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第4章:帝国編

第116話 帝都の惨状

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 帝都に着いた僕たちが見た光景は、呆然とするほど、見渡す限りそれは見るも無残な痛ましい様相を呈していたのだ。

 街のあちこちで、魔物が暴れまわった事で軒並み建物が破壊されており、残念ながら魔物の餌食となってしまった人たちの無残な痕跡がそこかしこに残されているのだ。
 その光景は惨憺さんたんたる有様であり、目を背けるしか出来無い状態だった。
 遠くの方から何かが破壊される音が聞こえてくる。それは、まだ魔物が暴れているのだろうか、犠牲者はまだまだ出るかもしれない。

「フランソワ、何とか助けられる者がいるのであれば、やってみてくれないか?」

 現状の痛ましい光景を見る限り、さすがに彼女であっても助けるのは無理であろう事が本城にも理解できてはいるのだろうが、そこをなんとか出来ないか?と頼んでいたのだ。フランソワさんが悲しそうに首を振る表情を見て、悲愴感が漂よう様相で天を仰いでいた。

 だが、僕は…。

「いや、まだ助けられる人がいるかも知れない」

 もしかしたら、この瓦礫の中に助けを求めている人がいるかも、ここで見た光景をそのまま受け止める事が出来ず、強迫観念に刈られての、ワラにもすがる思いで<気配察知>で周囲を観察してみたのだ。すると―――。

「あ!いた!」

 僕は物陰で、固まった状態で息をひそめて隠れている人たちを見つけたのだ。

「あ、あそこです。あそこにまだ生きている人たちがいます!」

 僕は必死で指差しての、皆を引き連れて急いでその場所に向かう。するとそこには冒険者風の男達に守られての、疲れ切り、ぐったりとした様子の人たちがうずくまっっていた。

「大丈夫ですか?!怪我の酷い方はいますか?」

 僕がそう聞くと、その中の一人が苦し気に声を発っしたのだった。

「おお、助かった、、、誰か、誰かポーションは持ってないか?全て使いつくしてしまったんだ。皆、何かしら怪我をしているんだが、特にあいつはかなり酷い……息子なんだ、どうか助けてくれ……」

 見ると、一人の少年が真っ青な顔で腹から酷く血を流し、ぐったりとしていた。僕は慌てて彼に回復を掛けながら、フランソワさんを呼んで癒してもらう。フランソワさんの治療は覿面てきめんで、みるみると顔に赤みがさして、穏やかな表情に戻ったようだ。

「(よかった…)もう大丈夫ですよ」

 僕は彼らにそう言うと、体力回復ポーションを渡して、それを飲む様に促した。そうして、それを飲んだ人たちは―――。

「おお、みなぎってくる。身体が軽くなって元気が出てきた。もう無理だと半ば諦めていたんだ。本当にありがとう」

 そう言いいながら、涙を流し、周りの皆と抱き合って喜んでいた。

 まだ、隠れている人たちがいるかもと、<気配察知>をフル稼働して、僕は街中を駆け回り、皆と協力して出来る限りの救助活動を行ったのだった。

 S級勇者たちやオッサンたちも、四方に飛び、まだ暴れている魔物たちを駆除しながら、魔素の強い区画へと進んで行った。そうこうしているうちに、先行していたアーヴィンさんとも合流を果たす事ができた。

 だが、街の中央部に向かうほど魔素が濃くなり、中心にある城の周囲、所謂、高級住宅地、貴族の邸宅がある区画は、特に酷く濃い魔素が充満しているようで、強力な魔物が徘徊しているようだ。

「こりゃ、臭いニオイは元から絶たなきゃダメ!って事ですかね」

 と僕が嘆くと……。

「お前はいくつだよ?」

 本城さんに笑われてしまったが、本城さんこそ、それ知ってるじゃんw


 ◇◇◇


 助け出した人たちを、避難所になっていた教会へと誘導してから、恐怖からか疲弊している人たちに、何とか元気になってもらいたくて、僕は炊き出しをする事にしたのだ。

 クライドたちに手伝ってもらって、おにぎりを作り、本城さんからのリクエストで豚汁を作る事にした。
 オーク肉を使っての、大根と厚揚げ、里芋、ゴボウ、ニンジン、しいたけ、こんにゃくを入れた具たっぷり豚汁を大鍋で作り、それをおにぎりと一緒に配る。
 特に豚汁は冒険者さんたちから好評のようだ。

「初めて食べる味だが、これはイイ!」
「美味い!これは温まる!」
「なんだか、力が沸き上がる気がするぞ…」

 そう、大絶賛されてしまったのだ。彼らを鑑定したら、軒並み皆の体力が上がっていたのに少しビビってしまったのは内緒だ。

 そして食べた事で、元気を取り戻したここのリーダーらしき男から、この状況になった事の経緯などを、話をしてもらったのだ。

 ここ帝都に、いつからか、何か嫌な雰囲気が漂うようになっていたそうだ。どこからか低級の魔物がたまにこの帝都に紛れ込んで来ては、街の人たちが襲われる事案がたまに起こるようになっていた。

 そこで冒険者ギルドに魔物討伐と調査依頼が入る様になり。そのうちに、その依頼の頻度が段々増すようになってきた。

「不審に思った俺たちも、ギルマスに相談していたのだが……」

 冒険者ギルドのギルマスは、衛兵詰所や城の役人にも、この事を知らせて、何かしらの対策の要請はしていた。だが、何度連絡を入れても、何故かまったく取り合ってはもらえないのだ。
 ギルマスもほどほど困っていたとのことだった。

 そんな状況が長く続いた時、恐れていた事が起こってしまった。この状態に陥ったのだ。それは本当に突然だった。

「恐ろしい数の魔物がこの街のあちらこちらから湧き出して、人々を襲いだしたんだ」

 緊急事態となり、人々は逃げ惑い帝都中が大混乱になったのは言うまでもない。冒険者ギルドもそれは御多分に洩れず、右往左往だった。
 冒険者たちを急いで掻き集めたのだが、困った事に、それまでに帝都を見限って拠点を変える冒険者が増えていた事もあって、明らかに人手が足りない。その上、軍は出陣した後で、兵士の数も足りないと来た。

「最悪だ!」

 それでも、街の治安を担っていた衛兵たち、冒険者、戦闘スキルを持っている人たちが総動員で、力を合わせて必死で戦った。
 助けられなかった者も多くはいたが、それでも少しでも多くの人を助けようと皆頑張ったんだ。

「無限の体力があるわけでなく、次々に脱落する者たちが増えていき、遂に万策尽きた。それで魔物から見つからないように息をひそめていた所をあなた方に助けられた……」

 だが、これからどうしたらいいんだと彼は嘆く。周りの者たちの中には泣き崩れてしまった者もいる。

「もうすぐ、帝国兵もこちらに帰ってきます。もう少しの辛抱ですから」

 彼らの鎮痛な様相を見つつ、僕はそう言うしか出来ないでいた。


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