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2.龍の髭を狙って毟れ!
蛇の囁き
しおりを挟む砂盃はすぐ来ると言っていたが、あの中庭からここまでかなり離れている。そんなにすぐ辿りつけるだろうか、と思いながらのどかに鳴く鳥を見つめていると。
「……こんにちは、随分涼しそうですね」
廊下の方から声を掛けられる。パッとそちらを見ると、開け放たれた窓の向こう、渡り廊下で嫋やかに微笑む男と目が合った。きょろきょろと辺りを見回すが校舎の果ての裏であるこの辺鄙な場所には俺以外誰も居ない。
ということは、あの人は俺に向かって話しかけているのか。——何故?
「ふふ、貴方に話しかけているんですよ。こんな季節に水浴びですか?」
男――巳上副会長は、細いフレームの奥の瞳を細めて穏やかに笑った。まさかこんなに気軽に話しかけてくるとは。
巳上って、何となく俺のことをそんなに好きじゃないんだと思っていた。篤志と話している時によく分からない圧を感じる時があったし、この手のタイプは微笑みながらも馬鹿が嫌いそうだ。
馬鹿の自覚がある俺としては、篤志が傍に居ない時に話しかけられる理由が一つも見当たらなかった。
「あー、まあ、ちょっと暑かったんで」
「それはそれは、随分と豪快ですね。ですがそのままだと風邪を引いてしまいますよ」
「ダチがタオル持って来てくれる予定なんで、大丈夫です」
「俺は十分程前もここを通りましたが……。そのご友人は、いつ頃いらっしゃるんですか?」
「…………」
黙り込んだ俺を見て巳上が困ったように笑う。まあ、それはそうなんだけれど。
「待っている間に身体が冷えてしまいます。俺のジャージを持ってきたのでお貸ししますよ。こちらへ」
副会長は手にしていた自前と思しきジャージを持ち上げて手招きをしてくる。どうやら濡れ鼠の俺を見かけた時から気になっていて、ジャージを持って戻ってきてくれたらしい。
……正直、怪しいとは思う。けれど濡れたシャツの不快感やじわじわ増してくる肌寒さ、そして何より——ここでこの天上人と繫がりを作っておけるかも、という下心。
そういうゴタゴタしたものが、一歩俺の脚を動かした。
「いい子」
男の黒瑪瑙が三日月に歪んだ。
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