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婚約者が語る真実④
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レオナードに抱き締められていたルシータは、決定的瞬間を見ることはできなかった。
けれど招待客はしっかりと見ていた。給仕をしていたメイドさえ。
アスティリアは間違いなく、ポットの中身をルシータめがけてぶちまけた。ルシータの顔にしっかりと狙いを定めて。
でも熱湯を被ったのは、レオナードだった。
レオナードは決して運動神経が鈍いわけではない。いや、むしろ良い方だ。だから、冷静な判断ができていたら、ルシータを抱えたままそれを避けることもできた。
けれど、できなかった。
それくらいレオナードは動揺していたのだ。ルシータを守ることしか考えられなかったのだ。咄嗟に自分が盾になることしかできなかった。その後自分がどうなるのか考えられないくらいに。
その結果、レオナードは半身に熱湯を浴びる羽目になった。
そしてギャラリーたちは空が割れそうな程の悲鳴をあげ、メイドたちは手にしていたトレーを滑り落とす結果となり、華やかなお茶会の場は、一変して阿鼻叫喚の図となったのだ。
でも実は、これはアスティリアにとって不幸中の幸いでもあった。
なぜなら、もし万が一、ルシータに1滴でも熱湯がかかっていたのなら、ここでは言い表せない程の制裁をレオナードから受けることになっていたはずだから。
「───…...ルシータ、頼む。僕の質問に答えてくれ」
焦燥に駆られたレオナードの声に、ルシータはまた息を呑んでしまった。
なぜならそれがあまりに愚問だったから。
そして、彼はなぜ自分に気遣う言葉をかけているのか疑問が生まれる。それはこっちの台詞だ。
......と、ルシータは思った。
でもレオナードの眼力に逆らうことはできず、掠れた声で何とか無事であることを伝える。
そうすればレオナードは心からの安堵の笑みを浮かべた。抱き締められていた腕からも、あからさまに力が抜けるのが伝わってきた。
「ああ、良かった」
そう言ってレオナードは、ルシータから少し体を離すと、濡れて頬に張り付いてしまった前髪を片手でかきあげた。
顔の半分が濡れてしまった彼の顔が日の光に照らされる。
ポットの中身は時間が少し経っていたので、爛れてしまうほどの火傷を負ったわけではないけれど、それでも赤くなっている。
そして彼が少し長い前髪をかきあげた途端、招待客から声があがった。
ただそれは、いつもの黄色い悲鳴ではなく、断末魔の絶叫に近いそれ。
もちろんルシータだって、声をあげたかった。でも、そういう次元を超えてしまえば、目を見開いて、唇を震わせることしかできない。
アスティリアに至っては、まだ性懲りもなく「私は悪くいない。ルシータが避けるからこんなことになるんだ」と、責任転嫁する台詞を吐いている。
招待客は、もうアスティリアを気に留めることなどしない。ただレオナードは熱湯を浴びていながらも、その言葉はしっかりと耳にして、かつ、侮蔑の視線を向ける余裕すらあった。
けれどルシータは、自分の身代わりになってしまったレオナードに釘付けだった。
彼が痛みを堪える表情をすらしないのが、余計に辛かった。
そしてとうとうキャパを越えてしまったルシータの瞳から、抱えきれなかった感情が溢れ落ちる。
「う、ううっ、うっ……」
一度溢れたそれは、もう止まらなかった。
すみれ色の瞳からポロポロと涙が堰を切ったように流れ出す。
それを見たレオナードは、今日一番、焦った顔をした。そして慌ててルシータを自身の胸に掻き抱いた。
「見ての通りこの形だ。濡れたまま茶会の席に居座るのは失礼になるからね。申し訳ないが、ここで失礼させてもらうよ、アスティリア嬢」
レオナードは、招待客として、途中で退席することを詫びた。
そしてアスティリアの許可を待たずして、ルシータを抱えるように歩き出す。
もちろん引き留める者はいない。むしろ、その歩行の邪魔にならぬよう、皆が無言で道を開けていく。
けれど、レオナードは数歩進んだ後、振り返ってこう言った。
「ああ、そうそう。先程の件については、後ほどしっかり話合おう。君のお父様も交えてね」
無論、この茶会で起こった数々の出来事を、レオナードは、うやむやになどする気はなかった。
そしてこの一連の出来事は、個人間の問題ではなく、家同士のそれにすると宣言したのだ。
ここハーナンザ王国は階級社会だ。
貴族同士の揉め事は、なにを差し置いても爵位がものをいう。つまりアスティリアは、格上の侯爵家を本気で敵に回したことになる。
ただ、今、レオナードはそれどころではなかった。
何よりも大切で、大好きな婚約者の泣き顔を誰にも見せたくなかったから。
