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第4章:帝国編
第130話 深層世界
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『よお、久しぶりだな。元気そうでなによりだ』
苦々しい形相で声をかけて来た不気味な男こそ男神ベルディエルだ。女神は呆れた風に男神を見つめては答える。
『はい、お陰様で充分に休む事ができましたので。ところで、あなたのお目覚めは余りよろしくはなさそうですね。眠り足らないようですか?』
『あははは、相変わらず面倒見がいいな。だが、いらんお世話だ』
お前も言うようになったなと、不敵に笑う。
女神はそんな男神を見つめながら、彼の心の深層が、どうしてこれほど荒れ果ててしまったか憂う。
『何故にあなたは、そこまでして、この世界を壊そうとしたのですか?』
長き眠りの中で己の愚かさに気付いてほしいと言う想いは無駄だったのかと女神は思う。
『そうだな。退屈だったのかもな。そう、つまらなかった。
我々が与えた加護によって、毎日毎日、平和という日常が続く世界。それをただ見守るだけと言う事が我には耐えられなかったのだ。それにだ……。
それを当たりまえのように、施される享受を、何の疑問も持たず平々凡々と生きている者達への怒りが湧き上がってしまった』
ベルディエルは遠い目をして当時の事を振り返る。
『だから、刺激を与えてやったんだよ』
女神は何を思ったのか、ふっと笑う。
『もしかしたら、私たちは色んな事を間違ったのかも知れません。ここを創造した時に私達の仕事はすでに終わっていたのかもしれませんね』
女神は知ってしまった。
陰湿な策略により、切羽詰まっての、ここのダンジョンを別の世界へと繋げた。その繋げた先の地球という世界と、そこに息づく人々を知り、驚愕の事実を知る事になる。
そう、その世界に干渉する神はいなかったのだ。
『ああ、そうなのですね。子供たちの行く末を、私たちが勝手に決めてはいけなかったのかもしれません……』
初めて創造した世界は、とてもかわいい子供でした。そこで、良かれと思い、神の加護という名で職業を与え、生まれながらにして、迷う事がないよう、各自の生きる道を決めてあげたのです。
だけども、その事は、各々を見えない鎖で縛り、そのしがらみのせいで自主性を奪い、それぞれの生きる道を狭めてしまったのではないかと。
私たちは過保護過ぎたのでしょう。自分たちが創造した以上は最後まで責任を追うべきだと思い込み過ぎたのです。
何故なら、地球と言う世界は、私たちが想像にすらしない発展を遂げただけでなく、全ての可能性は未知数だったからです。
ある程度の自立を促せれば、速やかに神界に帰るべきでした。
そう、世界を生かすのも壊すのも、この世界に生きる者たちの判断に任せる事が最善だったのだと。私《わたくし》はそう感じたのです。
女神はそう男神に切々と訴え、また問いかける。
『それとも、このまま彼らと戦い続け、この世界の崩壊か?もしくは己の消滅か? どちらかの道を選ぶのですか? どうか懸命な判断をお願いしたいのです。あの頃のような賢明で優しいあなたに戻ってほしいと』
男神の澱んだ影は少し薄れたように見える。女神は更に訴えかける……。
『もう一度、二人で手を取り合えないのですか?』
そう伝える女神の言葉を、聞いているのか? いないのか?男神はその問いに答えず。
『我が戦っているのは、その別の世界の者たちなのか?』
『そう、あなたを倒せる者はこの世界にはいませんものね』
『そうだな。我の完全体でないまま戦い続ければ、もしかしたら、あの者たちの勝利に終わるかもしれんな。だが、彼らが神殺しを享受するのであればな』
『それはあなたの自業自得ですよ。すでに邪神と化した者を殺したとして、そんなものに何の罰が課せられましょうか?』
男神の闇と気配が先ほどより、もっと薄くなっているようだ。
『どうします? もう止めませんか……? どうか、また最初からやり直しましょう』
どんどんと、気配が薄れる男神に女神はそっと手を刺しのべた。が、男神は寂しそうに首を横に振る。
