冷徹領主は、みなしご少女を全力で溺愛したいようですが。

当麻月菜

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3.暖炉とお茶と、紙の音

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「モニカさん、ではわたくしは居間の掃除と、階段と廊下の雑巾がけ。あと窓拭きもやらせていただきますね」
「ありがとうございます!エバさん。あと、本当にすみませんっ。2階の掃除が終わったら、すぐに私もやりますのでっ」
「ふふっ、ゆっくりで大丈夫ですよ」

 掃除道具一式を持って階段を一気に駆けあがるモニカに、メイドことエバはにこやかに笑みを浮かべ見送ってくれた。

 さて、クラウディオから名前で呼んでもらうようお願いした結果、モニカは「お嬢様」から「モニカさん」へと呼び名が変わった。

 エバはファネーレ邸のメイドである。
 それは間違いないのだけれど、実は今日からモニカの侍女に任命された女性でもあった。


 ファネーレ邸で過ごしてまだ幾日も経っていないモニカは、食事以外の時間はずっと部屋に引きこもっている。

 モニカとしたら、田舎娘が豪華すぎる屋敷をウロチョロするのは、きっと目障りだろうという思いから。

 けれど、クラウディオからするとモニカの行動は、環境に馴染むことができず、一人寂しい思いをしているようにしか見えなかった。
 そして、よもやここに居ることが苦痛なのかもしれない……などと鬱々と考えてしまう日々であった。

 だから話し相手でもいれば多少は気持ちが明るくなるだろうという思いから、モニカと歳が近いエバを選んだというわけだ。

 あともう一つの理由が、エバの父親が陶器職人であったから。
 職人の父親を持つという共通点があれば、打ち解けるきっかけになるだろうというクラウディオの配慮だった。

 ただモニカは、そのことを知らない。
 
 クラウディオは自分の差し出したものを受け取ってもらえたら嬉しいとは思っているが、モニカに押し付けるつもりはなかった。
 
 




 一通り掃除が終わり、モニカはクラウディオを居間に通した。

 それまでクラウディオがどこで何をしていたかというと、馬車の中で政務に励んでいた。

「今日は暖かいな」
「ソウデスネ」

 満足がいく室温で何よりだと思うが、家に入って開口一番にそれはないだろうとも思ってしまう。

 けれどムッとするモニカに、クラウディオは気付かない。

 そして出発前に両手で書類の束を抱えた青年─── ハイネに、サッと目配せをする。

 そうすれば、ハイネは心得ていますといった感じで、手にしていた書類ではないをクラウディオに手渡した。

「モニカ、良かったら受け取ってくれ」
「は……い?」

 ずいっと差し出されたものは、布だった。ただ見たところ、ショールとか服といった感じの肌触りではない。

「代わりのテーブルクロスを用意させてもらった。柄や素材などわからず勝手に用意したものだから……気を悪くしてしまったら申し訳ない」 

 なぜ最終的に謝罪になるのかわからないモニカは首を捻る。

 でもクラウディオは「広げてみてくれ」と目でがっつりと訴えてくる。その圧が半端なくて、モニカは素直にテーブルクロスを広げてみた。

「うわぁー、すごい! 綺麗、可愛いっ」

 アイボリー色のテーブルクロスは無地かと思いきや四方の端は全て刺繍が施されていた。
 
 野ばらにスミレ、ひなげしにマーガレット。色とりどりの花と共に蔦と葉っぱの配分がとても素晴らしい。

 間違いなく、この村で……いや、トラディ領で一番美しいテーブルクロスだった。

 ぱぁっと顔を輝かせたモニカを見て、クラウディオはほっと安堵の息を吐く。

「気に入って貰えたようで嬉しい。さすがに、この状態を見過ごすわけにはいかなかったものでな」

 ”この状態”と言った時、クラウディオの視線は現状使われているテーブルクロスに向いていた。もっと詳しく言うと、ペーパーナイフをぶっ刺した箇所を見つめていた。  

(ああ……確かにあの時は”随分と粗末な家”に見えていたのかもしれないなぁ)

 モニカは「ははは」と感情を込めずに笑いながら、すぐにテーブルクロスを取り換えた。

 ご領主様から賜った新しいテーブルクロスは、高級すぎて違和感出まくりかと思いきや、ビックリするほど居間に馴染んでいた。 
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