特に、学生時代、ルシータに好意を持っていた男性たちには。
けれど招待客はしっかりと見ていた。給仕をしていたメイドさえ。
アスティリアは間違いなく、ポットの中身をルシータめがけてぶちまけた。ルシータの顔にしっかりと狙いを定めて。
でも熱湯を被ったのは、レオナードだった。
レオナードは決して運動神経が鈍いわけではない。いや、むしろ良い方だ。だから、冷静な判断ができていたら、ルシータを抱えたままそれを避けることもできた。
けれど、できなかった。
それくらいレオナードは動揺していたのだ。ルシータを守ることしか考えられなかったのだ。咄嗟に自分が盾になることしかできなかった。その後自分がどうなるのか考えられないくらいに。
その結果、レオナードは半身に熱湯を浴びる羽目になった。
そしてギャラリーたちは空が割れそうな程の悲鳴をあげ、メイドたちは手にしていたトレーを滑り落とす結果となり、華やかなお茶会の場は、一変して阿鼻叫喚の図となったのだ。
でも実は、これはアスティリアにとって不幸中の幸いでもあった。
なぜなら、もし万が一、ルシータに1滴でも熱湯がかかっていたのなら、ここでは言い表せない程の制裁をレオナードから受けることになっていたはずだから。
「───…...ルシータ、頼む。僕の質問に答えてくれ」
焦燥に駆られたレオナードの声に、ルシータはまた息を呑んでしまった。
なぜならそれがあまりに愚問だったから。
そして、彼はなぜ自分に気遣う言葉をかけているのか疑問が生まれる。それはこっちの台詞だ。
......と、ルシータは思った。
でもレオナードの眼力に逆らうことはできず、掠れた声で何とか無事であることを伝える。
そうすればレオナードは心からの安堵の笑みを浮かべた。抱き締められていた腕からも、あからさまに力が抜けるのが伝わってきた。
「ああ、良かった」
そう言ってレオナードは、ルシータから少し体を離すと、濡れて頬に張り付いてしまった前髪を片手でかきあげた。
顔の半分が濡れてしまった彼の顔が日の光に照らされる。
ポットの中身は時間が少し経っていたので、爛れてしまうほどの火傷を負ったわけではないけれど、それでも赤くなっている。
そして彼が少し長い前髪をかきあげた途端、招待客から声があがった。
ただそれは、いつもの黄色い悲鳴ではなく、断末魔の絶叫に近いそれ。
もちろんルシータだって、声をあげたかった。でも、そういう次元を超えてしまえば、目を見開いて、唇を震わせることしかできない。
アスティリアに至っては、まだ性懲りもなく「私は悪くいない。ルシータが避けるからこんなことになるんだ」と、責任転嫁する台詞を吐いている。
招待客は、もうアスティリアを気に留めることなどしない。ただレオナードは熱湯を浴びていながらも、その言葉はしっかりと耳にして、かつ、侮蔑の視線を向ける余裕すらあった。
けれどルシータは、自分の身代わりになってしまったレオナードに釘付けだった。
彼が痛みを堪える表情をすらしないのが、余計に辛かった。
そしてとうとうキャパを越えてしまったルシータの瞳から、抱えきれなかった感情が溢れ落ちる。
「う、ううっ、うっ……」
一度溢れたそれは、もう止まらなかった。
すみれ色の瞳からポロポロと涙が堰を切ったように流れ出す。
それを見たレオナードは、今日一番、焦った顔をした。そして慌ててルシータを自身の胸に掻き抱いた。
「見ての通りこの形だ。濡れたまま茶会の席に居座るのは失礼になるからね。申し訳ないが、ここで失礼させてもらうよ、アスティリア嬢」
レオナードは、招待客として、途中で退席することを詫びた。
そしてアスティリアの許可を待たずして、ルシータを抱えるように歩き出す。
もちろん引き留める者はいない。むしろ、その歩行の邪魔にならぬよう、皆が無言で道を開けていく。
けれど、レオナードは数歩進んだ後、振り返ってこう言った。
「ああ、そうそう。先程の件については、後ほどしっかり話合おう。君のお父様も交えてね」
無論、この茶会で起こった数々の出来事を、レオナードは、うやむやになどする気はなかった。
そしてこの一連の出来事は、個人間の問題ではなく、家同士のそれにすると宣言したのだ。
ここハーナンザ王国は階級社会だ。
貴族同士の揉め事は、なにを差し置いても爵位がものをいう。つまりアスティリアは、格上の侯爵家を本気で敵に回したことになる。
ただ、今、レオナードはそれどころではなかった。
何よりも大切で、大好きな婚約者の泣き顔を誰にも見せたくなかったから。
特に、学生時代、ルシータに好意を持っていた男性たちには。
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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