『ダメだ。我はその手をもう取れない。分かっていたのだ。我がしている事がいかに愚かであるかを。自身が壊れて行く過程で……、本当の事を言うと、実はお前に頼りたかったのだろう。だが、我のプライドがそれをどうしても許さなかった。
罪を犯し過ぎた。そんな我を神界はもう受け入れてはくれないだろう』
『二人で償いましょう。幾千万、どれだけの月日が過ぎようとも、あなたと一緒でしたら私は何ら苦ではありませんよ』
女神は男神の手を強引に掴むと、己の元へと引き寄せ、抱きしめた。邪悪なオーラに包まれていた男神の姿は以前の穏やかな姿へと戻りつつある。
『すまんな、長い月日、たった一人でこの世界を任せてしまったな』
『そうですよ。ほんと、あなたは馬鹿ですね。面倒な事は全て私に丸投げなのですもの』
アルフォーニスはそう言うと、優しい目で微笑む。ベルディエルはそんな女神の頬を優しく撫でると、彼女の身体をそっと押しのけ、彼女の手を振り切った。
『すまない!最後まで迷惑かけた』
そう言うと、ベルディエルは自分自身が作り上げた暗黒の闇、ブラックホールに飲み込まれるように、するすると後退していく。
慌てた女神は、それを追うも、男神はまるで後ろ向きで崖から身を投げるような姿でブラックホールへと吸い込まれて……。
だが女神はそれでも諦めずに、必死で止めようと吸い込まれそうになる男神に向かって飛びついて行った。
『ベルディエル!!』
二人の姿は共に暗黒の闇の中へと消えて行った。
◇◇◇
「女神さまーーーー!」
少し離れた所で二人のやり取りを見つめていた僕は、二人がブラックホールに落ちて行くのを知って、慌てて止めに入ろうとするが、もちろん間に合わない。
「どうしよう! リンゴ! 女神様が!!」
あたふたしていると、自身が立っていた場所が揺れ出した。次第にその揺れは激しくなる。男神が居なくなった事で、この深層世界の崩壊が始まったのだ。
「わぁ~~~!壊れる!!」
僕は必死でリンゴにしがみ付いた。すると、リンゴが自分に乗れと言わんばかりに、かがんでくる。僕が背中に乗ると、リンゴはすごい勢いで駆けだした。リンゴはひょいひょいと壊れる地面を蹴り避けながら、一際明るい光の方へと向かい、走りを加速した。
苦々しい形相で声をかけて来た不気味な男こそ男神ベルディエルだ。女神は呆れた風に男神を見つめては答える。
『はい、お陰様で充分に休む事ができましたので。ところで、あなたのお目覚めは余りよろしくはなさそうですね。眠り足らないようですか?』
『あははは、相変わらず面倒見がいいな。だが、いらんお世話だ』
お前も言うようになったなと、不敵に笑う。
女神はそんな男神を見つめながら、彼の心の深層が、どうしてこれほど荒れ果ててしまったか憂う。
『何故にあなたは、そこまでして、この世界を壊そうとしたのですか?』
長き眠りの中で己の愚かさに気付いてほしいと言う想いは無駄だったのかと女神は思う。
『そうだな。退屈だったのかもな。そう、つまらなかった。
我々が与えた加護によって、毎日毎日、平和という日常が続く世界。それをただ見守るだけと言う事が我には耐えられなかったのだ。それにだ……。
それを当たりまえのように、施される享受を、何の疑問も持たず平々凡々と生きている者達への怒りが湧き上がってしまった』
ベルディエルは遠い目をして当時の事を振り返る。
『だから、刺激を与えてやったんだよ』
女神は何を思ったのか、ふっと笑う。
『もしかしたら、私たちは色んな事を間違ったのかも知れません。ここを創造した時に私達の仕事はすでに終わっていたのかもしれませんね』
女神は知ってしまった。
陰湿な策略により、切羽詰まっての、ここのダンジョンを別の世界へと繋げた。その繋げた先の地球という世界と、そこに息づく人々を知り、驚愕の事実を知る事になる。
そう、その世界に干渉する神はいなかったのだ。
『ああ、そうなのですね。子供たちの行く末を、私たちが勝手に決めてはいけなかったのかもしれません……』
初めて創造した世界は、とてもかわいい子供でした。そこで、良かれと思い、神の加護という名で職業を与え、生まれながらにして、迷う事がないよう、各自の生きる道を決めてあげたのです。
