皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

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°˖✧閑話✧˖°(そのうちこそっと見直し修正します)

元の世界での正しい謝罪の方法を教えて差し上げます④

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 それから30分程経過してもカレンの怒りは治まらない。
 でも、ヴァーリの謝罪は既に同じフレーズを繰り返すだけのポンコツ蓄音器と化している。

 堅っ苦しい言葉を紡ぎ続けているヴァーリの舌は既に限界を迎えていて、噛むはどもるわと聞くに堪えない。

 そんな訳でカレンは、ちっと舌打ちをしてから口を開いた。

「ねえ、ヴァーリさん。あなたにとって誠心誠意の謝罪ってこんなもんなの?」

 ソファのひじ掛けに頬杖を付いたカレンは、うんざりした表情を浮かべてそう吐き捨てた。

 けれど、何かをひらめいたようで、その表情は場違いな程ゆったりとした笑みに変わった。

 でも、目は笑っていない。「さっさと答えろよ。このウスノロ」と訴えている。

 カレンのすぐ横に控えているリュリュに至っては、とうとうスカートに仕込んでいた剣を取り出す始末。

 ヴァーリは今すぐ答えなければ、命は無かった。
 さりとて、この少女の怒りを静めるようなユニークかつ、真っ当なことを言えるボキャブラリーは、ヴァーリには無い。そんなわけで彼は無言を貫く。

 それはカレンにとって予想通りの行動だったのだろう。苛つく様子はない。それどころか、笑みを深くして更に問いを重ねる。

「教えて欲しい?」
「……オネガイシマス」

 何を言っても、墓穴を掘ってしまうことはわかっているヴァーリは、抑揚ゼロ。感情も完璧に押さえ込んで、深々と頭を下げた。

 2拍置いて、カレンの目が猫のように細くなった。

「あなた悪気があったわけじゃないのよね?」
「モチロンデゴザイマス」
「そんなつもりじゃなかったんだよね?」
「ソノトオリデゴザイマス」
「今あなたは、騎士として……ううん、人間として地の底に落ちているんだけど」
「うげっ」
「あ゛?」

 うっかり素が出てしまったヴァーリは、すかさず首を横に振った。

 次いで、どうぞ続けてください。お願いですから続けてください。どうか平に平にお願い奉ります。と懇願する。

 本来ならここで死ねと吐き捨てて席を立っても良いところ。
 でも、カレンは気持ちを落ち着かせるために小さく咳ばらいをして、言葉を続けた。

「ヴァーリさん、人間としての名誉を回復したい?」
「はい。是が非でも」
「そう。なら、とっておきの方法を教えてあげる」
 
 カレンはここで一旦口をつぐんだ。

 それは次に放つ言葉が、ヴァーリにとって嬉しくないものだと予告するかのよう。
 しかしヴァーリは、自分から教えて欲しいと言った手前、逃げることなどできない。

 どうか自分の四肢が無事でありますように。ヴァーリは、そう神に祈った。

 けれども、神はとことん人間に対して平等だった。異世界から来たらカレンに優しくないように、ヴァーリにだって優しくはない。

「私が生まれて育った世界だとね、この方法しかないんだ。─── 切腹よ」
「セップク?」

 ヴァーリは初めて耳にしたそれを、カタコトで呟いた。

 もちろん、知っていては逆に怖い。なのでカレンは、ちょっとほっとしつつも、簡潔にそれを説明する。

「自分で、腹を、掻っ捌くこと」

 瞬間、ここにいた誰もが息を呑んだ。

 完璧に存在を消していたはずのアルビスとシダナですら、手にしていた書類やペンを落としてしまう始末。
 そしてそれらを拾うことすら忘れ、カレンを食い入るように見つめている。

 カレンとて、アルビス達の視線に気付いている。でも、今回ばかりは「こっちを見るなと」騒ぐつもりはない。
 むしろ聞かせてやりたい気持ちだった。

 だからカレンは、ちょっとだけ声量をあげて、ヴァーリにそれはそれは丁寧に説明を始める。

「私の国の人達は、お腹には魂と愛情が宿っているという思想があるの。だから、真心と潔白を示すためにお腹の中を見せて、腹黒いところなど何もなかったんだ証明するんだよ」

 一気に言い切ったカレンは、最後に「今のあなたにぴったりでしょ?」と付け加えて笑った。

 内心、眠くて退屈な歴史の授業だったけれど、ここだけは聞いておいて良かったと思いながら。
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