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閑話③ 突然の来訪者
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「ファルナ、質問に答えなさい」
「......」
二度目のご主人様からの命令にも、ファルナはむぎゅっと口を閉じたままでいる。
だって「妻帯者の人に添い寝をお願いすることなんてできない」なんて言えないから。万が一それを口に出してしまって、グリジットが納得したらすごく傷付くから。
だからファルナは黙秘を貫く。
けれどそうすればそうするほど、グリジットの目が険しくなる。
「ファルナ、なぜ黙っている?」
「......」
「言えないことでもあるのか?」
「......」
「答えなさい」
「......」
質問を重ねる度にグリジットの声音は威圧的になっていく。そして苛立ちを表すように、人差し指でトンっと机を叩いたと同時に、ファルナの肩がビクリと跳ねた。
「......すまなかった」
小さな声で謝ったのはグリジットだった。
そして彼は、身をすくませるファルナをそっと抱き寄せた。
「怖がらすつもりはなかったんだ。悪かった」
「......いえ」
これにはファルナはちゃんと答える。ただ、これ以上グリジットとくっつかないように彼の胸に手を置いて距離を保とうとする。
なのにグリジットは、その手すら優しく掴んだ。
「まさかとは思うが、眠れないことを恥じているのか?」
「いえ」
食い気味に否定したファルナに、グリジットは困ったように笑う。まるで”なら、なぜ自分のもとに来ないのか?”と責めているようにも取れてしまう。
もちろんそんなふうに思ってしまうのは、自分の願望でしかないとファルナちゃんとわかっている。
(私はもう......義務感と優しさだけの温もりは、いらない)
そう素直に言えたらどんなに良いだろう。でも、言葉にしてしまえば、彼を困らすだけだ。
この気持ちは誰も知らない、自分だけのもの。言い換えるなら、嘘を言ったとて誰にも迷惑は掛からない。
なら、傷付くのも、辛い思いをするのも自分だけで良いとファルナは思った。
「気持ちが落ち着いただけです。だからもう、添い寝はいらないです。あの......ずっと、付き合っていただいてありがとうございました」
何も求めないから、もうこれ以上、期待させないで。いたずらに心を掻き乱さないで。
そんな気持ちでファルナが言えば、グリジットはなぜかここで傷ついた顔をした。傷付いているのはこっちだというのに。
「......いらない、か。思った以上に堪えるな」
ファルナの手を両手で包み込むと、そのまま自分の額に当ててグリジットは呟く。
その声音は熱を帯びていて、ぎゅっと掴まれた手は力強くて、どうしたって特別な感情が籠っているような気がしてならない。
だけれどファルナは、彼の気持ちを詮索するのを放棄した。知りたいと思う気持ちは強くあるが、知ってしまえば絶望しかないのに気づいているから。
でも、あの日───グリジットの熱く硬いそれを見た夜から一度も寝室に呼ばれていないファルナは、これだけの触れ合いでも喜んでしまう自分を確かに感じている。
(......無理だよ。私から、この手を振り解くことなんてできない)
グリジットの大きな手は他の誰かのもの。
でも今、こうして触れてくれているのは彼の意思だ。
だからファルナは、グリジットから手を離してくれるまでずっと動かずにいた。
「......」
二度目のご主人様からの命令にも、ファルナはむぎゅっと口を閉じたままでいる。
だって「妻帯者の人に添い寝をお願いすることなんてできない」なんて言えないから。万が一それを口に出してしまって、グリジットが納得したらすごく傷付くから。
だからファルナは黙秘を貫く。
けれどそうすればそうするほど、グリジットの目が険しくなる。
「ファルナ、なぜ黙っている?」
「......」
「言えないことでもあるのか?」
「......」
「答えなさい」
「......」
質問を重ねる度にグリジットの声音は威圧的になっていく。そして苛立ちを表すように、人差し指でトンっと机を叩いたと同時に、ファルナの肩がビクリと跳ねた。
「......すまなかった」
小さな声で謝ったのはグリジットだった。
そして彼は、身をすくませるファルナをそっと抱き寄せた。
「怖がらすつもりはなかったんだ。悪かった」
「......いえ」
これにはファルナはちゃんと答える。ただ、これ以上グリジットとくっつかないように彼の胸に手を置いて距離を保とうとする。
なのにグリジットは、その手すら優しく掴んだ。
「まさかとは思うが、眠れないことを恥じているのか?」
「いえ」
食い気味に否定したファルナに、グリジットは困ったように笑う。まるで”なら、なぜ自分のもとに来ないのか?”と責めているようにも取れてしまう。
もちろんそんなふうに思ってしまうのは、自分の願望でしかないとファルナちゃんとわかっている。
(私はもう......義務感と優しさだけの温もりは、いらない)
そう素直に言えたらどんなに良いだろう。でも、言葉にしてしまえば、彼を困らすだけだ。
この気持ちは誰も知らない、自分だけのもの。言い換えるなら、嘘を言ったとて誰にも迷惑は掛からない。
なら、傷付くのも、辛い思いをするのも自分だけで良いとファルナは思った。
「気持ちが落ち着いただけです。だからもう、添い寝はいらないです。あの......ずっと、付き合っていただいてありがとうございました」
何も求めないから、もうこれ以上、期待させないで。いたずらに心を掻き乱さないで。
そんな気持ちでファルナが言えば、グリジットはなぜかここで傷ついた顔をした。傷付いているのはこっちだというのに。
「......いらない、か。思った以上に堪えるな」
ファルナの手を両手で包み込むと、そのまま自分の額に当ててグリジットは呟く。
その声音は熱を帯びていて、ぎゅっと掴まれた手は力強くて、どうしたって特別な感情が籠っているような気がしてならない。
だけれどファルナは、彼の気持ちを詮索するのを放棄した。知りたいと思う気持ちは強くあるが、知ってしまえば絶望しかないのに気づいているから。
でも、あの日───グリジットの熱く硬いそれを見た夜から一度も寝室に呼ばれていないファルナは、これだけの触れ合いでも喜んでしまう自分を確かに感じている。
(......無理だよ。私から、この手を振り解くことなんてできない)
グリジットの大きな手は他の誰かのもの。
でも今、こうして触れてくれているのは彼の意思だ。
だからファルナは、グリジットから手を離してくれるまでずっと動かずにいた。
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