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4-2.冬の嵐(後編)
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まるで世界中の人間から見放された死ような表情を浮かべるモニカの手に、暖かい何かが触れた。
エバがそっと手を握ってくれたのだ。
「モニカさん、どうか落ち込まないでください」
できることなら、そうしたい。
そんな気持ちで、モニカは弱々しい笑みをエバに向ける。
対してエバも、困り果てた笑みを浮かべている。しかし、ゆっくりと言葉を選ぶように唇が動いた。
「あのですね、これは提案なんですが、直接、ご主人様に聞いてみるのはいかがでしょうか?」
「……む」
無理です。
そう言おうと思ったけれど、エバはモニカの言葉に被せるように口を開く。
「少し厳しいことを言ってしまうのをお許しください。あのですね、これからずっとご主人様と一緒に過ごすというのに、ずっと他人の意見ばかりを聞いていて良いのですか?」
「……っ」
確かにそうだ。ものすごく正論だ。
クラウディオの気持ちがわからなくて、そして自分が彼に対してどう向き合って良いのかわからないからといって、何かに付けて誰かに相談するのは間違っている。
なぜならそこにクラウディオの意思も気持ちも無いのだから。
他人と自分が作り上げたクラウディオ像に対して、正しいように振る舞おうと思っても、きっといつか破綻してしまうだろう。
モニカはクラウディオのことが好きだ。
今こうして悩んだり、辛い気持ちになるのも好きという前提があるからこそ。
そして彼に向けての二度目の恋は、一度目の恋より強い想いから来ている。
(うん。そうだよね……大切な気持ちだからこそ、愚かな過ちで失くしたくなんか無い)
自分の気持ちを改めて確信したモニカは、エバの手をぎゅっと握り返した。
「エバさん、私……領主様にちゃんと聞いてみようと思います」
「はいっ。是非ともそうして下さいませ」
ぱっと輝くような笑顔になったエバの手を、モニカは更にぎゅーと握りしめる。
「でも……もし領主様を怒らせたり、嫌われてしまったら……慰めてくれますか?」
おずおずとエバに問いかければ、すぐにふわりとした笑みが返ってきた。
「もちろんです。……それと、わたくしモニカさんにそんなふうに言って貰えてとても嬉しいです」
エバは空いている手をモニカの背に添え、そのまま自身の身体に引き寄せた。
「……でも、残念ながらわたくしの出番はなさそうですけどね」
少し寂しそうに呟くエバにモニカは「何を根拠に?」と尋ねたい。
……でも、ぐっと唇を引き結んで、その言葉を飲み込んだ。
この時、モニカは間違い無く幸せだった。
信頼したいと思う人から、嬉しい言葉を貰えて。温もりを与えられて。
そしてどんな結果になろうとも、ちゃんとクラウディオと向き合おうと心に決めていた。
リックと約束した自宅の一件も、包み隠さず話そうと思っていた。
けれどその決心は打ち砕かれることになる─── 第三者の出現によって。
エバがそっと手を握ってくれたのだ。
「モニカさん、どうか落ち込まないでください」
できることなら、そうしたい。
そんな気持ちで、モニカは弱々しい笑みをエバに向ける。
対してエバも、困り果てた笑みを浮かべている。しかし、ゆっくりと言葉を選ぶように唇が動いた。
「あのですね、これは提案なんですが、直接、ご主人様に聞いてみるのはいかがでしょうか?」
「……む」
無理です。
そう言おうと思ったけれど、エバはモニカの言葉に被せるように口を開く。
「少し厳しいことを言ってしまうのをお許しください。あのですね、これからずっとご主人様と一緒に過ごすというのに、ずっと他人の意見ばかりを聞いていて良いのですか?」
「……っ」
確かにそうだ。ものすごく正論だ。
クラウディオの気持ちがわからなくて、そして自分が彼に対してどう向き合って良いのかわからないからといって、何かに付けて誰かに相談するのは間違っている。
なぜならそこにクラウディオの意思も気持ちも無いのだから。
他人と自分が作り上げたクラウディオ像に対して、正しいように振る舞おうと思っても、きっといつか破綻してしまうだろう。
モニカはクラウディオのことが好きだ。
今こうして悩んだり、辛い気持ちになるのも好きという前提があるからこそ。
そして彼に向けての二度目の恋は、一度目の恋より強い想いから来ている。
(うん。そうだよね……大切な気持ちだからこそ、愚かな過ちで失くしたくなんか無い)
自分の気持ちを改めて確信したモニカは、エバの手をぎゅっと握り返した。
「エバさん、私……領主様にちゃんと聞いてみようと思います」
「はいっ。是非ともそうして下さいませ」
ぱっと輝くような笑顔になったエバの手を、モニカは更にぎゅーと握りしめる。
「でも……もし領主様を怒らせたり、嫌われてしまったら……慰めてくれますか?」
おずおずとエバに問いかければ、すぐにふわりとした笑みが返ってきた。
「もちろんです。……それと、わたくしモニカさんにそんなふうに言って貰えてとても嬉しいです」
エバは空いている手をモニカの背に添え、そのまま自身の身体に引き寄せた。
「……でも、残念ながらわたくしの出番はなさそうですけどね」
少し寂しそうに呟くエバにモニカは「何を根拠に?」と尋ねたい。
……でも、ぐっと唇を引き結んで、その言葉を飲み込んだ。
この時、モニカは間違い無く幸せだった。
信頼したいと思う人から、嬉しい言葉を貰えて。温もりを与えられて。
そしてどんな結果になろうとも、ちゃんとクラウディオと向き合おうと心に決めていた。
リックと約束した自宅の一件も、包み隠さず話そうと思っていた。
けれどその決心は打ち砕かれることになる─── 第三者の出現によって。
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なんだか、モニカちゃんがずっと気の毒に思えてきた。
中途半端状態はきついねー
初めまして。
今一番更新を楽しみにしております。毎日仕事中トイレ休憩で見たりして(笑)
じれじれ具合がどツボです。微妙にすれ違った二人が、どんな風に通じ合うのか楽しみにしています。
領主さま、それは求婚のつもりですか…?
続き、楽しみです。