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二部 恋のアドバイスなんてしたくありませんが……何か?
8★
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夜会会場からカレンが姿を消しても、楽団の演奏は止まることは無い。
下座にいる参加者たちは、ダンスを踊り、談笑し、酒を飲み、時折料理をつまんでいる。
それをアルビスはじっと見下ろしている。
隣が空席なのは、いつものことだから片側だけ妙に寒いと思う感じるのはおかしい。そう自分に言い聞かせている。
けれど、心の奥底では違う感情が湧き出ている。心臓の鼓動に合わせて、トクントクンと少しずつ大きくなっていく。
「……忘れろ。あれは気まぐれに過ぎない」
アルビスは片手で口元を覆って、目を閉じた。
視界を暗闇に閉ざしたのは間違いだった。ここには居ない愛しい人のことばかり考えてしまう。
『おやすみ』
たった四文字の言葉を受け取っただけで、こんなに気持ちが乱れるとは思わなかった。
カレンが罵倒や悪態以外で自分から声を掛けてくれたのは、召喚した初日以来だ。それに気付いたアルビスは、たまらなく嬉しかった。
ちゃんと忘れないでおこうと強く思った。夢でも妄想でもなく、今しがたのそれは確かに起こった出来事なのだと。
そんなふうに思いにふけるアルビスは、とても珍しいことに、声を掛けられるまで背後の存在に気付けなかった。
「──無事、聖皇后陛下をお部屋まで送り届けてまいりました」
「……あ、ああ。ご苦労だった」
片手で顔を覆ったまま微かに身体が跳ねたアルビスを見て、ダリアスは目を丸くした。
いつでも沈着冷静なアルビスが見せた人間らしい仕草に、ダリアスはつい余計なことを口にしてしまう。
「自分の窮地を救った男には、女というものは少なからず好意を寄せるものでありますよ、陛下」
「黙れ」
アルビスは心底嫌そうに吐き捨てる。
「アレは私に好意を寄せることは無い。余計なことは二度とするな。次に同じことをしたら、団長の座を無くすと思え」
予想以上に厳しい口調で咎められ、ダリアスは自分が踏み込んではならない領域を犯してしまったことを知る。
深く反省したダリアスは、膝を付きアルビスに首を垂れた。
「陛下……本当に、申し訳ございません」
「もういい。去れ」
「……御意」
こちらを見ることも無く言い放つアルビスに、ダリアスは静かに立ち上がる。
「では私はこれで、失礼します」
隙の無い所作で一礼して背を向けようとしたダリアスだが、アルビスに待てと命じられてしまった。
「ど、どうされましたか?陛下」
「宰相の代わりはまだ見つかっていない。あんな奴でも急に消えてしまうと政務に支障が出る。だから明日の議会に差し障りが無い程度にしておけ」
「……はっ」
不満そうな顔をしたダリアスだけれど、聖皇帝に楯突くことはせず、今度こそ会場から姿を消した。
上座で人が出入りしても、下座にいる参加者は気にならないらしい。
宮殿での夜会に招かれることは、帝国民にとってかなりのステイタスであり、今この時だけを楽しむことができる権利を得ているかのようだ。
「……アルビス様、そろそろお部屋に戻られますか」
夜会が始まってから始終無言を貫いていたシダナは、そろそろ退席の頃合いかとアルビスに声を掛ける。
けれど本日に限っては、アルビスは首を横に振った。
「いや、ヴァーリがそろそろ戻ってくるだろう。あやつらを連れ……ああ、来たようだな」
シダナとの会話を途中で止めたアルビスは、下座に目を向けた。
視線の先には、ヴァーリを先頭に3人の着飾った女性が上座に繋がる階段を優雅な足取りで登ろうとしているところだった。
10も数えない間に、4人はアルビスの前に整列する。
「ふふっ、こんばんは。聖皇帝陛下、今宵はわたくし達をお招きいただきありがとうございます」
鈴を転がすのうな声音と共に、ふわりとドレスの裾をなびかせて3人の女性はアルビスの前で腰を落とした。
この女性達はカレンの言葉を借りるなら、アルビスが囲う愛人集団だ。
下座にいる参加者たちは、ダンスを踊り、談笑し、酒を飲み、時折料理をつまんでいる。
それをアルビスはじっと見下ろしている。
隣が空席なのは、いつものことだから片側だけ妙に寒いと思う感じるのはおかしい。そう自分に言い聞かせている。
けれど、心の奥底では違う感情が湧き出ている。心臓の鼓動に合わせて、トクントクンと少しずつ大きくなっていく。
「……忘れろ。あれは気まぐれに過ぎない」
アルビスは片手で口元を覆って、目を閉じた。
視界を暗闇に閉ざしたのは間違いだった。ここには居ない愛しい人のことばかり考えてしまう。
『おやすみ』
たった四文字の言葉を受け取っただけで、こんなに気持ちが乱れるとは思わなかった。
カレンが罵倒や悪態以外で自分から声を掛けてくれたのは、召喚した初日以来だ。それに気付いたアルビスは、たまらなく嬉しかった。
ちゃんと忘れないでおこうと強く思った。夢でも妄想でもなく、今しがたのそれは確かに起こった出来事なのだと。
そんなふうに思いにふけるアルビスは、とても珍しいことに、声を掛けられるまで背後の存在に気付けなかった。
「──無事、聖皇后陛下をお部屋まで送り届けてまいりました」
「……あ、ああ。ご苦労だった」
片手で顔を覆ったまま微かに身体が跳ねたアルビスを見て、ダリアスは目を丸くした。
いつでも沈着冷静なアルビスが見せた人間らしい仕草に、ダリアスはつい余計なことを口にしてしまう。
「自分の窮地を救った男には、女というものは少なからず好意を寄せるものでありますよ、陛下」
「黙れ」
アルビスは心底嫌そうに吐き捨てる。
「アレは私に好意を寄せることは無い。余計なことは二度とするな。次に同じことをしたら、団長の座を無くすと思え」
予想以上に厳しい口調で咎められ、ダリアスは自分が踏み込んではならない領域を犯してしまったことを知る。
深く反省したダリアスは、膝を付きアルビスに首を垂れた。
「陛下……本当に、申し訳ございません」
「もういい。去れ」
「……御意」
こちらを見ることも無く言い放つアルビスに、ダリアスは静かに立ち上がる。
「では私はこれで、失礼します」
隙の無い所作で一礼して背を向けようとしたダリアスだが、アルビスに待てと命じられてしまった。
「ど、どうされましたか?陛下」
「宰相の代わりはまだ見つかっていない。あんな奴でも急に消えてしまうと政務に支障が出る。だから明日の議会に差し障りが無い程度にしておけ」
「……はっ」
不満そうな顔をしたダリアスだけれど、聖皇帝に楯突くことはせず、今度こそ会場から姿を消した。
上座で人が出入りしても、下座にいる参加者は気にならないらしい。
宮殿での夜会に招かれることは、帝国民にとってかなりのステイタスであり、今この時だけを楽しむことができる権利を得ているかのようだ。
「……アルビス様、そろそろお部屋に戻られますか」
夜会が始まってから始終無言を貫いていたシダナは、そろそろ退席の頃合いかとアルビスに声を掛ける。
けれど本日に限っては、アルビスは首を横に振った。
「いや、ヴァーリがそろそろ戻ってくるだろう。あやつらを連れ……ああ、来たようだな」
シダナとの会話を途中で止めたアルビスは、下座に目を向けた。
視線の先には、ヴァーリを先頭に3人の着飾った女性が上座に繋がる階段を優雅な足取りで登ろうとしているところだった。
10も数えない間に、4人はアルビスの前に整列する。
「ふふっ、こんばんは。聖皇帝陛下、今宵はわたくし達をお招きいただきありがとうございます」
鈴を転がすのうな声音と共に、ふわりとドレスの裾をなびかせて3人の女性はアルビスの前で腰を落とした。
この女性達はカレンの言葉を借りるなら、アルビスが囲う愛人集団だ。
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