目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

文字の大きさ
65 / 68
2年

野営料理入門7

しおりを挟む
「じゃあ僕たちは魚を捕ろうか? マシューよろしくね」
「おう。セインから事前にたっぷり礼を貰ったからな。よろしくされてやろう」
「なっ、何てこと言うのさぁ……」
「さてな。いったいセインは何を想像したんだろうな?」

 マシューはニヤリとしてからリロイさんたちの方へ行ってしまった。マシューの言うお礼ってアレでしょ? 思い出したら恥ずかしくなってしまったよ。イジワルだなぁ。

「セイン君、顔が赤いけど大丈夫かい?」
「いえ、あの……なんでもないです」
「熱は無いよね?」
「そう言うのじゃないです。ちょっとマシューに揶揄われただけ」
「あはは。そう言やリロイも、よく顔を真っ赤にして怒ってるよね。ウィードがさ、そのうち血管が切れるんじゃないかって心配してた」

 リロイさんはとても良い人だけどちょっと単純なところがあるから、ちょくちょくマシューに揶揄われてるみたい。放課後は大図書館に行くのがほとんどな僕に対して、マシューはリロイさんたちと会ってることもあるみたいなんだ。アルバイトを探しにギルドへ行くことも多いから、自然と顔を合わせる機会もあるらしい。

「早速捕るんだって?」
「はい。出来れば冒険者さんたち全員分捕りたいと思ってます」
「結構な人数だからな。一回じゃ無理じゃないか?」
「そうですね。時間を空けて二回やった方が良いかも」
「そのあたりは任せる。オレたちはどこら辺にいれば良い?」
「そうですねぇ……」

 とりあえずクラスティさんが渡してくれた網を持って歩き始めた。既に木の枝も付けておいてくれたから、あとは設置するだけなんだ。以前やったのを覚えていてくれたんだね。

「マシュー、小さめの雷球を二個出せる?」
「おう。時間差でも構わないだろ?」
「問題無いよ。それじゃあ僕が合図したらよろしくね」

 小川に雷球だから、念のために水に触れてる人がいないことを確認して、それからマシューに合図を送った。合図と共にマシューの所から雷球が小川へ向かって飛んで行く。雷球が予定より大きかったみたいで、水に触れたときバリバリッてすごい音がして焦ったよ。
 その後は浮いてきた魚を素早く捕獲。片っ端から川岸へ放り投げておいた。雷球が大きかったのとそれぞれの球をかなり離して投げたおかげで、一度に沢山の魚を捕ることができたみたい。

「相変わらずえげつない捕り方するよなぁ」
「でも簡単でしょ?」
「まあな。だが他の冒険者たちが驚いてたぞ」
「あー、去年のクラスティさんたちみたいですね」
「ははは。まったくだ」

 その後は手のあいてる人全員で捕った魚の下処理を行った。これは今日参加してる冒険者さんへの差し入れだよって伝えたら、皆快く手伝ってくれたんだ。やっぱり携帯食だけってのは寂しいもんね。

 そうこうしてるうちに野草やキノコを採ってた生徒たちが戻ってきた。それをウィードさんたち先生役の冒険者さんが確認していくんだ。食用じゃない草が混じってることもあったから、確認は大切だと思う。特にキノコは危険なのも多いから、しっかりとチェックしていた。

「セイン君、ちょっと来てくれるかな?」
「僕ですか?」
「変わったキノコが混じってたんだけど、これ知ってるかな?」

 のんびり寛いでたらウィードさんから呼び出し。僕が行っても良いのかなって一瞬戸惑ったけど、マシューに頷かれたので素直に向かって行った。

「このキノコは食べれますよ。普通にスープに入れても美味しいですが、焼くと香りなんかも強くなってすっごく美味しいです」
「へぇ~。つうことで、これは没収な」
「えっ、何で?」
「そりゃそうだろう。今日の実習で採って良いキノコじゃないからな。試験で言ったらハズレってことだ」
「でも食えるって言ったじゃんか!」
「偶然食えるキノコを採ってきただけだ。もしこれが猛毒キノコだったら、お前ら全員死ぬかもしれないぞ。野外実習の目的は習った野草とキノコを正しく覚えることと、食えるように料理することだからな」