だけども、その事は、各々を見えない鎖で縛り、そのしがらみのせいで自主性を奪い、それぞれの生きる道を狭めてしまったのではないかと。
私たちは過保護過ぎたのでしょう。自分たちが創造した以上は最後まで責任を追うべきだと思い込み過ぎたのです。
何故なら、地球と言う世界は、私たちが想像にすらしない発展を遂げただけでなく、全ての可能性は未知数だったからです。
ある程度の自立を促せれば、速やかに神界に帰るべきでした。
そう、世界を生かすのも壊すのも、この世界に生きる者たちの判断に任せる事が最善だったのだと。私《わたくし》はそう感じたのです。
女神はそう男神に切々と訴え、また問いかける。
『それとも、このまま彼らと戦い続け、この世界の崩壊か?もしくは己の消滅か? どちらかの道を選ぶのですか? どうか懸命な判断をお願いしたいのです。あの頃のような賢明で優しいあなたに戻ってほしいと』
男神の澱んだ影は少し薄れたように見える。女神は更に訴えかける……。
『もう一度、二人で手を取り合えないのですか?』
そう伝える女神の言葉を、聞いているのか? いないのか?男神はその問いに答えず。
『我が戦っているのは、その別の世界の者たちなのか?』
『そう、あなたを倒せる者はこの世界にはいませんものね』
『そうだな。我の完全体でないまま戦い続ければ、もしかしたら、あの者たちの勝利に終わるかもしれんな。だが、彼らが神殺しを享受するのであればな』
『それはあなたの自業自得ですよ。すでに邪神と化した者を殺したとして、そんなものに何の罰が課せられましょうか?』
男神の闇と気配が先ほどより、もっと薄くなっているようだ。
『どうします? もう止めませんか……? どうか、また最初からやり直しましょう』
どんどんと、気配が薄れる男神に女神はそっと手を刺しのべた。が、男神は寂しそうに首を横に振る。
『ダメだ。我はその手をもう取れない。分かっていたのだ。我がしている事がいかに愚かであるかを。自身が壊れて行く過程で……、本当の事を言うと、実はお前に頼りたかったのだろう。だが、我のプライドがそれをどうしても許さなかった。
罪を犯し過ぎた。そんな我を神界はもう受け入れてはくれないだろう』
『二人で償いましょう。幾千万、どれだけの月日が過ぎようとも、あなたと一緒でしたら私は何ら苦ではありませんよ』
女神は男神の手を強引に掴むと、己の元へと引き寄せ、抱きしめた。邪悪なオーラに包まれていた男神の姿は以前の穏やかな姿へと戻りつつある。
『すまんな、長い月日、たった一人でこの世界を任せてしまったな』
『そうですよ。ほんと、あなたは馬鹿ですね。面倒な事は全て私に丸投げなのですもの』
アルフォーニスはそう言うと、優しい目で微笑む。ベルディエルはそんな女神の頬を優しく撫でると、彼女の身体をそっと押しのけ、彼女の手を振り切った。
『すまない!最後まで迷惑かけた』
そう言うと、ベルディエルは自分自身が作り上げた暗黒の闇、ブラックホールに飲み込まれるように、するすると後退していく。
慌てた女神は、それを追うも、男神はまるで後ろ向きで崖から身を投げるような姿でブラックホールへと吸い込まれて……。
だが女神はそれでも諦めずに、必死で止めようと吸い込まれそうになる男神に向かって飛びついて行った。
『ベルディエル!!』
二人の姿は共に暗黒の闇の中へと消えて行った。
◇◇◇
「女神さまーーーー!」
少し離れた所で二人のやり取りを見つめていた僕は、二人がブラックホールに落ちて行くのを知って、慌てて止めに入ろうとするが、もちろん間に合わない。
「どうしよう! リンゴ! 女神様が!!」
あたふたしていると、自身が立っていた場所が揺れ出した。次第にその揺れは激しくなる。男神が居なくなった事で、この深層世界の崩壊が始まったのだ。
「わぁ~~~!壊れる!!」
僕は必死でリンゴにしがみ付いた。すると、リンゴが自分に乗れと言わんばかりに、かがんでくる。僕が背中に乗ると、リンゴはすごい勢いで駆けだした。リンゴはひょいひょいと壊れる地面を蹴り避けながら、一際明るい光の方へと向かい、走りを加速した。
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