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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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(ああ……この人は、こんな眼差しを私に向けていてくれていたんだ)

 亡き父親から向けられた眼差しによく似ているが、でもそれより熱を帯びたレンブラントの視線を全身に受け、ベルはこれまで彼に向けて飄々と毒を吐いていた自分の鈍感さに呆れてしまう。

 と同時に、ずっとあやふやだった彼に向かう気持ちに気付いてしまった今、こみ上げてくる想いを抑え切れず、ベルの瞳から涙がポタリと零れ落ちる。

「どうした?ベル。あんたらしくもない」

 弱り切った声を出しながらレンブラントは親指の腹でベルの涙をぬぐった。

 手袋越しに触れた彼の指先は少し震えていた。けれどそれに反して、その手の持ち主はニヤリと意地悪く微笑む。

 決してベルをからかっているわけではない。今だから、この状況だから、敢えて軽口を叩いたのだ。本音とは裏腹に。

 その意図を瞬時に理解したベルは、レンブラントと同じ表情を作った。

「もうすぐ終わるから、大人しくしとけ。───……後は任せろ」

 最後の一文はレンブラントはベルに背を向けながら言った。その表情はベルに向けていたそれとは別人のようだった。

 冷徹な表情に変えたレンブラントは、撃たれた手をかばいながらのたうち回るケンラートの襟首を片手で掴むと、無理矢理立ち上がらせた。反対の手には拳銃がある。

「さあて、うちの護衛対象者になかなかのことをしてくれたな、ケンラート君。元軍人の君なら、それがどういうことかわかっているよな?」

 そう言ったレンブラントの口調は穏やかではあるが、聞く者が聞いたなら、彼がどれほど怒りを込めているのかわかる。

 真っ正面から向き合っているケンラートなら、わかりたくなくても、理解せざるを得ない。

「……ひっ、や、やめ」

 ───カチャリ。

 唇を震わせながら無抵抗を示すために両手を上げようとしたケンラートを制したのは、ハンマー撃鉄の音だった。

「誰が命乞いをしろと言った? 俺は今、質問をしている。さっさと答えろ。軍人がせっかちな生き物だということは、あんただって知っているだろう? 備蓄の酒を横領して除籍処分された元軍人のケンラート君」

 レンブラントは銃口をケンラートの眉間に向けて静かに言った。

 対してベルは、パウェルの拘束を解きながら唖然とした。

(酒の横領で除籍処分って……ダサっ、ダサすぎる)

 ケンラートの過去が読み通りだったとはいえ、あまりの規模の小ささにベルはこんな状況なのに、思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。 

 しかし彼の妻であるミランダは世界中の不幸を背負った顔で「……嘘」と低く呟いた。

(いや待て、あんただって横領三昧してるじゃん)

 ベルはミランダに向けても、しっかり突っ込みを入れさせてもらった。それくらいの余裕が生まれたのだ。
  
 すぐ後ろに、ラルクとロヴィー。それからマースとモーゼスの気配までも感じることができたから。
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