目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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2年

野営料理入門9

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 野外実習翌日の放課後、僕はいつも通り大図書館にいた。その前にフィラー先生の部屋へも行ったけど、会議が始まるとかで申請書を返却するだけでお終いだった。まあ今回は危険なことは全く無かったから、僕の方から報告することも無い。前回みたいにお説教をくらわなくて済んだことに一安心だ。

「あるとしたら、きっとここら辺だよねぇ。うーん……」

 探し物。もちろん本だよ。司書さんに聞こうにもタイトルが思い出せないから、とりあえず自分で探してるところなんだ。前世の自分が書いた本だから、他人に聞くのも恥ずかしいと言うか何と言うか……。大昔からある書物が集められてる場所なら、もしかしたら目的の本があるかもと探してるところなんだ。でも内容が内容だから、全く関係ない場所にあるかもしれない。
 残念ながら見当たらなくて、次は森や自然に関する学術書が集まってるエリアを探してみた。魔物の森の調査記録の中にはアロウさんが書いた本もあったよ。と言っても原本ではなく写本したものだけど。でもこれが魔物の森に関しては最古の調査記録なんだ。懐かしいね。

「あった! うわあ、こんなタイトルだったんだぁ……」

 やっと見つけた本のタイトルは、『野草と野草を使った野営料理』だった。何の捻りも無いタイトルだから、わざわざ手に取って読みたいってカンジじゃないね。自身のセンスの無さにガックリだ。と言っても、当初は第6混成団の皆に配るだけのつもりだったからね。それが後年になって、正式な書物として販売されたんだ。たしか当時の冒険者ギルドが購入して、冒険者なら誰でも読めるようにしたハズだ。すっかり忘れてたけど、こうやって本を手にすると思い出すもんだね。
 今も尚この本が残ってるってことは、有用だと評価された時期があったんだと思うよ。でなきゃ写本なんてしないと思うから。でも携帯食の味やバリエーションなんてのが改善されるに従って、読む人が消えていったんだろうな。決してそれは悪いことじゃないと思うよ。とは言え、少し寂しいね。

 この本には、アルさんに教えてもらった携帯食を使った野営料理も載ってるんだよ。と言っても昔の携帯食を使った料理だから、参考程度にしかならないかな。僕が昨日魔物の森で携帯食を使ったスープを作ったときは、最初に携帯食の味見をしてから使ったんだ。当たり前だよね。どんな味かはほとんど知らないんだから。
 きっとこの本は野営料理入門の授業に役に立つと思うんだ。野草だって詳しく載ってるしね。でもそうしたら先生が不要になっちゃう? だとしたら、それはそれで拙いかもしれないなぁ……。


 次の野営料理入門は授業ではなく、レポート作成の時間となった。もちろん野外実習についてだ。学んだこと気が付いたこと反省点とか、考えてみたらあれば遊びじゃなかったんだから、書くのは僕たち学生の義務だよね。どうしようかなぁ……と思いながら僕の意見を書かせてもらった。
 この授業は野営料理入門、つまり料理入門なんだよ。でも先生たちは誰も料理を教えてない。数種類の野草とキノコの説明をした後は、いきなり野外実習で料理だった。一度も料理をしたことない生徒もいたのにね。サチャ草については事前に口頭で説明はあったものの、注意点とかを上げることもしてなかったの。だから殺人料理を作ったグループには全然非は無いと思う。むしろ先生の方が悪い。授業の進め方とか、もう少し考えた方が良いと思うな。


 後日、フィラー先生に呼ばれた。先日の野外実習の件だと言われたけど、今回は怒られるようなことはしてないハズだ。そう思いつつモーグ狩りの件でガッツリ怒られた記憶が蘇って、ドアをノックするのに少し時間がかかってしまったし。何も悪いことしてない……よね?

