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始めるために、終わりにしよう。それがどんなに辛くても……ぐすんっ
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精霊姫から伝わった記憶を見て、ノアはみんな自分勝手だなと思った。
大事なことを伝えずに死んでしまった精霊姫も、怒りを押し付けた精霊王も、我を通した初代国王も。
みんなみんな自分勝手だ。でも、そこに悪意は無かった。誰かを想う気持ちしかなかった。
ただそのせいでこんなにも拗れてしまったことに対してはどうかと思う。これじゃあこれから先、どんな奇麗なおとぎ話を聞いてもその裏を考えてしまうじゃないか。
などと心の中でぼやきながらノアは未だメソメソ泣いている精霊姫をぎゅっと抱きしめる。
「泣かないでください」
務めて優しい口調で声を掛けた途端、精霊姫はびくりと身を強張らせた。
「え?……あ、あなた……っ……どうしてここに!?」
どうしてと聞かれたって、こっちが教えて欲しい。
などとつい憎まれ口を叩きなりそうになる自分をぐっと堪えて、ノアは顔を上げてくれた精霊姫と目を合わせた。
「はじめまして、ノアです」
「……私は、ニヒ」
もともと一つの魂なのかもしれないが、自己紹介は大事だ。なんせ見た目は全く違うのだから。
精霊姫はその名に恥じることが無いくらい奇麗だった。
月明かりのような深みのある銀の髪。憂いを帯びた青紫色の瞳。陶器のようなつるりとした肌に、花びらのような小さな唇。
人間が精霊を描こうと思ったら、お手本にするような容姿だった。とどのつまり自分とは全く違う。
ノアはそれが嬉しかった。これっぽっちも似ていないのなら、今思っていることが精霊姫が持つ感情ではなく、自分だけの感情だと確信を得ることができるから。
「ニヒさんの記憶を見せてくれてありがとうございます。……あの、えっと……ニヒさんが泣いている理由も良くわかりました」
と言ってみたけれど、たぶん全部は理解できていないのだろう。
実際に自分は誰かと死に別れたこともないし、死んだ後望まぬ展開になって、でも自分の力じゃどうすることもできない状況に陥ったことも無い。
何よりニヒみたいに号泣するほど強く後悔することだってこれまでなかった。そうならないように、後悔しない選択をずっとしてきた。
だからやっぱりニヒの気持ちを理解できていない。
そんなノアでも、既に決めていることがある。
後でどんな事実が出てこようと、これが最善だと思うことが。それは選ばなければ、きっと後悔するもの。
「ニヒさん、あのですね」
「うん」
「私が全部終わりにします」
「……え?」
きょとんとするニヒと、にんまり笑う自分。
(鏡合わせの表情にならなくて良かった)
ノアはこの決断が誰の影響も受けていない自分だけのものだと実感する。
「私ですね、今、諸般の事情であなたが愛した人が作ったお城にいるんです。でもってその人の子孫と婚約者の状態にいるんです」
「へ、へぇ」
ニヒが曖昧に頷いてしまうのは、自分の説明に問題があるのだろう。
でもこれ以上上手く説明ができないから、ここは無理矢理にでも納得してもらうしかない。というか、重要なのはコレじゃない。この続きだ。
「でも私はその人と結ばれません。ニヒさんのお父さんには悪いですけど、私はお城を去ります。だから安心してくださいね。ニヒさんの愛した人の子孫を縛るようなことにはなりませんから」
一気に言い切った後、ノアは笑った。
他にもっと良い案があるかもしれない。こんなこと無意味なことかもしれない。
でもこんなにもニヒが壊れるほど泣いて訴えているというのに父親である精霊王にそれが届かないということは、言葉で説得したって無理だろう。
ならば、強硬手段にでるしかない。
ノアは、そう結論下した。
鼻の奥がつんとしたけれど、胸を鋭い爪で引っかかれたような痛みが走ったけれど、全部全部、気付かないフリをして。
大事なことを伝えずに死んでしまった精霊姫も、怒りを押し付けた精霊王も、我を通した初代国王も。
みんなみんな自分勝手だ。でも、そこに悪意は無かった。誰かを想う気持ちしかなかった。
ただそのせいでこんなにも拗れてしまったことに対してはどうかと思う。これじゃあこれから先、どんな奇麗なおとぎ話を聞いてもその裏を考えてしまうじゃないか。
などと心の中でぼやきながらノアは未だメソメソ泣いている精霊姫をぎゅっと抱きしめる。
「泣かないでください」
務めて優しい口調で声を掛けた途端、精霊姫はびくりと身を強張らせた。
「え?……あ、あなた……っ……どうしてここに!?」
どうしてと聞かれたって、こっちが教えて欲しい。
などとつい憎まれ口を叩きなりそうになる自分をぐっと堪えて、ノアは顔を上げてくれた精霊姫と目を合わせた。
「はじめまして、ノアです」
「……私は、ニヒ」
もともと一つの魂なのかもしれないが、自己紹介は大事だ。なんせ見た目は全く違うのだから。
精霊姫はその名に恥じることが無いくらい奇麗だった。
月明かりのような深みのある銀の髪。憂いを帯びた青紫色の瞳。陶器のようなつるりとした肌に、花びらのような小さな唇。
人間が精霊を描こうと思ったら、お手本にするような容姿だった。とどのつまり自分とは全く違う。
ノアはそれが嬉しかった。これっぽっちも似ていないのなら、今思っていることが精霊姫が持つ感情ではなく、自分だけの感情だと確信を得ることができるから。
「ニヒさんの記憶を見せてくれてありがとうございます。……あの、えっと……ニヒさんが泣いている理由も良くわかりました」
と言ってみたけれど、たぶん全部は理解できていないのだろう。
実際に自分は誰かと死に別れたこともないし、死んだ後望まぬ展開になって、でも自分の力じゃどうすることもできない状況に陥ったことも無い。
何よりニヒみたいに号泣するほど強く後悔することだってこれまでなかった。そうならないように、後悔しない選択をずっとしてきた。
だからやっぱりニヒの気持ちを理解できていない。
そんなノアでも、既に決めていることがある。
後でどんな事実が出てこようと、これが最善だと思うことが。それは選ばなければ、きっと後悔するもの。
「ニヒさん、あのですね」
「うん」
「私が全部終わりにします」
「……え?」
きょとんとするニヒと、にんまり笑う自分。
(鏡合わせの表情にならなくて良かった)
ノアはこの決断が誰の影響も受けていない自分だけのものだと実感する。
「私ですね、今、諸般の事情であなたが愛した人が作ったお城にいるんです。でもってその人の子孫と婚約者の状態にいるんです」
「へ、へぇ」
ニヒが曖昧に頷いてしまうのは、自分の説明に問題があるのだろう。
でもこれ以上上手く説明ができないから、ここは無理矢理にでも納得してもらうしかない。というか、重要なのはコレじゃない。この続きだ。
「でも私はその人と結ばれません。ニヒさんのお父さんには悪いですけど、私はお城を去ります。だから安心してくださいね。ニヒさんの愛した人の子孫を縛るようなことにはなりませんから」
一気に言い切った後、ノアは笑った。
他にもっと良い案があるかもしれない。こんなこと無意味なことかもしれない。
でもこんなにもニヒが壊れるほど泣いて訴えているというのに父親である精霊王にそれが届かないということは、言葉で説得したって無理だろう。
ならば、強硬手段にでるしかない。
ノアは、そう結論下した。
鼻の奥がつんとしたけれど、胸を鋭い爪で引っかかれたような痛みが走ったけれど、全部全部、気付かないフリをして。
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