もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜

文字の大きさ
15 / 16
【最後で最高の女】になった女と、利を得た男が語るその後

3

しおりを挟む
 自分より先にフレデリックと関係を持った女がいた───そのことに嫉妬を覚えなかったかといえば嘘になる。

 アルフレッドからその事実を聞かされた瞬間、イルアは確かに胸が焦げるような痛みがあった。

 しかし、それよりも別の感情の方が強かった。

 アルフレッドの恋人は、フレデリックに弄ばれ棄てられた結果、精神を病んだ。心を閉ざし、刃物で我が身を傷付け、命すら絶とうとした。

 今でも彼女は、言葉を放つことができない。口を閉ざし、心を閉ざし、瞳には何も写そうとはしない。

 イルアは、実際にアルフレッドの恋人を目にしてはいない。

 けれど一歩間違えていたらの女性と同じ運命を歩んでいたと確信しているイルアは、容易にその姿を想像できた。

 だから、アルフレッドからの依頼を受けた。

 心を病んだアルフレッドの恋人に同情したのもある。そしてアルフレッドの言葉には騙されても仕方ないと思わせる切実な何かがあったから、というのもある。

 でも一番の理由は”ふっ切れた”この一言に尽きる。





 とはいってもイルア一人の力では、フレデリックをどうしようもない愚かな男に仕立て上げるだけで精一杯だった。

 再起不能にする為には、魔女の力が不可欠だった。

 アルフレッドは、イルアの叔母が魔女だということを知っていたのだろう。そして、知っているからこそ、イルアに依頼をしたのだ。

 それをあざといと言うか、強かというか、計算高いというか、評価は人それぞれだと思うけれど、イルアはなりふりかまっていられなかったのだと受け止めた。

 魔女である叔母は先見の明がある。

 その為、以前のように詳しく語る必要はなかった。すぐさまイルアのために、魔女の秘薬を無償で与えてくれた。

 秘薬の名前は【永久の微睡まどろみ】。

 一言で言えば、記憶喪失薬。ただし、薬を飲んでいる間の記憶残る、秘薬中の秘薬。

 かつては死んでしまった夫や子供。または婚約者や友人にもう一度だけ会いたいという切なる願いから作られた薬であるが、叔母はそれをイルアの為に特別に調合してくれた。

 秘薬を受け取ったイルアは微笑みを浮かべながら、食べ物や飲み物に混ぜ、フレデリックの前に並べた。彼は疑うことなく、それを一月以上口にした。

 その結果フレデリックは、ずっとずっと微睡まどろんでいる。

 今がどんな季節なのか、月日がどれくらい経過したのか、自分がどんな場所にいるのかわからず、ただただ小さな小さな帝国の皇帝でいられた時間の中だけをさ迷い歩いている。



 当然ながら、そんな人として再起不能になった男が次期領主になれるはずもない。

 現領主は弟を次期領主にと、苦渋の決断をした。

 ただ、体裁を気にしたのだろう。フレデリックは病により急死したと公表した。しかし、彼は生きている。屋敷の地下の、あるいはどこか遠くの診療所で。

 ただイルアは、フレデリックがどこにいるのか知ろうとはしない。知りたくもなかった。


 彼にとって【最後で最高の女】でいるという事実を知れば、もう十分だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

第一王子に裏切られた私は意外と身近に転生しました。さぁ復讐を始めましょう……

水城ゆき
恋愛
公爵令嬢のメリアンナは知ってしまった。婚約者である第一王子アストレアが自分の屋敷のメイドであるミレーナにラブレターを送った事を。 憤怒したメリアンナは二人の恋を実らせまいと行動するが、その作戦が上手くいきかけた時。 突然現れたミレーナを見て、思わずアストレアは抱きしめていたメリアンナを突き飛ばした。 メリアンナは階段を転落する事になり、そのまま命を落としてしまう。 しかし次に目覚めた時、メリアンナは第二王子の長女として以前の記憶を保ったまま生まれ変わっていたのだ。 ここからメリアンナの復讐が始まる。

【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。 しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。 自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。 夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか? 迷いながらもユートリーは動き出す。 サスペンス要素ありの作品です。 設定は緩いです。 6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下

花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)

処理中です...