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4-1.冬の嵐(前編)
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「追わなくて良いのか? クロード」
モニカが消えてしまった扉を凝視していたクラウディオは、リックの声にはっと我に返った。
「エバ…… いえ、侍女が側におりますので」
「そうか。なら、ご主人様に置いていかれた犬のような顔をするのは止めろ」
「失礼しました。リューデリック殿下」
深く頭を下げたクラウディオに、リックことリューデリックは、はんっと鼻で笑った。
「この俺をこんな辺境の地まで呼びつけておいて、婚約者を怖がらせない為に親しみやすく接しろと無理難題まで押し付けやがって…… お前でなければ、とうにその首刎ねておったわ」
「恐れながら、砦の統括はリューデリック殿下の担当だと記憶しております」
クラウディオは丁寧な言葉遣いであるが、悪びれる様子は無い。
そしてリューデリックは返す言葉が見つからず、ぐぅと小さく呻いた。
シャンタルーア国には3人の王子と、2人の王女がいる。
第一王子は、既に王位継承権を得ており、現国王の補佐をしている。
第二王子は、来年異国から妻を迎え、軍事面の全てを任されている。
第三王子は、第二王子の補佐として、国内の砦全てを管理している。
つまり、クラウディオは『え?なに不満こいてるの?だって、コレお前の仕事じゃん』と、遠回しにリューデリックに伝えていたりする。
もちろんリューデリックに反論の余地は無い。
だが、澄ましたクラウディオの態度にイラッとしたリューデリックは、苦々しい顔をする。
「砦の件は置いておいて、お前、ずっと一言でもあの娘を脅したら、喉首を駆っ切ってやると言う目で俺を見ていたよな」
「……さぁ、どうでしょうか」
にこっと笑ったクラウディオは、「それで?」という態度を崩さない。
そんなわけで白旗を上げたのは、リューデリックだった。
これ以上、不満を訴えたところで、適当にあしらわれることを察したリューデリックは、本題を切り出した。
「一度だけ確認するが、あの娘の証言に嘘は無いな?」
「はい。私の名の下に」
「そうか」
一気に緊迫した空気となったこの空間で、リューデリックは眉間に皺を寄せながら顎に手を当てた。
「王都を出る前に確認したが、外交的には今のところ、きな臭い話は無かった」
「さようですか。では、国内の問題ということで?」
「ああ。それは間違いない」
そこでリューデリックの眉間の皺は、更に深くなった。
「直接砦の兵士に事情を確認せねば、はっきりとしたことは言えないが、これは少々厄介だな」
「……と、いいますと?」
「職務怠慢がどんな罪になるかは、末端兵士とて知っている。なのに、砦の連中が警護をほっぽり出さなければならない事情があったとするなら…… これは、あくまで可能性だが、かなりの地位の人間に何かしら指示を受けたということになる」
そこでリューデリックは沈黙した。
クラウディオも同じく口を閉じる。
砦は王家の管轄だ。つまり、モニカの両親の死の原因は、王族の誰かの不祥事に直結することになる。
実のところ、クラウディオは村長から既にそれを匂わす言質を得ていた。
だが、事実確認が取れていない状態で、それを口に出すのはリューデリックを無駄に追い詰めることになってしまう。
だからクラウディオは、精一杯、無言を貫く。
「単なる兵士のサボり……などという可能性を望んではいけないが、そうであればと俺は願ってしまう」
自嘲するリューデリックは、そんな考えを戒めるように首を激しく横に振った。
モニカが消えてしまった扉を凝視していたクラウディオは、リックの声にはっと我に返った。
「エバ…… いえ、侍女が側におりますので」
「そうか。なら、ご主人様に置いていかれた犬のような顔をするのは止めろ」
「失礼しました。リューデリック殿下」
深く頭を下げたクラウディオに、リックことリューデリックは、はんっと鼻で笑った。
「この俺をこんな辺境の地まで呼びつけておいて、婚約者を怖がらせない為に親しみやすく接しろと無理難題まで押し付けやがって…… お前でなければ、とうにその首刎ねておったわ」
「恐れながら、砦の統括はリューデリック殿下の担当だと記憶しております」
クラウディオは丁寧な言葉遣いであるが、悪びれる様子は無い。
そしてリューデリックは返す言葉が見つからず、ぐぅと小さく呻いた。
シャンタルーア国には3人の王子と、2人の王女がいる。
第一王子は、既に王位継承権を得ており、現国王の補佐をしている。
第二王子は、来年異国から妻を迎え、軍事面の全てを任されている。
第三王子は、第二王子の補佐として、国内の砦全てを管理している。
つまり、クラウディオは『え?なに不満こいてるの?だって、コレお前の仕事じゃん』と、遠回しにリューデリックに伝えていたりする。
もちろんリューデリックに反論の余地は無い。
だが、澄ましたクラウディオの態度にイラッとしたリューデリックは、苦々しい顔をする。
「砦の件は置いておいて、お前、ずっと一言でもあの娘を脅したら、喉首を駆っ切ってやると言う目で俺を見ていたよな」
「……さぁ、どうでしょうか」
にこっと笑ったクラウディオは、「それで?」という態度を崩さない。
そんなわけで白旗を上げたのは、リューデリックだった。
これ以上、不満を訴えたところで、適当にあしらわれることを察したリューデリックは、本題を切り出した。
「一度だけ確認するが、あの娘の証言に嘘は無いな?」
「はい。私の名の下に」
「そうか」
一気に緊迫した空気となったこの空間で、リューデリックは眉間に皺を寄せながら顎に手を当てた。
「王都を出る前に確認したが、外交的には今のところ、きな臭い話は無かった」
「さようですか。では、国内の問題ということで?」
「ああ。それは間違いない」
そこでリューデリックの眉間の皺は、更に深くなった。
「直接砦の兵士に事情を確認せねば、はっきりとしたことは言えないが、これは少々厄介だな」
「……と、いいますと?」
「職務怠慢がどんな罪になるかは、末端兵士とて知っている。なのに、砦の連中が警護をほっぽり出さなければならない事情があったとするなら…… これは、あくまで可能性だが、かなりの地位の人間に何かしら指示を受けたということになる」
そこでリューデリックは沈黙した。
クラウディオも同じく口を閉じる。
砦は王家の管轄だ。つまり、モニカの両親の死の原因は、王族の誰かの不祥事に直結することになる。
実のところ、クラウディオは村長から既にそれを匂わす言質を得ていた。
だが、事実確認が取れていない状態で、それを口に出すのはリューデリックを無駄に追い詰めることになってしまう。
だからクラウディオは、精一杯、無言を貫く。
「単なる兵士のサボり……などという可能性を望んではいけないが、そうであればと俺は願ってしまう」
自嘲するリューデリックは、そんな考えを戒めるように首を激しく横に振った。
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