目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

文字の大きさ
18 / 68
1年

魔物の森へ1

しおりを挟む
 夏休みが明けて後期授業が始まった。久しぶりに会った両親はとても元気そうだったよ。嬉しいことに来年は、僕の弟か妹が産まれることになったんだって。僕がいなくなって夫婦でイチャイチャした結果らしいよ。使用人たちが噂してるのを聞いちゃった。
 前世も前々世も僕は義理の親に育ててもらったから、こうやって血の繋がってる家族って初めてなんだ。それに兄弟もいなかったしね。だからものすごく楽しみ。

 マシューは家には戻らずアルバイトをしてたんだって。トーマ君とペアになって、いろんなところで雑用をやったと聞いてる。二人とも学費だけ免除だから、家からの仕送りだけでは足りない分を稼いだって話だった。

 アルバイトはね、冒険者ギルドで紹介してもらうんだよ。この土地だけの特例で、冒険者ギルドの中に学生専用窓口があるんだ。エンダル学園の生徒なら誰でも利用できて、学年に応じてアルバイトを斡旋してくれるんだ。十三歳になったら冒険者として登録は出来るけど、学園生は卒業までは学生専用窓口の利用を義務付けられてるそうだ。
 この学生専用窓口はアルバイトをお願いする側にもメリットがあるんだよ。仕事に来る子は学園に身元を保証されてるからね、安心なんだってさ。



「準備出来たか?」
「うん。荷物はもう一回確認したから大丈夫だよ」
「水筒は?」
「持ったよ。ちゃんと水も入れた。今回は魔法に頼っちゃダメって言われたからね」
「水球を出せないヤツの方が多いからな。正論だと思うぜ」
「だね」
「おしっ、じゃあ行くか!」

 気合を入れて僕たちは寮の部屋を後にした。
 実は今日、僕たちのクラスは魔物の森へ行くんだ。これは1年生の恒例行事で、入学したときからずーっと楽しみにしてたんだよ。
 僕たちが行くのは魔物の森の中でも比較的安全な浅い場所だ。魔物に出会う可能性はほぼ無いよ。遠足みたいなカンジで森の雰囲気だけを味合わせるのが目的。この行事は以前は3年生を対象にしてたんだけど、引率者の注意を聞かない子が出ることが多かったのもあって、1年生用の行事に変えたそうなんだ。1年生だとまだ素振り以外剣の授業は無いし、身体も小さく入学したばかりで従順な子が多いからってのが理由らしいよ。何となく、学園側も苦労したんだなって思っちゃうね。



「ここが魔物の森の入り口だ。ここ以外は分厚い土の壁で覆っていて、魔物が森の外に出ないようにしている。門を通るときに分かると思うが、かなり分厚い壁だ。土壁ではあるものの、魔法で固めてほとんど石壁と言っても変わらないものだぞ」

 一旦教室に集まった僕たちは、フィラー先生に先導されて魔物の森の入り口までやって来た。そして今、森に入る前に簡単な説明を行ってるところだ。

「今日は私が一括でやるから君たちは必要無いが、魔物の森へ入るときはそこの受付で必要事項を記入するのを義務付けられている。書く内容としては、名前の他には滞在予定日数等だな。予定を大幅に過ぎても戻ってこない場合は、学生の場合は捜索隊が派遣される。冒険者の場合は調査隊が派遣されることもある」

 そう言ってから先生は一枚の紙を僕たちに見せた。

「これが受付に出す用紙だな。学生の場合は事前に記入して先生のサインを貰う必要がある。受付に持って行ったとき先生のサインが無いと、ここの門は開けて貰えないからな。興味本位で入ろうとしても無理だってのは覚えておくように。特にアルト君、君はこっそりここへ来そうだから、しっかりと覚えておくように」
「えっ、何で分かったの?」

 これには全員が笑っちゃったよ。でも本当にアルト君なら何かやりそうな雰囲気なんだよね。先生が事前に釘を刺すのも分かるかも。

「それじゃあ今日一日案内をしてくれる冒険者さんたちを紹介するから、班に分かれてくれ。皆冒険者さんたちの言うことをしっかり聞くこと。君たちのことは後で冒険者さんたちから報告してもらうことになってるから、私が見てないからと言って安心しないように。
 念のためにもう一度言っておくがここは魔物の森だ。比較的安全な場所に行くことになってるが、魔物が出る可能性があることを忘れないように。それじゃあいってらっしゃい」

 僕たちは四人一組になって、それぞれ担当の冒険者グループと挨拶を交わした。冒険者グループは四人、または五人のグループで、僕たちの担当は五年前から学園と契約してるんだって。だから案内も慣れてるそうだ。

「じゃあ出発するか。とりあえず森に入ろう。付いてきて」

 いつまでも門の前にいても仕方ないってことで、さっそく僕たちは森の中へ入った。今世では初めての魔物の森、ワクワクしちゃうね。

「あれっ、道がある!」
「昔は無かったそうだぞ。ダンジョンが発見されて道を作ったと言う話だ。今日は近場だから歩きだが、ダンジョンに行く場合は魔道カートに乗っていくんだ」
「魔道カート?」
「あー、せっかくだから見て行くか? 一度門を出ることになるが良いかな?」

 全員で大きく頷いてしまった。と言うことで入ったばかりの森を出て、再度受付のところへ移動した。
 それにしても魔物の森に道があってビックリだよ。魔物の森もいろいろ変わったんだなぁとしみじみしちゃった。きっとマシューも同じことを考えてると思う。

「ほらっ、これが魔道カートだ。動かす場合はここに魔石をセットするんだ」

 受付の隣の小屋で見せてもらった魔道カートは、屋根の無い箱車ってカンジのものだった。魔道馬車をもっと簡素化したようなものなのかな? これ一台に大人六人が乗れるくらいの大きさだった。
 ダンジョンに行く場合は、早朝にこの魔道カートに乗って出発するんだって。そうすると暗くなる頃に休憩小屋に到着できるそうだ。そこで一泊して、それから徒歩でダンジョンに向かうってのが通常の流れ。魔道カートは魔石をずらして置いてから、鍵をかけて他の魔石を置けないようにするのが決まりだそうだよ。盗難防止だね。ちなみに鍵は出発前に任意の数字の組み合わせを設定するんだってさ。

 森の中に広い道があるのも驚いたけど、休憩小屋があるのにはもっと驚いた。そしてもっともっと驚いたことは、その小屋には人が常駐してるってことだ。学園と契約した数グループの冒険者たちが、交代でそこに常駐して管理してるんだって。詳しい内容は聞いてないけど、常に魔石を使った結界を張ってるそうだ。

「よし。じゃあ、改めて森へ入ろうか」

 と言うことで、他の班よりかなり遅くなってしまったけど、僕らの魔物の森探検と言う名の遠足が始まった。




※※※
実際には壁では無く塀です。
本来は修正すべきなのですが、申し訳ありません、今回は断念しました。
ご了承ください。
以降も『土壁』と言う単語が出てきますが、脳内変換よろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...