からの有能な宰相の根回し(脅し)が功を奏したことも一因なのだろう。

 モントヴルの東に位置するフォンテブルクの隣は、クレマント公爵領でその隣がラティア辺境伯領だ。そう言う事で、フォンテブルクの街は戦火に巻き込まれる事はなく大丈夫だろう。それより西側が問題なのだ。

 帝国が攻めてくるなら西からだろう。そこで西側に戦力を集中させる事にした。

 砦の前には塹壕ざんごうを築き、多くの騎士を配置した。砦の高い塀の上には多くのバリスタが並び、後方には弓兵と魔法兵を待機させる。そうやって帝国からの兵を迎え打つ事にしたのだった。

 帝国兵が攻めて来る前に、モントヴル側はなんとか準備は整った。

 後は、S級勇者たちと冒険者たちの一団が首尾よくやってくれるかが鍵となっているのだ。

 万が一、それが失敗したら、こちらでの戦いが始まり、両軍ともに多くの人命が失われかねない。それはなんとか阻止したいのだ。

「勇者様方、どうかよろしく頼みます!」

 宰相は心の中で必死で願うのだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:4,128

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:102

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,464pt お気に入り:4,744

処理中です...