悪役令嬢は間違えない

スノウ

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波乱の王立学園

コーネリアス様の婚約者

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 教室に入ると、そこにはメアリー様とバーバラ様がいた。ダリルが言った通り、アルフレッド様は来ていないようだ。


「メアリー様、バーバラ様。授業で顔を合わせるのはお久しぶりね」

「ジゼット様、お久しぶりです」

「っ、ジゼット様!やっと授業に出てきてくださったのですね!!」


 わたくし達は久々に一緒に授業を受けられることを喜んだ。
 そして何日かぶりの授業のあと、メアリー様が驚くべきことを言い出した。


「ジゼット様、ご婚約おめでとうございます」

「え……?」


 コンヤク……?
 それってまさか婚約のこと?
 誰と誰が?え?わたくし?ありえない。


「メアリー様、婚約、とは?」

「それはもちろんジゼット様とコーネリアス様との婚約に決まっているではありませんか」

「ジゼット様、アイツと婚約……?」

「お兄様、お気を確かに」


 こんな話をメアリー様がどこで聞いたかは知らないが、少なくともダリルは初耳だったようだ。わたくしは慌てて訂正する。


「わたくしは誰とも婚約などしておりませんわ」

「ほら!ほら!わたくしの言った通りではありませんか」

「でもバーバラ様、わたくしは確かに」

「ジゼット様、婚約、してない?そうか……」


 バーバラ様とメアリー様はなにやら揉めているようだが、とりあえずダリルに婚約が間違った情報だとわかってもらえたようで良かったわ。


「メアリー様、その情報はどなたが?」

「今はみんなその噂で持ちきりですわ。学園の生徒が集まる場所に行くと大抵その話をしていますもの」

「ええと、バーバラ様?」

「……メアリー様の話は本当ですわ。わたくしは噂を信じておりませんでしたけれど」

「……どうしてそんなことに」


 確かに最近はコーネリアス様と一緒に昼食をとることが多かったけれど、わたくしはコーネリアス様とふたりきりにならないように注意していたはず。
 メアリー様やバーバラ様も一緒だったにもかかわらず、どうしてわたくしが婚約者だと思われたのかしら。

 難しい顔で悩むわたくしに、メアリー様が控えめな声で謝罪する。


「あの、ジゼット様。わたくしが余計な事を口にしたばかりにそんなお顔をさせてしまい、申し訳ありません」

「メアリー様は悪くありませんわ。あなたのおかげで噂について知ることができたのだし、感謝しているわ」

「ジゼット様……」


 そう。わたくしが気づくのがもう少し遅ければ、この噂が訂正不可能な規模まで広がっていた可能性もある。
 わたくしは外堀を埋められ、本当にコーネリアス様と婚約することになっていたかもしれない。
 そう考えると、メアリー様の発言には感謝しなければならないだろう。


「あの、ジゼット様」

「バーバラ様、どうかなさいまして?」

「その……コーネリアス様は以前からジゼット様を婚約者にとお考えになっていたように思います」

「……」


 わたくしもそれは薄々感じてはいた。
 しかし、わたくしはコーネリアス様の婚約者にはなれない。公爵家を継ぐことを決めているからだ。
 そのことは当然コーネリアス様も知っているはず。それなのにまだわたくしを婚約者に望むのだろうか。


「コーネリアス様と昼食をご一緒する時、ハリス様はさりげなくわたくしとメアリー様に話しかけ、ジゼット様と分断しようとしている節がありました」

「え……?」

「気づきませんでしたか?いつの間にかコーネリアス様とジゼット様がふたりきりで食事をしているかのように分断されていましたよ」

「……まったく気がつかなかったわ」


 だって、わたくしの隣にはいつもダリルがいたし、メアリー様達とも会話をしていたはずよ。確かに正面にはいつもコーネリアス様がいたけれど。まさか。


「でも、わたくしの隣にはダリルが」

「お兄様は昼食時はほぼ無言ですからね。隣にいても置物と変わりませんよ」

「「置物……」」


 わたくしとダリルの声が重なる。
 置物、か……。
 ダリルの存在が置物と変わらなかったとすれば、周りからはわたくしとコーネリアス様が仲良く食事をしているように見えたのだろう。

 それが何度も続くうちに、いつしかわたくしがコーネリアス様の婚約者であるという噂が流れ、単なる噂が事実であるかのように語られていたのだろう。

 これは一度コーネリアス様と話をする必要がありそうね。

 わたくしが密かにそんなことを考えていると、メアリー様がおずおずと話しかけてきた。


「あの、ジゼット様。わたくしはジゼット様とコーネリアス様とのご婚約を前向きに考えてみてはどうかと考えます」

「メアリー様!?」

「メアリー様。それはさすがに」


 バーバラ様がメアリー様の発言をやんわりとたしなめるが、メアリー様の意見は変わらないようだ。


「王国貴族にとって、王族との結婚は誉れですわ。ましてやコーネリアス様は王太子殿下であらせられます。殿下から望まれるのであればジゼット様も幸せになれることでしょう」

「……」


 メアリー様の意見はほとんどの王国貴族に受け入れられるものだと思う。
 王族、それも次期国王に望まれて嬉しくない貴族女性はほとんどいないでしょうからね。

 でも、わたくしは嬉しくないのよ。

 前回の人生でわたくしは両親に負担をかけ続けた。
 公爵家の跡継ぎだったわたくしはアルフレッド様との結婚を望んだ。
 そのせいで両親は唯一の後継者を失い、学園ではひどい成績、挙げ句の果てには聖女殺害未遂まで起こした愚か者。
 それが前回のわたくしだ。

 わたくしはね、今度こそ間違えたくないのよ。
 公爵家のあとを継ぎ、両親を安心させてあげたいの。
 だから、メアリー様の提案に頷くわけにはいかないわ。


「わたくしの幸せはわたくしが決めます。申し訳ないけれど、メアリー様の提案は聞かなかったことにさせていただくわ」

「……出過ぎたことを申し上げました」

「いいのよ」


 わたくしにも譲れないものがある。
 今回はメアリー様の意見とすれ違ってしまったけれど、それでメアリー様を嫌いになったわけではない。
 これからも彼女とはいい友人関係を築いていければと思う。




 それから数日後、コーネリアス様が授業に出てきたことを知ったわたくしは教室に向かった。


「ジゼット、ようやく来たか。早くリリーのところへ行け」

「アルフレッド様、少し黙っていてくださる?」

「っな!?」


 教室に入るなりわたくしを呼び捨てにするアルフレッド様を一蹴し、わたくしはコーネリアス様のもとへ向かう。


「おやジゼット嬢、久しぶりだね」

「ええ、お久しぶりです」

「……私に何か用かな?」

「放課後、わたくしに時間をくださいませんか」

「いいよ。ジゼット嬢のためならいくらでも時間を作るとも」

「では放課後に。わたくしはこれで失礼致します」

「……」

「おいジゼット!勝手に出ていくな!」


 アルフレッド様の言葉を聞き流し、わたくしは教室を出ていく。これ以上アルフレッド様に付き合うつもりはない。

 これ以上絡まれるのも時間の無駄なので、わたくしはいつもの図書館に向かう。そこで放課後まで時間をつぶした。
 



 放課後、コーネリアス様が待つ教室へと向かう。教室には彼ひとりだけだ。


「お待ちしていましたよ、ジゼット嬢」



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