皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

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一部 不本意ながら襲われていますが......何か?

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 佳蓮にやり込められたアルビスだが、表情を厳しくすると少年へと身体の向きを変えた。

「ちょっと、マジでやめてよ!」
「カレンさま、お待ちくださいっ」

 佳蓮が声を上げたのと、リュリュに羽交い締めされたのは、ほぼ同時だった。

 ぐいっと後ろに引っ張られた佳蓮は、全力で掴んでいたはずのアルビスのズボンを放してしまう。

 拘束を解かれたアルビスは歩き出す。その歩調は速く、足取りに迷いはない。

「ねえ、お願いっ。この子を殺さないでって言ってるでしょ!聞こえてんの?この馬鹿ぁ!!」

 懇願から罵倒に変わった佳蓮の言葉を聞いているのは、アルビスだけではなかった。
 
 シダナも、ヴァーリも、リュリュも──少年も。

「僕さぁ、ずっと決めてたんだ。幕引きだけは自分の手でしたいって。ま、そう言ってもロクな死に方はできないのはわかってたんだけどね。……でも、王様に殺されるなら悪くないな」

 あっけらかんとした口調で語る少年は、すでに死を受け入れている。でも佳蓮は「殺さないで」とアルビスに訴え続ける。

 暴れる佳蓮と、無言を貫くアルビス。両極端な二人を見て、少年は顔をくしゃりと歪めた。

「もういいよ、ありがとう。カレン……いい名前だね。僕ね、この命はゴミクズ以下の価値しかないと思っていたのに、かけがえのないものとして扱ってくれる人間がいただけでもう満足だよ。だからさ、王様……あとは、一瞬で殺してよ」

 少年の前にアルビスが立てば、側近たちは邪魔にならぬよう剣を引き、一歩後ろに下がった。

 アルビスが少年に手を伸ばす。首を掴まれて持ち上げられた少年の足は無様に揺れ、つま先はどんなに伸ばしても地に付けることはできない。

「知っていることをすべて吐け」

 アルビスは少年の首をへし折るのではなく、取引することを選んだ。

 極刑を見送られた少年は唖然とするが、素直に語りだす。

「あの……ね、まず僕だけがカレンを殺そうとしてる……わけじゃないよ」
「なに?」
「王様だって、し、知ってるだろ?……シ、シャオエは強欲だし、抜かりが……ない奴だから、ぼ、僕一人に暗殺を依頼するわけ、ないじゃん。あの女は……自分以外どうでもいいって思っているし、誰も……信用してない。皆……自分の欲を満たす駒だと……思っている。あーあ、王様、よくあんな女を皇后候補にしたよね?見る目……ないなぁ」

 思わず少年が悪態を吐いた途端、無駄口を叩くなといわんばかりにアルビスの指に力がこもった。

 喉を強く締め付けられ、かふっと弱々しく咳き込んだ少年は喘ぐように言葉を続ける。

「ごめん、ごめん、王様……そ、そんなに怒らないでよ。あのね、井戸に……強い睡眠薬かな?痺れ薬……かな?それを入れた奴と……跳ね橋の仕掛けを壊した奴と……見張りをしている奴がいる」

 間近で聞いていたシダナとヴァーリは、すぐさま辺りを警戒しながら、アルビスに目線だけで指示を仰ぐ。

 アルビスが微かに顎を引けば、側近二人は弾かれたように姿を消した。

「王さま……カレンを連れて……い、今すぐ……逃げたほうがいいよ。このままだと……カレンが他の暗殺者まで殺すなって……い、言いだしかねないから」
「言われなくともわかっている」

 口元に微かな笑みを浮かべたアルビスは、更に少年の首を掴んでいた手に力を込めた。

 少年の唇が、みるみるうちに色を失っていく。

「……王さま、やっぱあんた……鬼畜だよ。こんな……ヤバイ魔法を使う……なんて」

 息も絶え絶えに紡ぐ少年の言葉を受けても、アルビスの表情は動かない。

 じっと少年を見据える深紅の瞳の奥は金色を帯びて、まるで燃えるようだった。

 そして少年を掴む指先から、瞳と同じ色の砂のような何かがさらさらと零れていく。それは少年の血液だ。

 時間にして10を数える間もなかった。アルビスの魔法によって、ギリギリ命を保つだけ血液を残された少年は、紙のように白い顔になっていた。

 アルビスが無造作に手を離せば、少年は人形のように崩れ落ちる。立ち上がることさえできない。

「嘘でしょ!?やだっ、やだやだやだやだっ」

 未だリュリュに後ろから羽交い締めにされている佳蓮は、半泣きになりながら頭を激しく横に振っる。

 少年が死んでいないことに気付けるはずもない佳蓮は更に暴れ、とうとうリュリュの腕から飛び出した。

「ちょっと、死んじゃやだよ!目を開けて──っ……な、なにするのよ!?」

 アルビスの脇を通り抜け少年に駆け寄ろうとした佳蓮だけれど、目にもとまらぬ速さで腕を掴まれてしまった。

「カレン、君は私と来てもらおう。……リュリュ、お前はこいつを見張っておけ」
「やだ!触んないでよ!」

 佳蓮はアルビスから逃れようともがきながら、リュリュに縋る眼差しを向ける。

 けれどリュリュは佳蓮の視線を無視して、アルビスに頭を下げた。

「陛下、かしこまりました」
「リュリュさん!……ちょ、ちょっと!?勝手に決めないで……っ!!」

 剣を鞘に戻したアルビスは、非難の声を上げる佳蓮を抱き上げた。

「いくぞ」
「嫌だっ。誰があんたとなんかっ。私はリュリュさんと一緒に──」
「はっきり口に出すのは辛いが……カレン、君が暗殺者のターゲットだ。ここにいるのは危険だ」
「別に、狙われたっていい──」
「城の連中が巻き込まれてもか?」
「っ……!」

 幼子をあやすようなアルビスの口調は、まるでこちらが我儘を言っているように感じて佳蓮は怒り心頭だ。

「全部、あんたのせいじゃん!」
「ああ、その通りだ」

 アルビスは佳蓮の正論と八つ当たりがい交ぜになった言葉を素直に認めたが、佳蓮を抱く腕を緩めることはしなかった。
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