41 / 86
【夜の治験 中級編】 メイドは見た。ご主人様のアレを
5
しおりを挟む
(どうしよう……先生を怒らせちゃった……ああ、どうしよう)
グリジットに手を引かれながら、ファルナは泣きたい気持ちなった。
自分の窮地を救ってくれたことにお礼を言いたい。でも、これ以上にないほど不機嫌なグリジットの横顔が、何も話しかけてくれるなと強く訴えてくる。
しかしファルナは、実のところグリジットがなぜそこまで怒っているのかわからなかった。
思い当たるのは、森の中に入ったこと。ただそこまで奥には入ってはいけない。だからこそグリジットが助けに来てくれた。
(なら、なぜ……)
思考を巡らせてみた結果、思い当たるのは、あと一つだけしかない。
「あの……先生」
「なんだ」
「お仕事を放り出して、森の中に入って申し訳ありません」
ファルナが歩きながらぺこっと頭を下げた途端、グリジットが足を止めた。
「そんなことは別段怒ってはいない。まぁ、心配は……したが」
歯切れの悪いグリジットの言葉に、ファルナはじっと彼を見上げる。
「……では、先生はなぜ怒っているのでしょうか?……ごめんなさい。本当は自分で気付かないといけないんですが、全然わからなくて……」
「わからない、か」
ため息と共に落とされた言葉に、ファルナはびくっと身を竦ませる。
呆れられてしまったようだ。その事実が、とても辛かった。職を失う云々ではなく、グリジット自身に嫌われるのが、無性に悲しくなる。
「……先生、ごめんなさい」
気付けばファルナは、ぎゅっとグリジットの白衣の袖を握りしめていた。
「ごめんなさい、先生。……嫌わないでくださ……っ!!」
泣きそうな声でつい思ったままを口にしてしまったけれど、それがあまりに恥ずかしいものだったので、ファルナは慌てて空いている方の手で己の口を覆った。
(馬鹿、私!!何を言ってるの!?)
嫌わないで───そんなの雇用主に向かって言う台詞じゃない。そして、そんなことを言われた側は、絶対に困ってしまうだろう。
現在進行形でグリジットに呆れられているというのに、それに別の負の要素が更に加わってしまったら、もう生きていけない。
大袈裟ではなく本気でそんなことを思ってしまった瞬間、ふっと小さな笑い声が降ってきた。
「何を言い出すかと思えば……まったく、そんなくだらないことを」
言葉だけを受け取れば冷たいものなのに、柔らかい声音で紡がれてしまうとそれは別の意味を持つ。
「私が、君のことを嫌うわけがないだろう」
大きな手で頭を撫でながら、グリジットはきっぱりと断言した。
「……本当ですか?」
「ああ」
即座に肯定してくれたグリジットに、ファルナは花が咲いたような笑みを浮かべる。
「……へへっ、嬉しい。嬉しいです、先生」
「そうか」
嬉しさのあまり白衣の袖を揺さぶっても、その持ち主は柔らかく笑うだけ。
ただ、止まっていた足は再び動き出す。
「───……ところでファルナ、君はなんで森の中に入ったんだ?籠まで持っているが、この雪の中、何か欲しいモノでもあったのか?」
「あ……実は、もう体調っていうか、その……身体の方はいつも通りになりましたって先生に伝えたくて……そのきっかけを探しに入ったんですが……」
「そうか。それにしても随分と遠回しなやり方だな」
「はい……実は私もそう思ってました」
しゅんと肩を下げたファルナに、グリジットは気にするなと言いたげに繋いでいる手に力を込めた。
その手はとても大きくて、温かかった。
グリジットに手を引かれながら、ファルナは泣きたい気持ちなった。
自分の窮地を救ってくれたことにお礼を言いたい。でも、これ以上にないほど不機嫌なグリジットの横顔が、何も話しかけてくれるなと強く訴えてくる。
しかしファルナは、実のところグリジットがなぜそこまで怒っているのかわからなかった。
思い当たるのは、森の中に入ったこと。ただそこまで奥には入ってはいけない。だからこそグリジットが助けに来てくれた。
(なら、なぜ……)
思考を巡らせてみた結果、思い当たるのは、あと一つだけしかない。
「あの……先生」
「なんだ」
「お仕事を放り出して、森の中に入って申し訳ありません」
ファルナが歩きながらぺこっと頭を下げた途端、グリジットが足を止めた。
「そんなことは別段怒ってはいない。まぁ、心配は……したが」
歯切れの悪いグリジットの言葉に、ファルナはじっと彼を見上げる。
「……では、先生はなぜ怒っているのでしょうか?……ごめんなさい。本当は自分で気付かないといけないんですが、全然わからなくて……」
「わからない、か」
ため息と共に落とされた言葉に、ファルナはびくっと身を竦ませる。
呆れられてしまったようだ。その事実が、とても辛かった。職を失う云々ではなく、グリジット自身に嫌われるのが、無性に悲しくなる。
「……先生、ごめんなさい」
気付けばファルナは、ぎゅっとグリジットの白衣の袖を握りしめていた。
「ごめんなさい、先生。……嫌わないでくださ……っ!!」
泣きそうな声でつい思ったままを口にしてしまったけれど、それがあまりに恥ずかしいものだったので、ファルナは慌てて空いている方の手で己の口を覆った。
(馬鹿、私!!何を言ってるの!?)
嫌わないで───そんなの雇用主に向かって言う台詞じゃない。そして、そんなことを言われた側は、絶対に困ってしまうだろう。
現在進行形でグリジットに呆れられているというのに、それに別の負の要素が更に加わってしまったら、もう生きていけない。
大袈裟ではなく本気でそんなことを思ってしまった瞬間、ふっと小さな笑い声が降ってきた。
「何を言い出すかと思えば……まったく、そんなくだらないことを」
言葉だけを受け取れば冷たいものなのに、柔らかい声音で紡がれてしまうとそれは別の意味を持つ。
「私が、君のことを嫌うわけがないだろう」
大きな手で頭を撫でながら、グリジットはきっぱりと断言した。
「……本当ですか?」
「ああ」
即座に肯定してくれたグリジットに、ファルナは花が咲いたような笑みを浮かべる。
「……へへっ、嬉しい。嬉しいです、先生」
「そうか」
嬉しさのあまり白衣の袖を揺さぶっても、その持ち主は柔らかく笑うだけ。
ただ、止まっていた足は再び動き出す。
「───……ところでファルナ、君はなんで森の中に入ったんだ?籠まで持っているが、この雪の中、何か欲しいモノでもあったのか?」
「あ……実は、もう体調っていうか、その……身体の方はいつも通りになりましたって先生に伝えたくて……そのきっかけを探しに入ったんですが……」
「そうか。それにしても随分と遠回しなやり方だな」
「はい……実は私もそう思ってました」
しゅんと肩を下げたファルナに、グリジットは気にするなと言いたげに繋いでいる手に力を込めた。
その手はとても大きくて、温かかった。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる