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おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて
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「じゃあ、フレシア。曲を頼む」
「かしこまりました」
このやり取りで、ノアは自分の意向は無視されたことを知った。
(えー……殿下の前で赤っ恥かくのは嫌なんだけど……)
渋面を作って、そう訴えたい。
でも、はっきりと口に出せないのは、既にアシェルがしっかりとダンスを踊るためにノアの腰に手を回して、片手を握りしめているからで。
そんなわけで、ノアはこれも仕事だと腹を括った。
幸か不幸かわからないけれど、アシェルは目が見えない。つまり、へなちょこステップを踏もうが、優雅さとは遠く離れたそれになろうが、きっと彼は気付かないだろう。
とにかくこの1曲、盲目王子のおみ足を踏まなければ良いだけなのだ。見栄えなんて、二の次三の次。
「では……殿下、よ、よ、よろしくお願いいたします」
「うん。でも、そんなに硬くならないで」
ノアが覚悟を決めてアシェルの肩に触れながらそう言えば、くすりと楽しそうな笑い声が耳朶に響く。
心から楽しそうな盲目王子の笑い声を聞いてもノアはちっとも嬉しくないし、身体はガチガチに硬い。顔だってきっと悲壮感が溢れているだろう。
けれど、殿下の命令は絶対だ。
フレシアの手で魔法の蓄音機から軽やかなワルツが流れ出す。教養のあるお方にとったらさぞ、美しいメロディーなのかもしれないが、ノアにとったらレクイエムにしか聞こえない。
そんな中、アシェルがそっとノアの耳に唇を寄せる。
「……ノア、目を閉じて。何も考えなくて良い。とにかく音楽だけを聴いて」
「は、はい」
なんで?などと聞いてはいけないような気がして、ノアは素直に目を閉じる。
耳に流れ込む音楽は、相変わらずレクイエムにしか聞こえないが、アシェルが聞けといったのだから、とにかくそれに耳をすます。
「じゃあ、行こう」
まるで散歩にでも出かけるようなウキウキとした口調でアシェルがそう言ったと同時に、身体がふわりと浮いた。次いで足が勝手に動き出す。
アシェルが魔法を使えないのはわかっている。これは彼の巧みなリードのおかげ。でも、何の違和感もなくワルツの曲に合わせて踊れる自分に驚きを隠せない。
「─── お?……おお??」
「こら、ノア。目を閉じていて」
「ひゃい」
うっかり目を開けた途端にアシェルからたしなめられ、ノアはぎゅっと音がしそうなほど強く目を閉じる。
でも、そんなやり取りをしたって身体はちゃんとワルツを踊っている。
ヒール越しに感じるのは、ホールの床の感触だけ。つまりまだ一度もアシェルの足を踏んでいない。これまた驚きだ。
「……殿下は、ダンスがお上手なんですね」
つい本音を漏らせば、すぐに頭上から苦笑が降ってきた。
「だから言っただろう?私だって、これくらいはできるんだよ」
「私、殿下が何もできない人だなんて一度も思ったことないですよ?」
「そうなのかい?なら……なぜ、さっきあんなにも私と踊るのを拒んだのか聞いても良いかな?」
「あれはっ、あ……なんでもないです。内緒です、内緒」
流れるようなステップと同じ口調で尋ねられて、うっかり本音を伝えてしまいそうになったノアは、ぎゅっと口を噤む。
別にそれを伝えたところでアシェルは笑って終わりにしてくれると確信を持っているが、なんだか言いたくないのだ。
そんな気持ちからますます口をむぎゅっとさせるノアの気配を察したアシェルは、観念したかのように溜息を一つ落とした。
「かしこまりました」
このやり取りで、ノアは自分の意向は無視されたことを知った。
(えー……殿下の前で赤っ恥かくのは嫌なんだけど……)
渋面を作って、そう訴えたい。
でも、はっきりと口に出せないのは、既にアシェルがしっかりとダンスを踊るためにノアの腰に手を回して、片手を握りしめているからで。
そんなわけで、ノアはこれも仕事だと腹を括った。
幸か不幸かわからないけれど、アシェルは目が見えない。つまり、へなちょこステップを踏もうが、優雅さとは遠く離れたそれになろうが、きっと彼は気付かないだろう。
とにかくこの1曲、盲目王子のおみ足を踏まなければ良いだけなのだ。見栄えなんて、二の次三の次。
「では……殿下、よ、よ、よろしくお願いいたします」
「うん。でも、そんなに硬くならないで」
ノアが覚悟を決めてアシェルの肩に触れながらそう言えば、くすりと楽しそうな笑い声が耳朶に響く。
心から楽しそうな盲目王子の笑い声を聞いてもノアはちっとも嬉しくないし、身体はガチガチに硬い。顔だってきっと悲壮感が溢れているだろう。
けれど、殿下の命令は絶対だ。
フレシアの手で魔法の蓄音機から軽やかなワルツが流れ出す。教養のあるお方にとったらさぞ、美しいメロディーなのかもしれないが、ノアにとったらレクイエムにしか聞こえない。
そんな中、アシェルがそっとノアの耳に唇を寄せる。
「……ノア、目を閉じて。何も考えなくて良い。とにかく音楽だけを聴いて」
「は、はい」
なんで?などと聞いてはいけないような気がして、ノアは素直に目を閉じる。
耳に流れ込む音楽は、相変わらずレクイエムにしか聞こえないが、アシェルが聞けといったのだから、とにかくそれに耳をすます。
「じゃあ、行こう」
まるで散歩にでも出かけるようなウキウキとした口調でアシェルがそう言ったと同時に、身体がふわりと浮いた。次いで足が勝手に動き出す。
アシェルが魔法を使えないのはわかっている。これは彼の巧みなリードのおかげ。でも、何の違和感もなくワルツの曲に合わせて踊れる自分に驚きを隠せない。
「─── お?……おお??」
「こら、ノア。目を閉じていて」
「ひゃい」
うっかり目を開けた途端にアシェルからたしなめられ、ノアはぎゅっと音がしそうなほど強く目を閉じる。
でも、そんなやり取りをしたって身体はちゃんとワルツを踊っている。
ヒール越しに感じるのは、ホールの床の感触だけ。つまりまだ一度もアシェルの足を踏んでいない。これまた驚きだ。
「……殿下は、ダンスがお上手なんですね」
つい本音を漏らせば、すぐに頭上から苦笑が降ってきた。
「だから言っただろう?私だって、これくらいはできるんだよ」
「私、殿下が何もできない人だなんて一度も思ったことないですよ?」
「そうなのかい?なら……なぜ、さっきあんなにも私と踊るのを拒んだのか聞いても良いかな?」
「あれはっ、あ……なんでもないです。内緒です、内緒」
流れるようなステップと同じ口調で尋ねられて、うっかり本音を伝えてしまいそうになったノアは、ぎゅっと口を噤む。
別にそれを伝えたところでアシェルは笑って終わりにしてくれると確信を持っているが、なんだか言いたくないのだ。
そんな気持ちからますます口をむぎゅっとさせるノアの気配を察したアシェルは、観念したかのように溜息を一つ落とした。
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