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°˖✧閑話✧˖°
元の世界での正しい謝罪の方法を教えて差し上げます②
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話はさかのぼること、1時間程前、カレンはリュリュを伴って図書室へと足を向けていた。
これまで離宮での監禁生活から、西の領地の城へと飛ばされ、そこでも軟禁生活を送っていたカレンだったけれど、今は違う。
カレンは2週間ほど前に、アルビスと結婚をした。
そしてこの国で2番目に尊い存在である聖皇后となった。だから宮殿内は好き勝手に移動することができる。そして、この宮殿内でカレンの行動を咎めるものは誰もいない。
とはいっても、カレンは贅沢三昧の暮らしをしたいわけでもなければ、夫であるアルビスに対して愛情の欠片も持ち合わせていないので、皇帝陛下の傍に近寄りたいとも思っていない。
カレンが望むのはただ一つ。元の世界に戻りたい。これだけ。
だから毎日、その方法を模索して図書館に通っている。知識を増やすために。
そしてたった今、読み終えた本を返却し、新たに本を両手に抱えて自室に戻ろうと歩いて歩いて、角を曲がった瞬間───。
出会ってしまったのだ。アルビス達、ご一行に。
「……あ」
最初に声を上げたのはカレンだった。
けれど、アルビスはそれより前からカレンに気付いていた。
議会を終えて、執務室に戻ろうとしていたところ、少し離れた場所からカレンとリュリュの話し声が聞こえてきたからだ。
内容は、力持ちのリュリュがかなりの量の本を抱えていることを気遣うもの。
言い換えると、普段カレンとリュリュがしている、とりとめのない会話。でも、アルビスにとったらとても心浮き立つもの。
なにせアルビスは、挙式が終わってからロクに顔を合わせていない。カレンが拒んでいるから。
……いや、はっきり言うと事実上、二人は夫婦であっても、カレンの中にはアルビスと共に時間を過ごすという発想はこれっぽちもない。
もちろんその理由はアルビスが一番良くわかっている。だから妻として云々などとカレンに説き、それを要求するつもりもない。
とはいえ、アルビスはカレンを愛している。それは一途に、大切に。
だからこの思わぬ邂逅は、アルビスにとってご褒美的なものだった。
そしてそのご褒美を辞退することなどできるわけもなく、アルビスはカレンの声がする方に自然と足が向いてしまったのだ。
でも、これまで説明をした通り、カレンはアルビスの顔を見た途端、巨大な蛾の死骸を見てしまったかのような表情になった。
不快に顔を顰めたのは一瞬。カレンの簡素なドレスの裾がふわりと舞う。勢いよく回れ右をしたのだ。
そしてそのまま、この場を去ろうとした。けれど───
「あ、こんにちはっ。カレンさま」
ヴァーリが去っていく聖皇后とその侍女を呼び止めたのだ。
けれど2人の足は止まらない。いや、歩く速度は競歩に近いそれ。
ヴァーリは、アルビスの為だけの騎士だ。
そしてアルビスがカレンの声を聞いた瞬間、僅かに口の端が持ちあがったことをしっかりと見ている。
なのに、顔を合わせた途端、それはないだろうと思ってしまったのだ。そしてついカレンを引き留めたいあまり、先ほどの失言をしてしまったのであった。
ヴァーリの肩を持つわけではないけれど、彼はカレンに深い感謝の念を抱いている。
孤独な皇帝陛下にとって唯一無二の存在だということもちゃんとわかっている。
だからかつてカレンに壁ドンをかましたときのような感情はなかった。
悪気はなかったのだ。怒らせたいとも思っていなかったのだ。
ならなんで「太った?」なんていう大変無礼なことを言ったのかというと、カレンはこの世界に召喚されてから災難続きで、ガリガリに痩せてしまっていた。
けれど今日見たカレンは、召喚された時と同じまではいかないけれど、少し頬に膨らみが戻っていた。素直に、ほっとしていた。
と、そんな気持ちを持っていたのだけれど、ヴァーリはあまり頭がよろしくない。また規格内のイケメンであるが、女性にあまりモテない。
なぜモテないのかというと……言葉を上手に選ぶことができないからで。そしてこれは、主であるアルビスも同様だった。
