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はじまりの章

全て灰にすれば良いと思う②

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 実のところ、センティッドは王子でありながらファルファラに会いに来ても、一度ももてなしを受けたことは無い。

 とはいえ毎度毎度、派手派手しい訪問スタイルを貫いているこの王子は、もてなしなんぞ受けられないことも一応は自覚している。

 なので、さっさと本題に入ることにした。

「早速だけれどファル、これを読んでくれるかい」

 パチンと指を鳴らした途端に、ポンッと1通の書簡が現れ、センティッドはそれを二本の指で受け止めた。

 ちなみに瞬時にここに無い物を出現させるは召喚魔法の応用で、センティッドが披露したこの術は、そこそこ難しいもの。彼はファルファラほどではないが上級魔術師程度の腕を持つ。

 そんな上級魔術師であり、第一王子であり、従兄から差し出された書簡を、ファルファラはなかなか受け取ろうとはしない。

「ねえ、殿下……なんか嫌な予感がするのは、私の気のせいかしら?」
「どうだろう。嫌か嫌じゃないかは君の気持ち次第だから今はなんとも言えないな」

 人を食ったような台詞を吐くセンティッドの目は、「良いから早く読め」と訴えている。

(本当に嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない)

 だって毎回、そうだから。

 これは勘ではなく、経験則に基づいてのこと。
 
 あと、わざわざ結界を破壊してこの屋敷に乗り込んできたということは、それ相応の内容のはず。じゃなきゃ、安眠妨害してくれたこの王子は単なるクズでしかない。

「ファル、君は透視魔法までマスターしたのかい?」

 一先ず受け取ってみたもののなかなか書簡を開かないファルファラを見て、センティッドは腕を胸の辺りに交差させ「いやん」とほざく。

 ファルファラは透視魔術なんぞはとっくの昔にマスターしている。だが従兄の裸体なんて頼まれたって見たくない。

 でも文句を言ったところでこの男は表情すら変えないはずだし、これを読まなければ、いつまで経っても帰らないだろう。

 最後の悪あがきで豪快に溜息を吐いてみたが、状況は何一つ変わらない。ファルファラは諦めるしかなかった。

「では、ちょっと失礼してーーーー は?……はぁ!?」

 嫌々感丸出して書簡の蝋印をぺりっと破って読み始めて数秒後、ファルファラは素っ頓狂な声を上げた。

 それから片手で書簡を持ったまま無の表情になると、おもむろに反対の手から炎を出した。

「あらあら陛下ったら、もう耄碌しちゃったのかしら。ご隠居するのはまだ早いというのに。……ほほほっ」

 ファルファラの笑い声は棒読みで、目は微塵も笑っていなかった。

 そして双眸を剣呑なものに変えたファルファラは、なんの躊躇も無く書簡を燃やして灰にした。

「殿下、従兄のよしみということで、見なかったことにしてあげますわ」

 命拾いしましたわね。と付け足したファルファラは笑みを絶やしていなかったけれど、滲み出る殺気は隠す気はなかった。
  
 ちなみに灰となった書簡にはこう書かれていた。

【クローヴァ家が嫡女ファルファラ・スタヒス・クローヴァ。この度、ヒードレイ家嫡男 ヴィレド・ヒードレイとの結婚を命ずるーー リグナフ・メラン・ナルナータ】
 
 リグナフ・メラン・ナルナータとは、現国王の名前はである。

 そして国王陛下の署名が入った書簡を受け取れば、王の忠実な番犬であるファルファラはどんな理由があっても逆らうことは許されない。

 そんな命が掛かった大切な書簡であるが、ファルファラの魔法により、ものの数秒で灰と化してしまった。

 証拠隠滅さえしてしまえば、罪には問われないという精神で。
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