結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜

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ギャップに萌えする花嫁と、翻弄される花婿

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 さて、シャンティがドン引きする程、距離感ゼロで接している女性は、先日の偽装結婚式で、さも長年の親友のようにメイドオブオナーを務めた女性だったりする。
 ちなみに名前はクローネ。この名はシャンティが代理妻を演じ始めて4日目に知ったこと。

 そして、その隣で呑気な笑みを浮かべている男性は、お馴染みのエリオス。

 もちろん二人は、シャンティがここで代理妻を演じていることは知っている。そして今日来訪したのは、気疲れしているシャンティを労うため。

 たまには事情を知っている者の前で、気兼ねなく過ごして欲しいというギルフォードの配慮だった。

 ……もちろんシャンティも、それは知っている。知っているからこそ、わざわざ自分の手で花選び、ハーブを摘んだのだ。

 それに自分の祖父がやらかしてしまった”伯爵さま罵倒事件”を穏便に処理してくれたこと。
 そして、偽装挙式のアシストをしてくれたことに関して直接お礼を伝えたかったので、願ったり叶ったりだったのだ。

 こうして会うまでは。

 けれど、いきなりほぼ初対面の人間から強烈なハグを受けたシャンティからしたら、これからの時間が平穏無事に終わる予感がまったくしない。
 しかももう一人はクソのような理由で、新婚初日の早朝に押しかけてくる空気の読めない人間だ。そんな男にフォローなど期待するほうが愚かなことだ。

 ということを口に出した覚えはなかったけれど、シャンティを抱きしめているクローネは何かを感じ取ったらしい。

 腕を緩め、膝を折り、シャンティを覗き込んでこう言った。

「あのねシャンティちゃん。友達っていうのはね今日からなるとか決めるんじゃなくって、いつの間にかなってるものなのよ」

 最後に魅惑的なウィンクをして締めくくったクローネに対し、シャンティはこう思った。
 
 あ、この人、我が道を行くタイプだと。
 そしてこのままだと、使用人の前でポロリ発言があるかもしれない。いや絶対にするだろう。それと友情というのは互いの気持ちが成立してこそのものなのだが。

 何ていうことを、シャンティはクローネは亜麻色の髪を見つめながら思った。けれどこれもまた、口には出さない。
 すぐ後ろに侍女のサリーが控えているから。

 ただこのままクローネを放置しておくとロクな展開にならないことだけはわかるので、さっさと客間に移動する。
 そしてお茶の用意をし始めたサリーに、適当な言い訳をして退出してもらった。

 とりあえず、これで漏洩の危機は逃れた。

 シャンティは3人だけになった客間を見渡してから、ふぅっと汗を拭いながら、来客用のお茶を淹れる。

 コポ、コポポッ……。
 本日は初夏の季節に合わせてミントティー。ポットの口から注がれる爽やかな香りに、シャンティは、やっと落ち着きを取り戻す。

 ただ視界の隅に映る軍服姿の二人は、新婚さんいらっしゃいました的な感じで、生温い笑みを浮かべているのが居心地悪い。

 なので、シャンティはそれに気付かないフリをして、仕上げに形の良いミントの葉も浮かべてから、3人分のお茶をトレーに乗せる。

 次いで、ソファに着席している2人の間にあるローテーブルの前に置き、最後に自分のお茶も向かいの席に起きて、シャンティはようやっと着席した。

 そして、しゃんと背筋を伸ばす。

「先日は大変お世話になりました。あと、お礼が遅くなり申し訳ありません」

 丁寧に頭を下げたシャンティに、クローネとエリアスはぎょっとした様子でとんでもないと首を横に振る。

 ただ、次の言葉は如何なものだった。

「いやぁ、とんでもないよ。報告書無事に差し替えることができたし」
「そんな水臭いこと言わないでシャンティちゃん。とっても面白かったし」

 シャンティは満面の笑みを浮かべる二人に対して、引きつった笑みを浮かべた。

 あ、どうしよう。感謝の念を抱かないといけないのに、まったくそう思えない。

 ついでに、来客用にと用意したこのお茶、爽やかな口当たりだけを意識してしまったけれど、今は心を落ち着かす効用があるラベンダーティーの方が良かったと深く後悔してしまう。

 でもシャンティは、心中を読み取られぬよう、そぉっとティーカップを持ち上げる。

 そして一口それを飲んだ瞬間、クローネがくるりと焦げ茶色の瞳をシャンティに向けた。

「で、どうなの?あの少佐との生活は?」
「……普通です」
「普通って?どんな?」
「……特に問題なく過ごしているということで……」
「そうなの?ところでシャンティちゃんにとったら、何が普通?なんだったら問題なのかしら?」
「……」

 ぐいぐい来るなぁこの人。
 シャンティはまだ、客間に通して5分なのに、もう3日くらい顔を突き合わせてしまっているような錯覚にとらわれてしまった。

 手にしたカップをソーサーに戻し、シャンティはちょっとだけ息を吐く。けれど、クローネの口は止まらない。

 どうやらシャンティが返答するのが面倒くさいと思っているわけではなく、どう答えて良いのかわからないというふうに解釈してしまったようだ。

「あ、ちょっと答えにくい?じゃあ例えばね、溜息なのか冷笑なのかわからない息を吐かれて、苛っとしたりとかね」

 ぽってりとした唇からとんでもないギルフォード像が飛び出してきて、シャンティは目を丸くする。

 けれど、次に口を開いたのはなぜかエリアスだった。

「じゃあ僕も例えを出すとすると、無言の圧力が強すぎて不整脈を起こしそうになったりとか」
「あと、あとね、”なんでこれを他のことに活かさないのか”的な嫌味を言われちゃったりとか」
「あっ、それなら僕も言わせてっ。”私はお前の始末書を受け取ることだけが仕事じゃない”って呆れ顔されたりとかさぁ」

 クローネとエリアスは幼なじみ。そしてギルフォードとは上司と部下の関係だということはシャンティは代理妻になってから知った。

 ただ、今日また新しいことを知った。
 この二人の会話で、ギルフォードが毎日、なぜ多忙なのかを。

 けれどシャンティは、それは口にしない。一応空気は読めるし、それは職場で解決してもらう案件だから。

 なので、自分の回答できることだけを口にすることにする。

「あのギルフォードさんは、そんなことしません。怖かったのは、初対面の時だけです……。あの人は確かに見た目は怖いけど顔は良いですし、とっても親切で優しいし、私のような人間が代理の妻になっていることが申し訳ないくらい立派な人です」

 きっぱりと言い切ったシャンティに対して、クローネとエリアスはぽかんと間の抜けた顔をした。

「え、誰が?」
「ギルフォードさんです」
「ごめん、誰が?」
「……ですからギルフォードさんですっ」

 とうとううんざりした表情を浮かべてしまったシャンティに対して、クローネとエリアスは、なぜだか二人で肘を突っつき合いながら、意味ありげな笑みを浮かべた。
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