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3日間の猶予※一日目②
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夜会の際にルイムが借りた兄の上着にワインがかかってしまったのは事実だ。
しかし、小指の先ほどのシミだったのをミルフィは覚えている。だからこそ敢えてシャツとタイを持って来いと言ったのだ。
無論、出せるわけが無い。そんなシミなどあるわけないのだから。
(大方、使い物にならなくなったから捨てたとでも言うのでしょうね)
溜息を吐きながらそんなことをぼやくミルフィは、ルイムがぐうの音も出ないほど言い負かしたいわけじゃない。
ただ嘘はいけないということを伝えて、二度とこのような真似をしないで欲しいと約束して欲しいだけ。
兄ディアスの性格は、姑息なことをする人間は許せない潔癖な部分がある。でもきちんと謝れば許してくれる寛容な部分もある。
だからさっさと兄に謝って欲しかった。ルイムとて、当主である兄との仲を悪くするのは得策ではないとわかっているはずだ。
事の発端である上着については、まぁ……今回だけはお小遣いから染み抜きを依頼するなり、新しいものを調達しようとミルフィは考える。
あと婚約者を庇う、庇わないについては、ミルフィは兄と考えが違う。どちらかというとルイムの考えに近い。
だって社交界に馴染めないのは自分にだって非があるのだ。だから無条件に庇われることは望んではいない。その点については、自分がしっかり主張すれば万事解決だ。
そうミルフィは思っていた。そして後は仲直りをするために、どうしたら良いかを考えるだけ。
でもルイムのとった行動は別のものだった。
「ーーわかった。そこまでお前が言うなら持ってきてやる」
ムッとした顔のままルイムは立ち上がる。
「……え?ちょっとルイム様」
慌てるミルフィを見てどう受け止めたのかわからないが、ルイムは足音荒く扉へと足を向ける。
そして乱暴い扉を開けると共に「ったく、どこまでも失礼な奴だな」とミルフィに向かって吐き捨てた。
それから十数分後。
ミルフィの手にはボルドー色のしっとりとしたシャツが握られている。
「この独特の香り……ロバニー産の大衆ワインですね」
くんくんと鼻をひくつかせてそう言ったのは、ミルフィではない。侍女アンリだ。
ミルフィより4つ年上のアンリは隠れ酒豪であり、実はソムリエの資格も持っている。
そんな彼女が、安酒と判断したなら間違いは無い。付け加えると、このシャツは濡れたてほやほやだ。うっかり膝に置いてしまえば、ドレスまでボルドー色に染まってしまうほど。
つまりルイムは、苦し紛れに自宅のシャツにワインをぶっかけて持ってきたのだ。
(……まるで子供ね)
どうだ参ったかとドヤ顔を決めるルイムを見て、ミルフィは悲しい気持ちになる。
ミルフィとルイムは、互いの利益のためにする政略結婚だ。でも持参金目当てとはいえ、自分を選んだくれた人なのだ。
だからどれだけキツイ言葉を吐かれても、夜会で酷い態度を取られても、ミルフィは彼のことを人前で悪く言ったりはしないし、心の底から憎むことができなかった。
でも今、ニヤニヤと意地悪く笑うルイムに対して、心の芯の部分がひんやりとしていくのを確かに感じてしまっていた。
しかし、小指の先ほどのシミだったのをミルフィは覚えている。だからこそ敢えてシャツとタイを持って来いと言ったのだ。
無論、出せるわけが無い。そんなシミなどあるわけないのだから。
(大方、使い物にならなくなったから捨てたとでも言うのでしょうね)
溜息を吐きながらそんなことをぼやくミルフィは、ルイムがぐうの音も出ないほど言い負かしたいわけじゃない。
ただ嘘はいけないということを伝えて、二度とこのような真似をしないで欲しいと約束して欲しいだけ。
兄ディアスの性格は、姑息なことをする人間は許せない潔癖な部分がある。でもきちんと謝れば許してくれる寛容な部分もある。
だからさっさと兄に謝って欲しかった。ルイムとて、当主である兄との仲を悪くするのは得策ではないとわかっているはずだ。
事の発端である上着については、まぁ……今回だけはお小遣いから染み抜きを依頼するなり、新しいものを調達しようとミルフィは考える。
あと婚約者を庇う、庇わないについては、ミルフィは兄と考えが違う。どちらかというとルイムの考えに近い。
だって社交界に馴染めないのは自分にだって非があるのだ。だから無条件に庇われることは望んではいない。その点については、自分がしっかり主張すれば万事解決だ。
そうミルフィは思っていた。そして後は仲直りをするために、どうしたら良いかを考えるだけ。
でもルイムのとった行動は別のものだった。
「ーーわかった。そこまでお前が言うなら持ってきてやる」
ムッとした顔のままルイムは立ち上がる。
「……え?ちょっとルイム様」
慌てるミルフィを見てどう受け止めたのかわからないが、ルイムは足音荒く扉へと足を向ける。
そして乱暴い扉を開けると共に「ったく、どこまでも失礼な奴だな」とミルフィに向かって吐き捨てた。
それから十数分後。
ミルフィの手にはボルドー色のしっとりとしたシャツが握られている。
「この独特の香り……ロバニー産の大衆ワインですね」
くんくんと鼻をひくつかせてそう言ったのは、ミルフィではない。侍女アンリだ。
ミルフィより4つ年上のアンリは隠れ酒豪であり、実はソムリエの資格も持っている。
そんな彼女が、安酒と判断したなら間違いは無い。付け加えると、このシャツは濡れたてほやほやだ。うっかり膝に置いてしまえば、ドレスまでボルドー色に染まってしまうほど。
つまりルイムは、苦し紛れに自宅のシャツにワインをぶっかけて持ってきたのだ。
(……まるで子供ね)
どうだ参ったかとドヤ顔を決めるルイムを見て、ミルフィは悲しい気持ちになる。
ミルフィとルイムは、互いの利益のためにする政略結婚だ。でも持参金目当てとはいえ、自分を選んだくれた人なのだ。
だからどれだけキツイ言葉を吐かれても、夜会で酷い態度を取られても、ミルフィは彼のことを人前で悪く言ったりはしないし、心の底から憎むことができなかった。
でも今、ニヤニヤと意地悪く笑うルイムに対して、心の芯の部分がひんやりとしていくのを確かに感じてしまっていた。
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