オム・ファタールと無いものねだり

狗空堂

文字の大きさ
68 / 105
4.猪も七回褒めれば人になる

犬猿の仲

しおりを挟む


「~~~~~ッ、遅い!」
「お前が速くなりすぎてんの! こっちは凡人なんだから加減ってもんを知ってくれや!」


 ぬるい空気が満ちる六時限目。体育祭練習用に割り振られた時間の為、グラウンドには三学年の生徒たちが入り乱れているが、それでもなお広い。勿論ここが第二グラウンドだからという点もあるが、それにしたって広すぎる。

 そんな中で苛立ち紛れに俺を爪先で軽く蹴ってくる結羅と、砂まみれのまま地面に伏せる俺。二人の足は——クラス指定の青いハチマキで乱雑に纏め上げられていた。

「結羅も後田も仲いいな~」
 隣で同じように委員長と足を結んでいる猪狩に呑気にそう言われて、二人同時に「「仲良くなんて無い!」」と全力で否定した。
 どうやったら砂まみれで転がる男とそれを蹴る男の仲が良さそうに見えるんだ。コイツの全人類友達フィルターは性能が最悪すぎる。

「そうカッカするな。二人三脚はコンビネーションが一番大事なんだぞ」
「毛嫌いされてる時点でコミュニケーションもクソもねえ」
「右に同じく」
「はあ~~?! てめえの方が勝手に嫌ってきてんだろうが!」
「手を上げてきたくせに!」
「それはごめんって!」

 二人三脚。それが俺と沙流川弟が一緒くたに足を拘束されている理由だった。


 クラス全員の臨時体力テストが終わり、篤志の人たらしパワーでなんとなくクラスが団結する方向に泳ぎ出したその後。
 B組は篤志の『どうせやるなら一番を』という目標に賛同し、本格的に優勝に向けての作戦会議を始めた。体育祭に懐疑的だった奴らも軒並み真剣に種目決めの学級会に参加したのだから恐ろしいものだ。

 競技の難易度が高い物や協力プレーが必須なものは自ずと配点も高くなってくる。必然的に、そこら辺の競技はS組や運動能力がマシな奴らが担当し、残った枠をその他で埋めていく方向となった。

 問題が発生したのは二人三脚だ。ルール上、S組同士でのペアは禁止となっている。そりゃそうだ、猪狩と沙流川が組めばぶっちぎりで一位になれるに決まっている。
 真っ先に勝ち馬として作られたペアが猪狩と委員長。左程身長差が無いし、委員長も猪狩についていけるだけのポテンシャルがある。ここは絶対に一位を取る為につくられた駒だった。
 逆に衣貫は誰とも身長差がありすぎてしまうのでこの競技はお休み。代わりに持久走に出てもらうことになった。

 二人三脚は配点が高い競技の為、もう一つくらい勝ち馬を作りたい。身軽な沙流川を起用するとなった時、残りの面子で身長差が少なく運動神経がマシということで俺に白羽の矢が立ったのである。

 そんな訳で、数日前から練習を始めているのだが――。


「またっ! タイミング、おっそい!」
「お前が速すぎんの!」

 ご覧の有様である。沙流川は速く、俺は遅い。その上お互い歩み寄る気持ちが微塵も無いから、二、三歩進んでは
俺が引きずられる形で転ぶ。
 猫のようにしなやかな身のこなしでやり過ごすから、沙流川は全くの無傷なのがまた腹立たしい。おい、まだ一年生の六月だぞ。なんだ俺のこの体操着の汚れ様は。

「おい委員長、やっぱ交換しろ! アンタならこのクソ猿とも上手く出来んだろうが!」
「すまないが俺たちは勝ち馬なんでな。このゴールデンペアは崩せん。腹をくくって息を合わせて一位を取れ」
「あっはは後田、フラれてやんの~!」
 一人だけ砂まみれになりながら吼えても、委員長も猪狩もけらけら笑うだけで取り合ってくれない。皆他人事と思いやがって……。

 半身とも呼べる片割れと引き剥がされた沙流川は酷く機嫌が悪い。お気に入りの篤志が居るから何とか機嫌を保っているが、これより自我が強く我儘な相方はもう目も当てられない程荒れているだろうに。見ず知らずの綺羅を引いたクラスの奴らに静かに同情した。

「はー……。とりあえずもう一回……おい? 沙流川?」
「…………」
 砂を払いながら声をかけるが、沙流川からの返事はない。訝しんで見上げれば、幼さの残る大きな瞳はじいっと一点を見つめている。俺もそれにつられてその視線の先へと目を向ける。

