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3.暖炉とお茶と、紙の音
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「モニカちゃん?」
「おい……モニカ」
村長とセリオは同時に口を開いた。
だが、次の行動は別だった。
村長は信じられないといった感じで、目を見開いたまま硬直し、セリオはうんざりとした表情を作った。
「あのなぁ……モニカ、村長の前だぞ。失礼な態度は取ってはいけない。それに、モニカは僕の妻になるんだ。夫に恥をかかせるような真似はやめるんだ」
「黙れ、クズ」
間髪入れずに、モニカはセリオを睨みつける。
けれど、前回のように声を荒げるようなことはしない。
「誰が誰と結婚するですって?セリオさん、あなた3歩歩いたら記憶を無くすニワトリですか?っとに、お可哀想ですね。あ、そうか、だから領主様に向かって暴言を吐いて、殴りかかることができたんですね」
残念な子を見るような表情を作って、モニカは片手を頬にあて溜息を吐く。
すぐさま「なんてことをしたんだ君はっ」と村長が顔色を無くして、セリオの胸倉を掴んだ。
(やれやれ村長っ。セリオをそのまま窒息死に追い込んでちょうだいっ)
そんなふうに村長にエールを送りつつも、モニカの口は止まらない。
「セリオさん、先日私は、あなたとは結婚しないって言いましたよね? ご領主様もそのことはご存知のはずです。あと、あなたが私のことをどんなふうに思っていたとしても、私はあなたの事が嫌いです。一生この気持ちは変わりません。そういうわけで、この件で言い争うのは不毛なことです。私もそんなに暇じゃないので、もうこれっきりにしてください。─── では、お帰り下さい。わざわざ御足労様でした」
耳の遠い村長が聞き取れるように、ゆっくりと子供に言い含める口調でそう言ったモニカは、テーブルに置かれていた茶器をトレーにまとめて立ち上がる。
そして顎で「ほら、もう帰れ」と訴えた。
けれど村長は、セリオから手を離したっきり立ち上がることはしない。
「うんうん。モニカちゃんの気持ちは良く分かった。でもねぇ」
村長は溜息を吐くと、顎に手を当て、もったいぶった口調でこう言った。
「モニカちゃんの保護者は今のところ私なんだ。だから、モニカちゃんがどんなに嫌と言っても、村長の私がセリオ君との結婚を決めたから、もう撤回はできないんだよ。……言っている意味、わかるよね?」
「……っ」
さすがにこれには、モニカの方が言葉に詰まった。
村の掟で、みなしごの保護者は村長となる。それが嫌なら修道女になるなり、村を出るなりしなければならない。
(ちっ、勢いで押せば帰ってくれると思ったのに……)
この保護者カードを出されたら、モニカは反論することができない。そして村長は、今この場でモニカとセリオの結婚を決めたいようだった。
ただそこまで結婚を急く理由がわからない。村長の面子を保ちたいのかもしれないが、それにしては強引すぎる。
(まさかアクゥ砦の一件と、何か関係しているのだろうか)
こくりと、モニカの喉が鳴る。この程度で、身体が強張る自分が情けない。
「さぁ、モニカちゃん。新しいお茶を淹れ直しておいで。今度は美味しく淹れるんだよ。そして、今後のことをゆっくり話し合おう」
穏やかに告げる村長の目は、剣呑だった。
─── 逃げられない。
悔しくもモニカが諦めかけた瞬間、来客を告げるベルが、玄関ホールから聞こえて来た。
カツ、カツ、カツと規則正しい革靴の音が近づいてくる。そしてそれは居間へと到着した途端、止まった。
予期せぬの乱入者に、ここにいる全員はものの見事に固まった。
けれど乱入者は意に介さず、慈愛の籠った笑みを浮かべて口を開く。
「ただいま、モニカ。今帰ったよ」
聞いたこともない柔らかな声でそう言ったのは─── クラウディオだった。
「おい……モニカ」
村長とセリオは同時に口を開いた。
だが、次の行動は別だった。
村長は信じられないといった感じで、目を見開いたまま硬直し、セリオはうんざりとした表情を作った。
「あのなぁ……モニカ、村長の前だぞ。失礼な態度は取ってはいけない。それに、モニカは僕の妻になるんだ。夫に恥をかかせるような真似はやめるんだ」
「黙れ、クズ」
間髪入れずに、モニカはセリオを睨みつける。
けれど、前回のように声を荒げるようなことはしない。
「誰が誰と結婚するですって?セリオさん、あなた3歩歩いたら記憶を無くすニワトリですか?っとに、お可哀想ですね。あ、そうか、だから領主様に向かって暴言を吐いて、殴りかかることができたんですね」
残念な子を見るような表情を作って、モニカは片手を頬にあて溜息を吐く。
すぐさま「なんてことをしたんだ君はっ」と村長が顔色を無くして、セリオの胸倉を掴んだ。
(やれやれ村長っ。セリオをそのまま窒息死に追い込んでちょうだいっ)
そんなふうに村長にエールを送りつつも、モニカの口は止まらない。
「セリオさん、先日私は、あなたとは結婚しないって言いましたよね? ご領主様もそのことはご存知のはずです。あと、あなたが私のことをどんなふうに思っていたとしても、私はあなたの事が嫌いです。一生この気持ちは変わりません。そういうわけで、この件で言い争うのは不毛なことです。私もそんなに暇じゃないので、もうこれっきりにしてください。─── では、お帰り下さい。わざわざ御足労様でした」
耳の遠い村長が聞き取れるように、ゆっくりと子供に言い含める口調でそう言ったモニカは、テーブルに置かれていた茶器をトレーにまとめて立ち上がる。
そして顎で「ほら、もう帰れ」と訴えた。
けれど村長は、セリオから手を離したっきり立ち上がることはしない。
「うんうん。モニカちゃんの気持ちは良く分かった。でもねぇ」
村長は溜息を吐くと、顎に手を当て、もったいぶった口調でこう言った。
「モニカちゃんの保護者は今のところ私なんだ。だから、モニカちゃんがどんなに嫌と言っても、村長の私がセリオ君との結婚を決めたから、もう撤回はできないんだよ。……言っている意味、わかるよね?」
「……っ」
さすがにこれには、モニカの方が言葉に詰まった。
村の掟で、みなしごの保護者は村長となる。それが嫌なら修道女になるなり、村を出るなりしなければならない。
(ちっ、勢いで押せば帰ってくれると思ったのに……)
この保護者カードを出されたら、モニカは反論することができない。そして村長は、今この場でモニカとセリオの結婚を決めたいようだった。
ただそこまで結婚を急く理由がわからない。村長の面子を保ちたいのかもしれないが、それにしては強引すぎる。
(まさかアクゥ砦の一件と、何か関係しているのだろうか)
こくりと、モニカの喉が鳴る。この程度で、身体が強張る自分が情けない。
「さぁ、モニカちゃん。新しいお茶を淹れ直しておいで。今度は美味しく淹れるんだよ。そして、今後のことをゆっくり話し合おう」
穏やかに告げる村長の目は、剣呑だった。
─── 逃げられない。
悔しくもモニカが諦めかけた瞬間、来客を告げるベルが、玄関ホールから聞こえて来た。
カツ、カツ、カツと規則正しい革靴の音が近づいてくる。そしてそれは居間へと到着した途端、止まった。
予期せぬの乱入者に、ここにいる全員はものの見事に固まった。
けれど乱入者は意に介さず、慈愛の籠った笑みを浮かべて口を開く。
「ただいま、モニカ。今帰ったよ」
聞いたこともない柔らかな声でそう言ったのは─── クラウディオだった。
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