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02:ひとりぼっち二人、夏
別世界のいきもの 3
しおりを挟む「えー、何それ! 渡來来ないのかよ」
「デカい花火もあがるんだぜ?」
「夜だけでも来れない?」
「渡來君の浴衣見たかったなぁ」
きっと皆渡來を中心に据えたかったのだ。美しい男を中心に置いてその周りを賑やかしていれば、おのずと自分も他より優れた人間だと錯覚できるから。
だから、主役が舞台から降りようとするのを必死で引き留めている。
「ごめんね、前から約束してたんだ」
されど美しい人はその縋りをすげなく振りほどく。その穏やかな声音には有無を言わさぬ響きがあった。
行けばいいだろ、と言えばよかった。何も一週間丸まる自分に付き合わなくたっていいのだ。それにきっと祭りは夜だから、夕方に切り上げて祭りの方に合流したっていい。
折角そんなに熱烈に誘われているのだから応えてやればいいのにと思うのに、隣の席と世界が断絶されている明呉はその人の波をかき分けてそれを伝える勇気はない。
「今日のカラオケは付き合うからさ、許して」
「まー……、仕方ないかあ」
「あ、もしかしてお母さんの撮影の手伝いとか?!」
「そういうことー?! 私この前の動画見たよ、二人でパーティー行くやつ!」
「私もそれ見たー! すごい綺麗で笑っちゃった、ホントにお母さんに似てるねえ」
多くは語らない渡來の機嫌を損ねないようにと、周囲は勝手に憶測して盛り上がっていく。
行けばいいとわざわざ声を上げる勇気も、その約束の相手が自分だという勇気もなかったけど。
それ以上に明呉の口を噤ませたのは、多分、『渡來が自分の約束を優先してくれているから』という事実が嬉しかったからだ。
全く頭に入らなかった参考書を閉じてリュックサックに仕舞いこむ。渡來の席は未だに賑やかだ。まるで別世界みたい。
「——明呉」
「……ん」
「またね」
「…………また」
きっと勉強会の前にも、渡來はふらりと明呉のバイト先に来るのだろう。その秘密の逢瀬のような関係性がくすぐったくて、明呉は碌にその美しい顔を見れないまま足早に教室を出た。
蝉時雨が校舎の壁を震わせている。世界全部を溶かすような灼熱の夏がやってくる。
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