「セイン君、君は食堂の息子だそうだね」
「は?」
「食堂の息子で、小さい頃から家業の手伝いをしていた親孝行な少年だそうだ。一部の契約冒険者の間で有名になってたね。私自身は君の実家は違うと知ってるが、面白いのでそのままにしておいたから」
「あ、あの……」
「野外実習ではとても美味しい料理を作ったそうだね。普通に食堂で食べる料理よりも美味しかったそうだよ。羨ましいねぇ。是非私も食べてみたいものだ」
「はあ……」

 先生の言葉に困惑しつつ、今回僕を呼んだ目的は何だろうと考えてしまう。

「そんな難しい顔をしなくても大丈夫だ。嫌味でもないし、素直に食べてみたいと思っただけだから」

 そう言われても、勘ぐってしまうのは仕方ないと思うんだ。個人的にここに呼ばれるのって、怒られる以外の記憶がほとんど無いんだもの。

「さてと。今日君を呼んだのは、野営料理入門に関することだ。ちなみにあの授業は今年度は終了と決まった。受講した生徒には全員に単位を授けることも既に決まっている」
「そうなんですか?」
「決定したばかりで、まだ生徒には通知していないがね。次回の授業のときに通知されることになるはずだ」
「はあ……」

 まさか授業自体が廃止されるとは、ビックリだよ。いろいろ問題のある授業だったとは思うけど、でも残念だな。

 学園側としては、この授業自体は二、三年後くらいに新設する予定で動いてたそうなんだ。だから準備もまだな状態で、カリキュラムとかもこれから話し合う段階だったらしいよ。予定が早まったのは以前聞いた痛ましい事故があったからだね。何もしないよりはつたない授業でもやった方が良いって意見が多かったんだって。カリキュラムは授業を進めながら模索していこう……って。だから一年目の今年は受講した生徒全員に単位を付けるのは、事前に決まってたそうなんだ。迷惑料とかそんなカンジ?

 とばっちりを受けたのは先生役の冒険者さんたちだね。彼らは直前に学園側からお願いされて、何の準備をする時間も無かったそうなんだ。そんな中でたまたま数種類の食べれる野草とキノコを知ってる人がいたから、まずはそれを教えて何とか凌ごうってなったみたい。その野草も食べれることだけは知ってたけど、下拵えの注意点とかの知識はもちろん無かったそうだよ。

 事情は分かったけど、何故それを僕に話すんだろうね。

「ところで話は変わるが、ここに君のレポートがある。先日の野外実習のレポートだ」
「レポートって、最終的に担任の所へ行くんですか?」
「普通は違うけどね。今回はいろいろあって私の方へ回って来たってところだね」
「はい……」
「すごいね。本当に君が書いたのかい? 文章の組み立て方と言い指摘してる内容と言い、2年生が書くレポートには見えなかったねぇ」
「あの……」
「もちろん君が書いたと言うのは、あの日監督した先生から確認は取れている。疑ったのは申し訳ないが、そう思うのも仕方ないレベルのレポートなのだよ」
「…………」

 マジメな顔を保ちつつ、内心ではかなり焦ってた。失敗したよ。と言うより大失敗だよ。深く考えずに普通にレポートを書いちゃったの。あれは2年生が書くレベルのレポートじゃないね。言い方は悪いけど、もっと手を抜いて書くべきだったんだ。なのにそんなことに全く気が付かなくて、やっちゃった~って感じだ。まいったなぁ……。またひとつ、フィラー先生に目をつけられる要因を作っちゃったみたい。

「ちなみにこのレポートは、学園長も目を通されたそうだよ」
「えっ!」
「今年度の野営料理入門を中止するかどうかの、判断材料のひとつになったそうだ」
「うわあ……」

 僕が書いたレポートが、ものすごく責任重大なことになった……ってこと?
 先生はニコニコしながら話してるけど、僕にしてみれば胃が痛くなりそうだよ。判断材料のひとつってことだから大したことは無いとは思うけど、でも何か、何と言うか、うーん……。




※※※
先生役の契約冒険者の方から、このまま授業を進めるのは無理と白旗宣言をされていたのが直接の要因です。セインのレポートは、それを後押しするものでした。
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