よく分からない男(連載中)

甘野 あゝ子

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結婚前

出世コース同僚の海外出張事件!

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時間というのは、不思議である。
指輪事件から数週間が経ち、あれほど怒っていた私の熱は、すっかりと冷めていた。
幸い、高給取りの彼は、節約をすることで生活を乗りきった。今後は遊びと外食
を控え、もともと料理が得意ということもあり、自炊生活を送っている。改心したらしい。
私の目の前には、彼の手料理が並んでいる。イタリアン料理だ。メインディッシュはスパゲッティ。酒のあてに、ハムとチーズとオリーブオイルで作ったおつまみ。彼が住んでいるアパートの小さな台所で、これほどの美味な料理が作れるとは、なかなかの腕前である。
スパゲッティに入れたニンニクの香り。ハムに包まれた濃厚なチーズ。食欲が掻き立てられ、ペロリと完食してしまった。

「どう?美味しかった?」

「うん。美味しかった。めっちゃ料理、上手やね。」

旨い料理をたらふく食い終えた私と彼は、肩を寄せ合い、ソファーでくつろぐ。

「あのさ……」

静かにテレビドラマを見ていると、彼が口を開いた。

「お金、借してくれない?」

「え?またお金が無いの?」

「いや、僕じゃなくて、僕の同僚が……」

聞くと、同僚が急な海外出張で大金が必要になったらしいのだ。大手企業なので、出張費も全額出ることは確かである。加えて、毎月の高額な給料と、年に二回のボーナスがある。海外出張に行く費用を持っていないわけがない。

「おかしくない?なんで、あんたの同僚に私がお金を貸さなくちゃいけないの?」

「困っているみたいで、断れなかったんだよ。僕名義で同僚に貸すから、お金貸してよ。」

「嫌。人に借りたお金を、別の人に貸すって、おかしいよ。あんた、頭おかしいよ。貸すなら、私から直接貸すわ。早くその人の連絡先を教えて。」

「そんなこと、出来ないよ。僕にだって、男としての見栄があるんだ。」

「女からお金を借りることが、男の見栄なの?」

「そうじゃないけど、困ってたから。」

「断ればいいでしょ。頭おかしくなったの?もういい、帰る。」

彼のアパートを飛び出し、駅まで走り、タイミングよく到着した電車に飛び込む。切符を買っていたら、彼に追いつかれるところだった。ICOCAカードの便利さに感謝しつつ、目的の駅まで座る。と言っても、一駅なのだが。
乗り換えると、さきほどの電車とは打って変わって、大混雑していた。知らないオジサンと、知らないOLと、知らない酔っ払いと、そして私の、おしくらまんじゅう。これは、いただけない。
美味しくない状況を我慢しつつ、スマホを見ると、案の定、彼からメッセージが入っていた。
僕が悪い、僕の頭がおかしかった、君に甘えていたなど、そういったことが連続して書かれていた。
怒りのあまり叫びたくなるが、ここは電車内。怒りで震える身を抑え、冷静さを保つ。
帰ったら、甘い物を食べて寝よう。
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