「あっははは! やったぁ鶴永センパイ速ぁ~い!」
「っは、げほッ……! い、うた、やろ! さっさと、撤回、せえ……、俺は将成様の『使える従者』や!」
「キャハハハハ! 煽ったら煽った分火ィついて面白! 押したら喚く迷惑な玩具みたいだねぇ!」
「撤回せえ言うとるやろうがクソガキが! てかなんやお前その口のきき方、こっちは先輩やぞ!」
「僕、歳を取っただけの奴に払える敬意は持ち合わせてないもーん」

 視線の先には心配になる程咳き込み肩で息をしながらも全力で悪態をつく鶴永先輩と、その周りを軽やかに飛び回ってきゃいきゃいとはしゃぐ沙流川兄が居た。
 あの人また煽られてんのか。クールな見た目にそぐわず短気だからすぐ挑発に乗っちゃって本気出すの、チョロくて面白いけど心配にもなるな。まあかつて煽った俺が心配出来る事でもないが。

「なんだあの二人、まるで風の様じゃないか!」
「いや速すぎるだろあのコンビ」
「あれは失格でしょ……」
「美しい……まるで韋駄天だ……」

 口々に感嘆の声を漏らす周囲の生徒たちから察するに、鶴永先輩と沙流川兄もまた二人三脚に出場するらしい。どうやら鳳凰院先輩関係で煽られた鶴永先輩が本気を出し、沙流川兄のスピードに行きも絶え絶えになりながらも食らい付いてゴールしたようだ。

 そんなんズルだろ、と思ったが、よくよく考えてみると鶴永先輩はあれでいてAクラス所属だった。“S組同士のペアは禁止”というルールは一応破っていない、一応。
 いやでもあんなの特別枠で反則にすべきだろう。鶴永先輩なんて家柄でデバフがかかっているだけのSSRキャラだ、レアリティ詐称だ。

「本当にすごいな鶴永さん、あの沙流川にもついていけるなんて……」
「さすが鳳凰院様が見初めたお方だ」
「あれで身分さえよければなあ」

 口々から漏らされる称賛の声に何故か俺も誇らしくなる。親睦会の一件以降色々と吹っ切れたらしい先輩は、積極的に自分の力を示していく方向にシフトチェンジしたようだ。
 長く学園に在籍してる人ほど彼の変わりように驚かされているようだが、外野の意見なんてこれっぽっちも関係ない。あんな不健康な生き方をしているよりも、今全力で色んなことに挑んでいる方がよっぽど楽しそうだ。

 勿論家柄を重視する奴らが大半のこの学園だと、卑しい身分がと顔を顰める人間の方がまだまだ多いようだが。それでも、堂々と胸を張って鳳凰院先輩の隣に居る鶴永先輩はとてもかっこいい。
 きっと周りの奴らも、いつかその輝きと実力で文句を言う口ごと捩じ伏せられることだろう。

「あーあ、センパイがこんなに動けるなんて知らなかった! それならそうってもっと早く言っといてよぉ」
 沙流川兄がきゃらきゃらと心底楽しそうに笑う。飛びぬけて身体能力が高いからこそ、自分についてきてくれる人が居ることが嬉しいのだろう。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

和を以て貴しと為す

雨宿り
BL
"山奥に閉ざされた男子校"に入学した平凡な高校生の蓮水和は、周囲の異質さと距離を保ちながらもそれなりの日々を送っていた。 しかし、ひとつの事件に巻き込まれたことを境にその環境は一変する。 問題児の"転校生"と同室になり、クラスの"学級委員"に世話を焼かれ、"生徒会役員"と関わりができ、挙句"風紀委員"に目をつけられてしまう。 乗り越えたい過去と、目まぐるしい今に向き合いながら、和は様々な愛情を向けられるようになり...? ・ 非王道学園を目指しながらも、数多の美形たちに振り回されたり振り回したりするひとりの平凡によってお送りするぐちゃぐちゃとした群像劇をお楽しみいただけたらな、という感じのお話。 長くなる予定ですがのんびり更新して行きますので、気に入って頂けたら嬉しいです。 初投稿の為、なにか不備がありましたら申し訳ございません。 2026.01.21▶10話を更新。次は和の視点に戻ります。個人的にとても好きな朔間兄弟を出せてうきうきが止まりません。2章を終えたら近況ボートを書いてみようなどと思っている次第ですが、終わり所を正直まだ悩んでおります。11話も個人的に好きなキャラクターが初登場なんですよね。楽しみ。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年後。 静は玲に復讐するために近づくが…

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...