43 / 96
2.龍の髭を狙って毟れ!
鶴の一声
しおりを挟む「はいそこまで万年発情期のクソウサギ~。種蒔くのは勝手やけど、借りる胎はちゃんと選びィや」
入り口に立って呆れた様にため息を吐いているのは、我らが鶴永先輩だった。この人いつもタイミングよく現れてくるな。
「つ、鶴永先輩ヘルプ!」
「なんや、ほんまに襲われとったん? お得意の媚び売りタイムなんかと思ったわ」
「親睦会が終わった今、誰彼構わず媚び売る必要ないです!」
「それもそか」
第三者の登場で萎えてくれたようで、兎和は舌打ちをしながら俺の拘束を解く。良かった、変態のせいで楽しい思い出が塗り替えられなくて。
「あっれぇ、雑魚の手ぇ借りてまで下剋上ごっこした小鳥ちゃんじゃぁん。なぁに、羨ましくなったぁ? 混ざる? オレ3Pも全然いけるけどぉ?」
「コイツには勃たん」
「勝手に誘われて勝手にフラれた……」
まあ反応されても今後の付き合い方に困るのでいいんだが、そうもきっぱり言われたら少々複雑な心地である。
「俺はそこのハチ公を探しとったんよ。性病が移るからさっさと離し」
「えー、なんかやけに可愛がってるじゃぁん。オキニ?」
「恩があるだけや」
鶴永先輩が俺に用? 特に当てはまることが無く呆けた顔で見つめていれば、先輩は手にしていたスマホをひらひらと振って言った。
「やっぱ見とらんかったか。ア……今回の参加メンバーでナイトプールで打ち上げやるって連絡入っとったで」
「アリーズで打ち上げ?!」
「おま…………折角伏せとったところを……」
「何で伏せるんですか。ナイトプールとか最高ッスね。でも人多そうじゃないですか?」
「あそこのエリアはSとそのペアしか入れん。それにそう言う奴らはそんなんで遊んどる暇なんて無いからガラガラや」
「ああ」
確かに憧れのSクラスの人とペアになったのなら、ナイトプールなんて行かずにもっと洒落たところでムード作って即部屋に行くだろう。純粋に客船の施設を楽しむ生徒は少数派ということか。
「で、俺は全く既読がつかん後輩を探しに来た優しい先輩なワケ」
「すいません、全然気づきませんでした」
言われてみればグループには何件かチャットが来てるし、篤志からも電話が数回来ていた。気づいてくれなくて拗ねてました、なんて恥ずかしくて口が裂けても言えないな。
「プールの場所、知らんやろ。俺は鹿屋たちと部屋近いからそっち引率する。お前は豚と近いから前野と一緒に来ぃや」
この人当たり前に打ち上げ来てくれるんだな……と思ってにやけてしまう。なんだか気難しい猫を手懐けた気分だ。可愛い。
「何ニヤニヤしとんねん」
「いえ。何も疚しい事は」
「考えとったら頭割る」
「代償がデカい……」
俺達のアホみたいな会話をじっと見つめていた兎和は、興覚めとばかりに肩を竦めて鶴永先輩を押しのける。
「あーあ、最悪。いい所だったのに」
「先輩、俺なんかより親衛隊の方々かまってあげてくださいよ。酒池肉林でしょうに」
「そうねぇ。オレはどっかの誰かと違って、可愛がらなきゃいけない子がたくさんいるんだから。ゲテモノ食いはやめておこうかなぁ」
「ゲテモノ呼び……」
「じゃあね風紀の小鳥ちゃん。それから番犬クンも。篤志によろしく言っといてぇ」
重くて甘い香水の匂いを振りまきながら、兎和は長い手足を億劫そうに揺らしてドアから出て行く。
鶴永先輩はその背中に思いっきり舌を出して中指を立てていた。見た目にそぐわずガキみたいなことする愉快な人だなあ。
パタン、とドアが閉まってレストルームには二人だけが残される。
「助かりました。ありがとうございました」
「よぉ言うわ。俺が来んかったら殴ってでも逃げとったくせに」
「はい。だから助かりました。入学して二か月で退学は流石に家の者にボコボコにされるんで……」
「退学になる程ボコすつもりやったん……」
ドン引きした様子の先輩に何が悪いのだと開き直る。心を殺されるくらいならば相手の心を殺せ。それは時々笑顔が怖い養母の有難い教えである。
「鳳凰院先輩とは話せましたか」
「……それがなぁ」
頬を引くつかせた先輩はやややつれた表情で遠い目をする。
「将成様と同じ部屋に居るとかほんまに慣れてなさ過ぎて、もう訳分からんくなって、避難訓練のアナウンス流れるまでバルコニーに籠城しとった」
「え、やば! 完全に不審者じゃないですか!」
「わーってるわボケ! せやけどよく考えたら従者も居らん状況で二人きりとか初めてで、もうどんな顔したらええか分からんというか、そもそも親睦会で対立したことに関してもちゃんと謝罪出来とらんっちゅうのにどんな面で話せばええん」
「拗らせてんなあ」
「お前に言われたない……」
親睦会の一件で吹っ切れたのかと思ったが、別にそういうわけでもないらしい。彼が普通に鳳凰院先輩と接するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
でも、今までの常時悔しさを噛み殺して堪えている目よりも、ずっと健康的な輝きをその双眸に宿していた。
「でも先輩、結構生き生きしてますよ」
「……お陰様で。自分より従者歴短いクソ新人に発破かけられたら、黙ってるわけにはいかんからな」
「今晩はちゃんと部屋に入ってくださいね。流石に夜の海は六月でも冷えます」
「…………善処する」
「夜の船のバルコニーに立ち尽くすデカい男は最早怪異なんすよ」
はああ、と深いため息を吐く鶴永先輩の背中を軽く叩きながら歩き出す。鶴永先輩って実は、二年生の中で一番面白い人なのかもしれない。
アリーズの打ち上げ楽しみだな、と思いながら、一刻も早くこのスーツを脱ぎ捨てたくて自室への道のりを急いだ。
40
あなたにおすすめの小説
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる