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お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う

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「どうでしょうね。今はなんとも」

 そんな期待はずれのグレイアス先生の言葉にノアが落ち込んだのは一瞬だけ。

 実は迷探偵ノアは、この事件の真相を知る手立てを知っている。残念ながら自分ではできないけれど。

「あのですね、離宮の庭園には精霊さんがたくさんいるらしいから、かなりの目撃証言を得れると思うんです。ちょっとお手数ですがグレイアス先生、ひとっ走り庭園まで行って、精霊さんたちに聞いてきて貰っても良いですか?」
「私を顎で使うなんて、あなたも随分偉くなったものですね。でも言っておきますが……精霊は基本的に人の生活に興味はないですから。もし仮に菓子に何か入れていたのを見てたとしても、それが毒なのか砂糖かだなんてわからないでしょうね」
「えー……そうなんだ」

 根本的な誤りに気付いたノアは、今度こそ本気でがっくりと肩を落とした。

 万事休すである。

 ここだけの話、目撃証言を得る方法については自分的にはナイスアイデアだと思っていた。
 そしてグレイアス先生からお褒めの言葉を貰えると確信を持っていた。

 なのに、さくっと却下されたこの気持ちは、当分の間癒えることはないだろう。あとドヤ顔決めて発言しなくて本当に良かった。

 ただ、万策つきたとはいえ、このまま毒入り菓子事件を放置するわけにはいかない。

 もちろんグレイアス先生は、きっとどんな手段を使っても犯人をつきとめてくれるだろう。

 悪の大魔王より、院長ロキより怖い顔をしていたのだ。あれだけ自分をビビらせてくれたのだから、それ相応の仕事はしてくれるとノアは信じている。そうしなければ、無駄に縮み上がった自分の心臓が可哀想でならない。

 とはいえお仕事熱心なノアは、事件解決までのんびり過ごす気は無い。グレイアス先生が捜査している間、自分にができることはないかと考えを巡らす。

(まぁ、自分にできることとなんて一つしかない。毒味しやすいように、これからは適当な理由をつけてお茶の時間に出る菓子はホールケーキにしてもらおう)

 王族の食べ物に毒を入れようとする時点で、その神経を疑うところであるが、さすがにくじ引き感覚で、一ヶ所だけ毒を仕込ますような真似はしないはず。
 
 ─── と、ノアが怪しまれずに菓子のリクエストするにはどんなふうに言えば良いかを真剣に悩み初めたら、トントンと指先で机を叩く音が聞こえた。

 思考の邪魔をされたノアは、ついつい、なんじゃと鬱陶しそうに指の持ち主を睨み付ける。

 そうすれば、ばっちりグレイアス先生と目が合った。そして彼は深いため息を吐きながら口を開いた。 

「ノアさま、まさかとは思いますが、今後お茶の時間の菓子はホールケーキにしてもらい、自分が毒味をしようなんていう愚かなことなんて思ってないですよね?」
「えっ!?なんでっ」

 ビンゴで当てられたノアは、ぎょっとする。まさかのまさかだ。大正解だ。

 そして宮廷魔術師が自分の心の中を勝手に覗いたと思い込んでいるノアは、両腕を胸の辺りで交差してグレイアスから距離を取る。

 すぐさま稀代の魔術師は、心外だと言いたげに顔を歪めた。

「あのですねぇ……宮廷魔術師をなめないでいただきたい。あなたの考えなんて魔力を使わずともお見通し何ですよ。あと、気持ち悪いポーズをとらないでください。変に誤解されます」

 その言葉で自分が取っているポーズが「いやん、見ないで」的なものに酷似していることに気付いたノアは、慌てて両手をバンザイの形にすると「はははは」と誤魔化し笑いを浮かべた。
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