兎にも角にも、ヴァーリはただただアルビスとカレンが会話をする時間を取りたかっただけ。
ま、万死に値する行為を取ってしまったのは、変えることはできない事実だけれど。
これまで離宮での監禁生活から、西の領地の城へと飛ばされ、そこでも軟禁生活を送っていたカレンだったけれど、今は違う。
カレンは2週間ほど前に、アルビスと結婚をした。
そしてこの国で2番目に尊い存在である聖皇后となった。だから宮殿内は好き勝手に移動することができる。そして、この宮殿内でカレンの行動を咎めるものは誰もいない。
とはいっても、カレンは贅沢三昧の暮らしをしたいわけでもなければ、夫であるアルビスに対して愛情の欠片も持ち合わせていないので、皇帝陛下の傍に近寄りたいとも思っていない。
カレンが望むのはただ一つ。元の世界に戻りたい。これだけ。
だから毎日、その方法を模索して図書館に通っている。知識を増やすために。
そしてたった今、読み終えた本を返却し、新たに本を両手に抱えて自室に戻ろうと歩いて歩いて、角を曲がった瞬間───。
出会ってしまったのだ。アルビス達、ご一行に。
「……あ」
最初に声を上げたのはカレンだった。
けれど、アルビスはそれより前からカレンに気付いていた。
議会を終えて、執務室に戻ろうとしていたところ、少し離れた場所からカレンとリュリュの話し声が聞こえてきたからだ。
内容は、力持ちのリュリュがかなりの量の本を抱えていることを気遣うもの。
言い換えると、普段カレンとリュリュがしている、とりとめのない会話。でも、アルビスにとったらとても心浮き立つもの。
なにせアルビスは、挙式が終わってからロクに顔を合わせていない。カレンが拒んでいるから。
……いや、はっきり言うと事実上、二人は夫婦であっても、カレンの中にはアルビスと共に時間を過ごすという発想はこれっぽちもない。
もちろんその理由はアルビスが一番良くわかっている。だから妻として云々などとカレンに説き、それを要求するつもりもない。
とはいえ、アルビスはカレンを愛している。それは一途に、大切に。
だからこの思わぬ邂逅は、アルビスにとってご褒美的なものだった。
そしてそのご褒美を辞退することなどできるわけもなく、アルビスはカレンの声がする方に自然と足が向いてしまったのだ。
でも、これまで説明をした通り、カレンはアルビスの顔を見た途端、巨大な蛾の死骸を見てしまったかのような表情になった。
不快に顔を顰めたのは一瞬。カレンの簡素なドレスの裾がふわりと舞う。勢いよく回れ右をしたのだ。
そしてそのまま、この場を去ろうとした。けれど───
「あ、こんにちはっ。カレンさま」
ヴァーリが去っていく聖皇后とその侍女を呼び止めたのだ。
けれど2人の足は止まらない。いや、歩く速度は競歩に近いそれ。
ヴァーリは、アルビスの為だけの騎士だ。
そしてアルビスがカレンの声を聞いた瞬間、僅かに口の端が持ちあがったことをしっかりと見ている。
なのに、顔を合わせた途端、それはないだろうと思ってしまったのだ。そしてついカレンを引き留めたいあまり、先ほどの失言をしてしまったのであった。
ヴァーリの肩を持つわけではないけれど、彼はカレンに深い感謝の念を抱いている。
孤独な皇帝陛下にとって唯一無二の存在だということもちゃんとわかっている。
だからかつてカレンに壁ドンをかましたときのような感情はなかった。
悪気はなかったのだ。怒らせたいとも思っていなかったのだ。
ならなんで「太った?」なんていう大変無礼なことを言ったのかというと、カレンはこの世界に召喚されてから災難続きで、ガリガリに痩せてしまっていた。
けれど今日見たカレンは、召喚された時と同じまではいかないけれど、少し頬に膨らみが戻っていた。素直に、ほっとしていた。
と、そんな気持ちを持っていたのだけれど、ヴァーリはあまり頭がよろしくない。また規格内のイケメンであるが、女性にあまりモテない。
なぜモテないのかというと……言葉を上手に選ぶことができないからで。そしてこれは、主であるアルビスも同様だった。
兎にも角にも、ヴァーリはただただアルビスとカレンが会話をする時間を取りたかっただけ。
ま、万死に値する行為を取ってしまったのは、変えることはできない事実だけれど。
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