不健全な契約から始まる、健全な男女交際～ふしだら令嬢と、喰われた王子のたった一つの隠し事～

仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ

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　ランラード学園は未来の紳士淑女を育てる学校でもある。

　そのため他の生徒との交流を深め、社交性を育てるという意図があり休憩時間は他の学校より長い。

　とどのつまり授業開始を今か今かと待ち望むアンナであるが、まだしばらくはチャイムの音は響かない。

　そうしてピリピリした空気が続く中、カイロスがため息交じりに口を開いた。

「……ったく、俺という恋人がいるというのに、堂々とお相手から浮気を宣言させるなんて、アンナは罪深い女だ」
「はい！？」

　休憩時間の残りを確認するため、時計台に視線を移していたアンナはカイロスの言葉ぎょっとする。

「あの......マチルダは、女の子ですよ？」
「知ってる」
「......ん？......は？？」

　カイロスの顔をじっと見つめたアンナであるが、結局間抜けな声を出すことしかできなかった。

　ただカイロスは物言いたげで、それでいてアンナの発言を待っているようにも見える。

「えっと……あの……カイロスさん、私がマチルダと一緒に寝るのは嫌なんですか？」
「ああ、嫌だ」
「へ？どうしてですか？？」
「そんなの決まっている。俺ができないことを、他人がしてると思うとむしゃくしゃするからだ」
「なっ」

　真っ昼間から男女の情事を連想させる発言をされ、アンナの顔は熟れたリンゴのように赤くなる。

「ちょっと、カイロスさん何言ってるんですか！！」
「おや？アンナこそ何を赤くなってるんだ？」

　大袈裟に驚くカイロスに、アンナは彼の脛を蹴りたくなる。

　でもそれができなくて、彼を力いっぱい睨むことしかできない。

　なぜならアンナはカイロスを襲ったふしだらな女生徒という設定でいるから。そして彼は、この程度で動揺するなと遠回しに訴えているのだ。

　でもアンナはそっちの方は未経験だ。言葉だけでも恥ずかしくて堪らない。

　なのにカイロスはことある毎に、こういう一歩踏み込んだ際どい発言をする。そうしてアンナがワタワタするのを楽しんでいる。控えめに言って性格が歪んでいる。

　......ここだけの話、実際のところカイロスは、ちゃんと一線を守ってくれている。

　ほぼほぼ脅されて仮初の恋人になったあの日、古びた旧図書館で周りを欺くための都合の良い存在になる代わりに、本当の恋人のような触れ合いは一切しないと取り決めをしたから。

　念のため契約書だって交わした。カイロスのお手製の魔法がかかったそれは、もし約束を破ったら、互いにペナルティを与えるもの。

　カイロスは一生、ナニが使い物にならなくなる。
　アンナは一生、大好きなプリンが苦い味になる。

　どちらも死活問題だ。

　だから二人とも絶対に破ることはしない。というか、そもそもアンナはカイロスに手を出す度胸なんて無い。　　

　でも絶対に安全だという約束に一抹の寂しさを覚えてしまうのは、自分のワガママなのだろう。

　思うことは多々あるが、好きな人の役に立っている。それだけで満足しないといけないのに。
　
「ーーあ、しまった！　私、職員室に呼ばれているのを忘れていたわっ」

　マチルダにぎゅうっと抱きしめられたまま意識をよそに向けていたアンナは、急に大きな声が耳元で響いて「ふぇうわぁっ」と、みっともない声を出す。

　すぐさま３人の視線を感じて、アンナは違う意味で恥ずかしい。

　アンナはちょうど目の前にあるマチルダの豊満な胸を使って顔を隠す。持つべきものは巨乳の親友だ。無論、使い方が間違っているのはわかっている。