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追放された聖女と王子

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 家の出口という出口を、厳つい騎士達に塞がれてしまえば、これまた年頃の娘なら「いやぁん、怖い」と怯えるもの。

 でも、サーシャときたら一度は頬を引きつらせてみたものの、それ以上の動揺を見せることなく冷めてしまったお茶を飲み始める。

 対して実力行使に出ようとしている王子様御一行は、とてもバツが悪いご様子だ。

 まぁそれにはそれなりの理由がある。

「言うことを聞かなれば、無理矢理にでも王都に連行するとでも?曾祖母の代に、私達聖なる力を持つ姫巫女一族を王都から追放したくせに」
「……そう受け止められても仕方のないことをしている自覚はございます。返す言葉も見つかりません」
「いや、今すぐ返せや」
「……」

 静かにカップを置いたサーシャは半目になっていた。

 そろそろ疑問に思われている者もいるだろう。
 聖なる力を持つ姫巫女───略して聖女が、こんな人里離れた森の奥でひっそりと生活をしているのかと。

 その理由は、今の会話の通りなのだ。

 だが、もう少し補足をすると追放された理由は、当時の女王から「お前の力なんぞ不要だわっ」と一方的な解雇通告を受けたのだ。

 聖女はライボスア国が建国した当初から、この国をずっと支えてきた存在だった。
 そして、500年前魔王を封印したのは他ならぬ聖女だ。

 なのに突然の解雇通告。
 お前の血は何色だ!?と問うてみたいところ。

 しかも当時、聖女もといサーシャの曾祖母は、まだ十代だった。なのに、これまた一方的にこの森に捨てられたのであった。
 
 よく死ななかったなとサーシャは思う。
 そして、なぜそんな性根の腐った女王をこの世から浄化しなかったのかと疑問に思う。

 でも、サーシャの曾祖母は復讐することも、世を儚んで自害することもせず、根性で生きぬいた。
 そんでもって、どこからか種をもらって、サーシャの祖母を産んだ。祖母も同じような手段で母を産み、そして母も以下同文。

 ちなみにサーシャは、まだ独り身だ。当面そういう予定もない。
 ただ、王都に行くつもりもなかった。

「我が王家が貴方様達に対してしたことは、本当にお詫びのしようがございません。そして、どの面下げてこんな願いをと思われているのも、自覚しております」

 過去に犯した王族の罪を誠心誠意詫びるアズレイトの顔は、とても美しかった。

 ”どの面下げて”というけれど、この面を拝んでしまったら正直、言葉の説得力が薄れてしまうほど美麗なものだった。

 むしろサーシャは、このイケメン王子をここに派遣してきた現ライボスア国王女の手腕に拍手を送りたい気持ちにすらなる。



 でも”それはそれ、これはこれ”である。



 だからと言って過去の事を水に流して、ヘイヘイヘーイと王都に行くほどサーシャはお人好しではなかった。

 だから保留になっている質問を再び口にした。

「で、王都に行って浄化の儀をやったら、私に何か利点があるの?」
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