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02:ひとりぼっち二人、夏
にたものどうし 2
しおりを挟む案内されたのはベランダだ。といっても明呉が知る様な庶民じみた空間ではない。大きい窓に沿うように設置されたデッキにはガーデンチェアとテーブルが置かれていて、それでも尚スペースが余りある。
二人がベランダに出ることを知ったすあまは、『そちらはすあまが行けない場所です……』と心なしか悲しい顔をしてリビングへ戻っていった。
「すあまは来ないのか?」
「ペットを出すのは禁止されてるんだ、飛んでっちゃうから。すあまはそれを自分で分かってるんだから賢い子だよね」
確かにこんな高層ビルから落ちたら大変だ。人間よりも軽い小型のペットなら風にあおられて飛んで行ってしまうかもしれない。アホそうな見た目にそぐわず賢い子だなあ、とガラス越しに白い塊を見る。
「さ、座って。今日は風もちょうどいいからきっと綺麗に見られるよ」
「何を――」
――ドォォン! パラパラパラ…………。
明呉の言葉を遮るようにして再度音が轟く。今度はそれだけじゃない。空が一瞬火が灯ったように明るくなり、空を覆い尽くすようなオレンジ色の花が咲き誇った。
「花火……」
「そう。毎年見えるんだ、ここから」
渡來が口をつけたラムネの清涼な青い瓶に、夜空に咲く大輪の花火が映りこんで輝く。
陽が落ちた後でも茹だる様な暑さが残っているというのに、不思議と不快感は無かった。
「憧れてたんだ、友達と花火見ながら屋台のご飯食べるの。これはジェネリックだけど……」
差し出された焼きそばのパックを受け取るが、明呉の視線は目の前に広がる絶え間ない花火たちに釘付けになっている。
背の高いマンションから見る空を遮るものは無い。だが何故か人いきれや暗闇の中でぼんやりと光る提灯の明るさを感じた。鉄板で何かが焼ける音と匂い、人々が砂利を踏みしめる音、行き交う人々の熱気、楽しそうな活気のある声と遠くで聞こえる祭囃子。
どれも殆ど見たことがないはずなのに、どうしてこうも鮮明に思い起こせるのだろう。明呉の記憶に焼け付いたいつかたちが、花火の音に反響して心臓を揺らしていく。
「あはは、明呉、テレビに釘付けの子供みたい。口半開きだよ」
「…………綺麗だ……」
無駄一つない称賛の声だった。渡來は豪快にチョコバナナに齧りつきながらその響きの心地よさに目を細める。
明呉の言葉にはいつも余計なものがない。余計な魂胆も余計な装飾も無いから、渡來もまた安心してその言葉を額面通り受け止められる。
受け止めた後どう返してやれば相手が喜ぶかとか、そういうことを考えなくていいのはとても楽だ。
明呉の世界は全て明呉の中で完結している。してしまっていると言った方がきっと正しいのだろうが、それでも渡來にとって明呉のその無関心さは、一種の救いの形をしていた。
「渡來、すごい、綺麗だ! こんなに全部が見える花火は初めて見た……! それに飯も美味い、ホントに祭りだ!」
金色の小さな花火が大盤振る舞いで夜空を飾った時、漸く我に返った明呉が大興奮のままに立ち上がる。折角温めてくれた焼きそばはもうすっかり冷めてしまっていた。
「ほら、あそこら辺がお祭りの会場だよ。クラスの人たちもあの中に居るかもね」
「すごいな、特等席じゃないか。こんなに楽して絶景を見られるとは」
花火はまだ続いている。火薬が弾ける音に負けないように声を張り上げながら二人は会話を続けた。
「ありがとう! 祭りなんて行った事無いし、花火なんて一生見ないと思ってたが……いいもんだな」
「俺も。毎年やってるから慣れきったものだと思ってたけど……。こんなにはしゃぐ明呉が見られたから新鮮だよ」
汗をかいたラムネ瓶を差し出されて口をつける。飲み慣れない炭酸はびりびりと舌を虐めた。
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