 ウィードさんと先輩たちのやり取りを、僕は黙って聞いてたよ。言ってることは正しいけど、食べれることを確認してから没収したのは単なるイジワルだったような気もする。まあ指摘はしないけど。他の冒険者さんたちも彼らのやりとりに口出ししなかったから、こう言う状況になった場合のことを事前に話し合ってたのかもしれない。

「う~ん……」
「どうしたんだ、セイン?」
「先生って、イジワルな仕事なのかもしれないね」

 思わず零れたその言葉に、何故かマシューは大笑いしてたし。

 その後はグループに分かれて調理の時間になったので、僕もマシューもヒマになってしまった。冒険者さんたちはさり気なく各グループを回ってる。携帯食ばかりで一度も料理したことが無いって生徒が多いみたいなんで、何だかんだ言って心配みたい。と言っても手伝いはせず、ヒントみたいなのを伝えるくらいだ。

「ヒマになったね」
「そうだな。昼寝でもするか?」
「さすがにそれは拙いと思うな」
「まあな」
「……あっ! そう言えば向こうの方にララベルが咲いてたよね? せっかくだから花茶をしない?」

 ララベルってのは初夏に咲く花で、甘い蜜をたっぷり含んでるんだ。基本的に花びらは白だけど、突然変異で黄色やピンクの花が咲いたりすることもあるんだよ。花茶は白い花びらと葉っぱの柔らかい部分を煮だして作るお茶なんだ。前世では時々飲んだりしてたんだよねぇ。そう言えば今世では一度も飲んだことが無いや。もしかして今に伝わってない?

 一応許可を取ってから移動したよ。付き添いはリロイさんとクラスティさんだ。ララベルはねぇ、蜂がたくさん集まる花なんだ。だから採るときは細心の注意が必要なんだよ。

「細心の注意って、セインの場合は魔法で一発じゃんか」
「えへへ」

 雷球をね、ララベルの花の回りで動かして、避けた蜂を強風で遠くに追いやっておしまい。結界で囲っちゃうからもう蜂は入ってこれないんだ。あとはのんびり花を摘むだけってワケ。つい魔法を使っちゃったけど、離れてる場所だから多分大丈夫。もし見られてても雷球はマシューが出したって言い張るもんね。

「相変わらずセイン君の魔法はすごいなぁ」
「そうですか?」
「と言うか、セイン君みたいな魔法の使い方は聞いたことがないよ」
「別に大したことしてませんけど……」
「きっと組み合わせなんだろうな。冒険者仲間には魔法が使えるヤツもいるが、日常生活では使わないそうだ」
「えー、勿体ないですよ。日常生活こそ魔法は使うべきなのに」

 花びらと葉っぱを水球の中に閉じ込めて、軽く水洗いしてただけなんだよ。僕にしてみれば魔法の使い方としては普通のことなんだけど、なかなか理解してくれる人はいないかな。ちなみに前世で僕から魔法の訓練を受けた人は、僕に倣っていろいろやってたよ。つまりは、今世も僕が伝授していかなきゃいけないってことなのかも。

 花茶は一部の冒険者さんたちにこっそり提供してあげたよ。なかなか評判が良くて嬉しかった。




※※※
いろいろぼかして書いておりますが、この時代は魔道具が流通している設定です。魔道具自体は高価なものが多いですが、灯りの魔道具あたりは一般にも普及してる設定です。
魔道具ありきの時代なので、日常生活で自分で魔法を工夫してと言う考えは一般的ではありません。セインは大昔の魔導師で、かつ、魔力量も多いので、魔法でやれそうなことは全て自分で工夫してやってしまうのです。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...