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1.婚約を破棄する少女に、冷徹領主は暴言を吐く

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 両親の死因を、セリオはどこまで知っているのだろうか。

 罪悪感を全く覚えていないセリオがあまりに気持ち悪くて、モニカは不意にそんな疑問を持つ。

 両親の葬儀の際、まさかこの男が後の自分の婚約者になるなど欠片も思っていなかったから、参列したのかどうかまったく覚えていない。
 
 ただ閉鎖的な村は、噂好きな連中の巣窟でもある。

 人の死よりも、自分の払った代金がおじゃんになったことに怒りを覚える人達だから、セリオが歪んだ情報を耳にして、それを鵜呑みにしているだけなのかもしれない。

( ……なら、きちんと話しをしよう)

 セリオのことは好きじゃない。一生添い遂げたいと思えるところは何一つ無い。

 でも村長が砦の怠慢を揉み消すと選んだ今、自分がこの村の一人一人に伝えていかないと真実は闇に葬られてしまう。

「あのね、セリオ。両親の事なんだけどね」
「あー……うん。もう言わなくて良いよ。わかっているから」
「え?」

(…… わかってないから伝えようとしているのに)

 思わずモニカは首を捻ってしまう。

 そんなモニカに、セリオは理解ある婚約者のような表情を浮かべて口を開いた。

「モニカはさぁ、図星を指されてカッなったんでしょ? もう良いよ。僕、そういうとろこ、まぁまぁ受け入れられるタイプだし。ま、これで気が済んだでしょ。だから、式の日取りと持参金について話し合おうよ」

「……」

 駄目だ。多分、どれだけ話しても、この男は理解できないだろう。

 セリオが根本から自分とは違う人間だということを見せつけられ、モニカは閉口してしまった。
 
 ただ唯一救いがあったとすれば、もう、この男に対して遠慮は要らないという踏ん切りがついたということ。

「セリオ、私は貴方とは結婚しません」

 居ずまいを正して、モニカはきっぱりとセリオに言った。

「あー……まだ、構ってちゃんごっこの続きをやるの? それ飽きた」
「寝言は寝て言え。この馬鹿」
「なっ、お前、誰に向かって言ってんのかわかっているのか?!」
「わかってます。あなたに言っているんですよ、お馬鹿なセリオさん。そして私は貴方とは結婚しません。現時点をもって婚約を破棄します。二度も言わせないで、このアホ」

 わなわなと真っ赤になって震えるセリオに、モニカは至極冷静に言い切った。

 次いで、ついっと出口を指差す。

「帰ってください。金輪際、私の家に来ないで。顔も見せないで。近くで息もしないで。一生、視界に入らないでください」

 これまで曖昧な対応をしていても、乱暴な物言いなど一度もしたことが無かったモニカの豹変にセリオは顔色を無くす。

 でも女性軽視の思想を捨てきれないセリオは、これがまだ気を引きたいが為の子演技ではないかと疑いを持つ。

 けれど、モニカの目は刃物のように冴え冴えとしていた。

 まごうこと無き本気だった。
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